第5話

「…….なんで…あいつに当たらなかったんだ.......」

 

 驚き、困惑した様子今起こったことを理解しようとしている。いきなり自分のやったマジックに突っ込もうとしてきたのだから、当然と言えば、当然なのだが...


「……種はわからないけど、防げるって言うんだったら、もう少し本気を出すだけよ。」


 先ほどと同じ工程を踏みながらも、糸ようなところには大きな光が通り、前回より大きな火の玉が現れる。


「……ファイアボール!」


 先ほどより語気が強まり、発射されたスピードも速くなっている気がする。だが......


「……噴ッ!!」


 こんなものでは退くことはない。


 火力は先ほどより増している気がするが、これで俺の心を壊すことができると思っているのだろうが。

 そうだとしたらそれは俺のことを甘く見過ぎだ!!


 これまで、教師に説得されようとも、友に軽蔑されようとも、親に落胆されようとも、近所のお爺さんにガチの心配をされようとも変わることはなかったのだ。


 そんな俺が火の玉をこの身に受けるということ如きで臆することはないのだ。実際、子供の頃に窮地に立った時にこそ異能が覚醒すると思っていて燃えている家の中に突っ込んだことだってあるしな。


 というか、先ほどから自分が臆して消しているのに、なぜそうも強くいられるのだろうか?……何とも不思議だ。


「いいわよ。それなら何発でもやるだけよ!」

「ファイアボール!」


 蝶のように突っ込み、


「ファイアボール!」


 蜂のように突っ込む。


「ファイアボール!!」


 いまだに当たることのない火の玉を発する彼女に苛立ちと疲れ様子が見られた。


「ちょこまかと....本当にあんたどうなってんのよ!!」


 わなわなと震えながら、叫び声を上げる彼女。次第に正気を失っていくように目の焦点が合わず、どこか虚空を見つめているようにさえ見える。


「……こうなったら、あれしか。」


 そうして呟かれた言葉は俺の耳には届かなかったが...


「ファイアボール!!」


 そのはずだったのだが、


 ……


 いや、実際には届いてなく、それでも俺には聞こえたような気がした。

 

 ーー爆発する


 その直感とも、第六感とも、勘とも呼べるような力。

 その力に導かれるように俺は.....


〜〜〜



 当たらない。


 最初の疑問はそこだった。


 何かに阻まれてるのか、何かに変換されているのか、何かで消されているのか、それとも本当に当たっていないのか、はたまた.....


 当たらない。当たらない。


 だが、次第にそんな疑問も意味を持たないのではと思うようになった。


 当たらない。当たらない。当たらない。


 10%、20%と魔力を次第に増やしていっても、それらはことごとく無かったことにされ。


 当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。


 魔術を撃つたびに、火力を上げるたびに、浮き彫りとなる実力。


 当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。


 そんなこと、私にもわかっていた!!それでも...


 当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。当たらない。


 当たれ。


 当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。当たれ。


 当たれ!!


 その時だった。


 水面の氷が割れたかのような、

 落としたワイングラスが粉々に砕けたかのような、

 魔術師にとって最悪の音が聞こえたのは。


「……やば。」


 流した魔力量に耐えれなくなって粉々になった魔法陣。

 その次にくるのは身に染みて覚えてる。

 行き場を失った魔力の暴走。つまり、今回で言うのなら、


「……ぶない!!」


 ……爆発だ。


 ブァン!!


 目の前で起きた爆発と風圧でしっかりとした感覚はないが、飛ばされているのだと思う。

 …………………………だが、なぜだろう。


 爆発による痛みや熱さを感じないどころか、背中を壁や床に打ちつけた痛みでさえも感じない。


 ーーこれはもう死んでしまったのだろうか。


 最悪の想像を頭の片隅に入れながらゆっくりと目を開ける。


「……お、お〜い! 良かった、大丈夫か? 頭とかは打ってなさそうだけど...」


 結論から言おう。死んではいなかった。だがしかし、なぜだか私は頭を胸に寄せられ、お姫様抱っこのように抱き抱えられている。


…………王子様。



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