第10話
異能お
パキパキパキパキ
卵の殻が割れるかのように何もない空間が壊れ、崩れているように見える。まるでその空間を触れば、触れられるかのようにそこに実体があるかのようにそれは存在していた。
……………………あぁ、これほどまで進化していたのかバーチャルの世界!!
そんな美しくも儚い幻想的な光景。
永遠とも思えるほどのこの刹那の時間も終わりを告げる。
「来るわよ!!」
陣条さんの叫び声に一層緊張感が走る。幾分か俺も実体のないものを相手にしているのに心臓の鼓動が早くなる。
バリンッ!!
これまでより一際大きく聞こえた崩壊の音。それと同時に中から何かが一斉に流れ出てくる。
「あれは........」
巻き上がった砂煙が徐々に消え、その姿が現れる。
固体とも液体とも言えない体に、膝の高さもないほどの小ささ。そして何よりも自然から生まれたとは思えないほどに綺麗な青色の体。ーーそこにはいわゆるスライムがいた。
「すげぇ〜〜〜〜〜!!!」
年甲斐もなく、大声を出してしまったが、今回は致し方ないと思う。
だって、スライムだぞ、スライム!!
剣と魔法の世界とか、ドラゴンとクエストの世界とかに出てくるあのスライムが今俺の目の前にいるんだぞ。これがバーチャルだったとしても冷静でいられると思うか、答えは否である。こんなリアリティのあるスライムもメガネ越しでスマホのカメラとかで撮れば、綺麗に........
「ファイヤボール!!」
「いや、何やっているんですか!!」
人が感傷に浸っている間にその美しくも儚い生き物は火だるまへと変化してしまった。
「何やってるって? 見れば分かるでしょ、燃やしてんのよ。」
「だから、何でですか!! こんな可愛らしい子達を傷つけるなんて俺にはできません!!」
「はぁ? 何言ってるの、あんた。目の前に敵がいるんだから倒すのは当たり前でしょ?」
あぁ、そうなのか。この状況をようやく理解できた。
もし、剣と魔法の世界だったり、ドラゴンとクエストの世界だったりすれば、目の前にスライムがいて倒さないという選択を取る人の方が少数だ。むしろ、倒さないという人は面倒だったり、経験値があまりもらえなかったりする人が大半であり、俺みたいに愛玩動物として扱いたいからという理由で殺さないという人はほとんどいない。
要するにこの世界で間違っているのは俺の方なのだ。
だからこそ、視界の片隅にいる先輩と嬉々として敵を蹴って殴って縦横無尽に駆け回っているのだろう。
殴られ、蹴られて空の彼方へと飛ばされていくあいつらを見て涙が出てくるのも俺だけなのだろう。
だが、俺は問いたい。こんな世界でいいのだろうかと。
勇者と呼ばれる者がお金やアイテム欲しさに人の家に入り込み、壺を割って旅の軍資金にすることが良いことなのかと。
自分よりも一回りも二回りも大きいモンスターを命懸けで狩ってもにんじんやじゃがいも一つと値段が変わらないのは対価として見合っているのかと。
こんな理に固められた世界を俺は否定したい。俺の足元で彼女たちから逃げるようにして震えているように見えるスライムのためにも。
震えるこいつのことを優しく包み込むように抱き抱える。
しかし、そんな俺の思いとは裏腹にスライムは一瞬にして、俺の手元から消えてしまった。
「な、なぁ、なぜだ!!」
俺の愛も虚しく、あいつらは光の粉となって消えていってしまった。
「なぜなんだ!!」
「うるさいわよ、成宮海斗。さっきから何でそんなにテンションが変わるのよ!!」
まぁ、バーチャルなのだから、触れるはずはないのだろうが、それもこの時の俺の思考ではそう判断するだけの余裕はなかったのだろう。
「へ〜い! 大丈夫かい、後輩くん。ちゃんと倒さないと、ちゃんとレベルアップしないからね!」
彼女たちの手によって次々と発生してくるスライム達が倒されていく。
ーー俺は、こんなことのために異能を手に入れたかった訳じゃ.......
ピーピーピーピー!!!!
この場所には似つかわしくない、耳に響くような機械音。
パキッパキッパキッパキッ!!
その音ともにひび割れた空間がさらに広がり、先ほどのスライムよりも大きな、いや、それよりももっと、俺らと比べても数倍にも及ぶような......
「………ゴーレム。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます