第9話

「……メガネですか?」


 渡されたのは黒いフレームで一見どこにでもありそうなメガネ。レンズ部分も特別何かをされている様子もなかった。

 

「一体これは何ですか?」

「メガネよ。見ればわかるでしょ。」


 いや、それはわかるけどもだ。


「これの用途についてですよ。」

「メガネなんだから、見るためのものに決まっているじゃない。」


 だから、そうじゃない!!

 中々伝わらない意図にひどく頭を悩ます。だが、そんな考えも彼女には伝わらない。

 

「そんなごちゃごちゃ言ってないで、とりあえずそれつけなさいよ。」

 

 彼女のほうもなぜだかイライラした様子でメガネをつけるのを催促してくる。

 なんでだこっちの方が悪いのか!?


「……わかりましたよ。」


 いやいやと言うわけではないが、なんだか少し乗り気はしない。だが、ここで押し問答をしていても、話が前に進まないので付けることにした。


「…………あれ?」


 おかしい、おかしい。な、何だこれは?

 彼女から渡されたメガネをつけた瞬間、目の前には無かったはずの歪みのようなものが現れた。 


「何ですかこれは!?」

「………やっぱりあんたも見えてるのね。」


 ………やっぱり....あんたも....


「これは異能視メガネっ言って、まぁ簡単に言っちゃえば異能に関する大抵のものを見えるようにするメガネよ。」

「それでも、一部のものとかは見れなかったりするから完璧なものではないんだけどね。」


 なるほど、なるほど、理解したぞ。

 つまりはそういうことなんだな。

 やっとここまで来た意味を見つけられた気がする。

 これはいわゆる、


 ………仮想現実と言うやつか。


 あまり俺も深くは知らないが、最近だとA Iとか、バーチャルとかも進化しているらしい。今の時代くらいならこうやってメガネをつけるだけで現実世界とは違ったこの異世界的な空間も表現するのは可能なのだろう。


 だからこそ、俺は期待をしてしまう。


 これから先に起こるであろう、俺の想像をいとも簡単に超えてしまうような、そんな出来事を。


「それで見た感想はどう?」

「………あぁ、すごいな。」

「それだけ? もっと言うべき言葉があるんじゃないかしら。」

「……そうだな。忘れてしまうところだった。」 「そうよ、もっと、こう「これを作ってくれた製作者に感謝の言葉を!!」そうじゃないわよ!!」


 ……………………うん? 何か変なこと言ったか。まぁ、いいや。

 

 彼女に言われて思い出すとは、やはりこれが異能研究部に所属していた者と、そうでない者との違いなのか。


 あぁ、高校生活万歳!!


「はぁ〜、さっきも思ったけど、おかしいわよね、こいつ。」

「でも、こんくらいの動じない心を持っているから、あんな行動取れたんだろうし、これも能力に関しているのかしら。」

「それに、さっきの、あ、あれも...」


「うん? 何か言ったか?」

「な、何も言ってないわよ、変なこと聞くんじゃない、成宮海斗。」


 途中から風の音であまりよく聞こえなかったが、何か怒っている様子だったし、深くは聞かないでおこう。


「お〜これはすごいね。くっきり見えるよ!!」

「いや、先輩はいつも使っているでしょ。」


 何だか、楽しそうな話も聞こえてくるが、一体これから何が行われるというのだろうか。


「……うん?」


 はしゃいでいる先輩たちの姿を横目に辺りを見渡していると、急に風向きでも変わったのか春先にしてはひどく寒いような嫌な空気が辺りを覆った。

 加えて言うのならあれは大丈夫なのだろうか。


「先輩たち、これって大丈夫なんですか?」

「大丈夫って何がよ?」

「いや、目の前のアレですよ。」


 彼女らは会話で意識があまりこっちに向いて無かったのか、目の前で起きている変化に気づいていなかった。

 先ほど眼鏡を付けて見ていた空間の歪み。それが広がり、嫌な空気が漏れ出ている。そして、その奥からは普通とは違った何かの気配を感じる。

 最近の仮想現実ではメガネを付けるだけで視覚からの情報だけでなく、肌から伝わる感覚や鼻から伝わる嗅覚などでも情報が再現されて伝わる。


「もう先輩がそんなに遊んでいるからですよ........準備はいいかしら、成宮海斗。」

「うむ。何がいいのかはよく分からんが、準備は万端だ!!」

「いいね〜!! それじゃ今日も張り切って行っちゃおう!!」


 この後何が起きるのかどんな状況になるのかも俺にはわからない。

 吉と出るか、凶と出るか

 彼女らには悪いが、これから起こる恐怖よりもワクワクが勝ってしまう。


 あぁ、高校生活万歳!!

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