第11話

「………ゴーレム。」

 

 断崖絶壁の山を見てるかのように聳え立つゴーレム。ある意味、石と岩の集合体であるゴーレムなのだから無理もないのだろう。


「ちっ....何でこんなレベルでこいつが出んのよ。」

「いや〜参ったね。これは。緊急事態だね。」


 いつもと雰囲気が変わらないように見える2人であったが、彼女たちから一抹の不安感が感じ取れた。


「それじゃ、先手必勝ってことで!」

 

 その場から駆け出し、一瞬で最高スピードに達したと思ったら、その勢いのまま弾丸のように膝蹴りを喰らわせる。でも........


「硬い!!」


 強固な壁に当たったかのように先ほどまでの勢いは無となった。


「戦道先輩の膝蹴りでも傷1つ付かないなんて、どれだけ頑丈なのよ!」

「本当だよ!! 僕のスーパーウルトラミラクルハイパージェネレイトキックをお見舞えしてやったのにさ!!」

「ネーミングはともかく、あんな硬そうなのを攻撃しても怪我一つしてないのはやっぱりすごいですね、先輩、」

「いや、ちゃんと傷ついてるから、ズキズキと痛むよ......心が。だって、あいつを一撃で倒せなかったんだもん。」


 すごい。俺が言うのもなんだが、陣条さんも中々に入り込んでいるな。

 先輩の方は人間の体から鳴ってはいけないような音が聞こえてきたが、あんなにピンピンしているのだから、いまどきのVR技術と言うのは進化しているのだと改めて思わされる。


「……でも、先輩これ本当にどうするんですか?」

「……やっぱりそうだよね。これはちょっとまずいかな。」


 大きな巨体を振り回しながら避けようとする彼女たちに攻撃を当てようとしている。それを軽々といなす彼女たちだが、何だか声色はあまり良くなさそうだった。


「あいつとやりやってたせいでこっちは全然魔力がないのよ!!」

「僕もジャージが重くて力が出ないよ!!」


 ………………いや、2人とも俺のせいかよ!!

 これに関しては悪気があってやった訳ではないし、むしろ相手のせいの場合だってあったし俺だけが悪い訳じゃないよな!!


 というか、何で急に..............いや、待てよ。

 

 これはいわゆる『見せ場』というやつじゃないか?


 勇者曰く、ピンチに陥った際に自身の魂に刻まれた力が覚醒したと。

 ハンター曰く、自身の死をも代償として覚悟することで覚醒したと。

 王曰く、自身の弱さと計り知れないほどの罪を認めたことで覚醒したと。

 髪の毛を変色させるほどの超人曰く、仲間の死への怒りが湧き上がったことで覚醒したと、


 今、この瞬間が俺にとっての覚醒シーン、『見せ場』というものなのだ。


 強敵が現れ、仲間がピンチに陥る。こんな定番の『見せ場』を彼女らは作ってくれたのだ。新入仮部員の俺のために。

 ならば、これに報いず、彼女たちに何と言えばいいのか。

 

「安心してください。ここは俺がやりましょう。」

「はぁ!? 何言ってるのよ、成宮海斗!!」

「そうだよ! 危ないからこっちに来ちゃダメだ。」


 敵と対峙しながらもこちらに気を配る。彼女たちにもそんな余裕などあまりないにも関わらずだ。

 こんなにも盛り上げてくれているのに何もできないなんてカッコ悪いよな。


「大丈夫です。これは俺が覚醒するために神が与えた試練なんですから。」

「いや、あんた頭おかしいでしょ!! こんな時に何言ってんのよ!!」

「覚醒......よし、わかったよ!! そんな大事な場面ならここは彼に任せよう!!」

「いや落ち着いてください、先輩!! こいつ適当なこと言ってるかもしれないじゃないですか。というか、覚醒って言葉に乗せられないでくださいよ!!」

「いや、だからこそ乗るんだよ、この波に!!」

「先輩も適当なこと言わないでください、もう〜何でここはこんな人しかいないのよ!!」


「……さぁ、行くか。」


 陣条さんの叫び声と共にあのゴーレムへ向けて駆け出す。


「って、何やっているのよ、成宮海斗!! あんたにそいつは危ないわよ!!」


 遠くから何か聞こえてくる気がする。

 だが、今はそんなこと気にならない。

 むしろ、頭の中がスッキリとしていく。


 ーーこれなら何でもできそうだ。


 極限状況のスポーツ選手が入ると言われているゾーンのような感覚に近いのだろうか。


 一歩、また一歩と。あの巨体に近づくたびに心臓は高まるのに頭の中は動くようになる。


「グワッーー!!」


 無機物なのに獣のように叫ぶ声が頭に響く。それでも俺の足は止まらない。


「これで決まりだ!! メテオファイナルブラスターキャノン......」


 ボロッボロッボロッボロッ


「いや、最後まで言わせてくれよ!!」


 ゴーレムに向けて拳を振りかざした瞬間、触れようとした場所から光の塵となって消えていった。

 

 ……せめて最後まで技名は言いたかったな。


◇◇◇


 彼らには気づかれないように遠く木の上から眺めていた。今回はちょっと仕掛けをしたから危ない時は出ようと思っていた、けど、.......


 山の中から嫌な気配が消えた。


 それは目で見ていた光景が確かであることを証明してしまったと言うことに他ならない。


「……あんさん、ほんまに何もんや?」

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