第6話

 私の家は魔術界隈で知らない人がいないほど有名な一家なのだ。


 だからこそ、私もその名に恥ぬよう努力をしてきたし、勉学のために異国の地まで来た。

 そこでも必死に勉強して家名に恥じぬような魔術師を目指すことは変わらない。


 だが、それでも私には私の意思があるし、私個人としてやりたいことがあった。そのために魔術が発達しているヨーロッパ諸国ではなく、日本に来たのだ。それは...


 ーーあの日見た少女漫画が忘れられなかっだからだ。


 国の中で一番と言われるほど魔術について記された本がある家の書庫。

 一日で目当ての本を探せるのかと思わせるほど、広い書庫にそれは隠されるよう置いてあった。


 子供の頃の私はそれが何なのかも分からず、ただ何かに導かれるようにして手に取り、そして、


◆◆◆


「…って、あんた!! 早く離しなさいよ!!」


……なぜ、俺は今、叩かれたんだ?


 訳もわからないまま、残った少しの思考力で現状を理解する。


 確か俺は、何か危ないと思ったから、あの中に突っ込んだ。そして、彼女を助けようとした。そしたら、ぶっ飛ばされた。..........全然意味わからん?


 一瞬、まだ正常に働いていない頭のせいかもと思ったが、しばらく経ってまともに働かせられるようになっても全然分からなかった。


 その間も彼女はわなわなと震えながら、俺のことを睨みつけ、なぜだか胸を押さえている。..........本当に意味がわからん?


「あんた、馬鹿っじゃないの!!」



 ここまで言われると、本当に何か馬鹿なことをしたのではないかと思ってしまうが、今はそれよりも気になることがあった。


……あ〜なるほど。これはすごい。


 かつての友人の中にはアニメや漫画といったものに熱中していた者がいた。


 その友人曰く、『美少女からのお叱りはご褒美ぶひ〜!!』と、


 この時はこいつ頭おかしいんじゃないかとも思ったが、実際に聞いてみると納得とまではいかないものの、言いたいことは何となくわかった気がする。


「……ねぇ、ねぇ、ってば!! 成宮海斗、聞いてんの?」

「…あ〜聞いているとも。敵意のない刃物はこんなにも優しいのかということだろう。」

「いや、そんな話してないし!! 本当にあんたってば馬鹿じゃないの!!」

「…まぁ、バカなのは認めよう。」それよりもだ....」


 思い返してみれば、火の玉に突っ込んだり、女の人の体を触ったり、バカなことをしていたのは認めよう。ただし、


「結局、さっきのはどっちが勝ったんだ?」

「それは......」


 先ほどまでハキハキと話していたのが嘘だったかのように下を向き、誰が聞き取れるのかというほどの小声であった。


「……よ。」

「うん? 何て?」

「……うりよ。」

「うん? 何て?」

「…あ、あんたの勝ちだって言ってんのよ、成宮海斗!!」

「うん? 何て?」

「いや、今のは聞こえているでしょ!!」


 相手が誰であれ、理由が何であれ、人の大切なものを否定されるというのは辛いのだ。

 それを彼女には今日の負けたという屈辱から少しでも理解してくれれば嬉しいのだが。


「今回は俺の勝ちだったが、お前の魔法も凄かったぞ。」

「魔術!! 私のは魔法じゃなくて魔術だから!!」

「あ〜そうだったな。すまない。すまない。」

「……まぁ、そういうことだからあんたのことちょっとは認めてあげるわよ。」

「……認めてあげる?」


 一体何のことだ?


 先ほどとは違った意味で頭を悩ませる。

 何が認めてもらうことがあっだだろうか? それ以前に何で上から目線なんだ!?


 でも、本当に何なんだ? 許可をもらう必要があることをした覚えはないし、こんなに上から言われる筋合いもない。


 もしかして、以前どこかで会ったことがあったりしたのか? というか、ここはどこで、、俺は誰なんだ!? 俺は何で、どうしてこんな戦いをしていたんだ!? 


 何か大切なことを忘れているような不安感で頭が覆われしまう。


 一体.......何を.......


「… それで今日は何をするんですか?」


「聞いていた予定ですと、いつも通り数件の依頼をこなすといったところではなかったでしょうか。」


「お〜いつも通り、殴って、蹴って、頑張っちゃう!!」


「また何か壊したりしたら、罰金とお仕置きだから覚えておいてね。」


「そないな怖いこと言わんといてな。アンちゃんの可愛い顔が台無しやで。」


 廊下から数人の声が聞こえる。

 その声は段々と近づき、俺らが今いる教室の前で止まった。


 自分の目で直接見なくてもわかるほどのオーラ。それと対峙した瞬間から早鐘を打つように早くなる心臓の音。


 そうだ、思い出した。俺がここに来たのは......


 「…へぇ~、珍しいお客さんやな。」


 ここに俺が来たのはこの部活に入るためだったということを。


「それであんさんは敵か、味方かどちらかな?」

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