第4話

「先行は譲ってあげるわ。」

「そうか。なら、ありがたくいただこう。」


 ふっ、まさか高校で、しかも初日にこれができるなんて思ってなかったな。


「さて、やるか...」

「…ええ、来なさい。」


「理より外れ、魔に染まりし力。世界を破壊し、、古より伝わりし力。全てを焼き尽くす業火の炎となりて汝の名のもとに我、発動する………………ファイヤーボール!!!!」

「……」


 ……………………決まった。あぁ、なんといいものか。

 

 いつか誰かとできたらいいと思って、密かに練習していた甲斐があったものだ。そう密かに毎日1時間は必ずやっていたのだから、使える機会が本当にあってよかった。


 これならどれだけのダメージが与えられるのだろうかとワクワクしながら、彼女の方を見る。だが、


「…あんた一体、何やってんの?」

「…えっ?」

「いや、だからあんた何やってんの? 本当にやる気あるの?」

「……うん?」


 ………なぜ、ダメージが与えられてないんだ?

 両者の頭の上にハテナマークが浮かんでいるように見える。いや、倒れてくれよ。それかせめて、少しはダメージを受けたふりでもしてくれよ。というか、何でダメージが与えられないんだよ!!


「いや、何でダメージ受けてないんですか!!」

「いやって言われても.......逆にあんたは、そんなのでダメージが与えられるとでも思ってるの?」

「………そんなの、だと。」


 彼女は俺の渾身の一撃をそんなの、と言ったのか...


「…わかった。」

「もしかしたら、あなたにとっては、俺のこれまでの人生をかけて放ったこの技に少しだけ何かが欠けているように感じていたのかもしれない。物足りなさを感じたのかもしれない。」

「…だが、そんなに言うのならあなたはもっとすごい技を見せられるということだと考えていいか。」


「… …やらないわよ。」

「魔法も使えないあんた相手になんで、私がやらなきゃいけないのよ。」

「……はあ?」

「あんたがそれを本気でやってるのか、手を抜いてやっているのかはわかんないけど、今のあんたに見せる価値がないのは確かだと思うわ。」

「….へー。そうかい。そうかい。」

「何、何か文句でもある?」

「別に文句なってないですけどねー。」

「ただ、あなたが言うところのそんな大した事もない奴から逃げるような弱虫だったなんてなぁ。」

「……弱虫。」

「いや、ただの独り言ですよ。もしそんな弱虫がいたら、その弱虫もたいした魔法が使えないんじゃないのかなあって。」


「へぇ〜あんた、結構言うじゃない。」

「………いいわよ。じゃあ見してあげる。」

「あんたのそんなお子様遊びなんかよりは確実に良いものを見せれるかな。」


 そう言うと、彼女はどこからか取り出した本を片手に部室の壁に立て掛けてあった杖を持つ。


「今更、後悔なんかするんじゃないわよ。」


 空中に杖で何かを描き始める。


「……出よ、陣。」


 すると、彼女が何かを書き上げていた空間に、魔方陣のようなものが浮かび上がる。


 ……何だこれ!!!!


 心臓がバクバクと、急激に心拍数を上げるが、先ほどのこともあるから、顔には出さないようにする。


「逃げるなら、今よ。」

「……ご冗談を。」


 ここまで来て、逃げるなんて事はできないだろう。

 大きく息を吸い、これから起きることに意識を向ける。


「….じゃあ、加減はしないから避けるなら避けなさい!」


「…ファイヤーボール。」


 彼女の目の前にあった魔法陣のようなものは、彼女の言葉で赤く発光し始め、中央から火の玉が出現する。


「… .いけ。」


 彼女の言葉に反応したのか、現れた火の玉はまっすぐと僕の方へと飛んでくる。


 ……そうか、そういうことか。


 飛んできた火の玉に一瞬、思考が止まってしまうが、その一瞬で理解し、俺は火の玉の元へと突っ込んでいく。


「あんた、何やってんのよ!!」


 彼女の声もむなしく、火の中へと...


 しゅん。


「えっ、消えた!!」


 ……ふっ、やっぱり。


「あんた何をしたのよ!?」

「……別に、何もしてないさ。」


 そう、何もしていない。

 ーーだが、それが答えだ。


「……君は魔術師だろ。」

「……そうだけど。それが何かした。」

「……やっぱりな。」


 俺の導き出した推測が確信と変わった。

 彼女は魔術師………………つまり英語で言うところのマジシャンなのだ。

 彼女も彼女なりに異能というものは探求してきたのだろう。それは何日も、何ヶ月も、そして何年もしてきたのだろう。それこそ、彼女の青春と言われる時間も費やしてきたのだろう。

 それは彼女の洗練された技術から見て取れる。

 

 ーーだがしかし、それは俺も同じである。


 この世に生を受け、自我と言うものを理解したくから俺は異能のために生きてきた。それも、彼女が異能のために費やしてきた時間や金、、青春に交友関係。そのどれもが彼女以上だと自負している。


 だからこそ、俺にはわかった。彼女の持っていた杖先から魔法陣の中心に向かって、糸のようなものが見えたことが。

 そして、その糸を何か光のようなものが通り、魔方陣に到達したところで、火の玉が発生した。

 仕組みはまだわかっていないが、そういう流れで火の玉を発生させていたのだ。


 だからこそ、あの瞬間。僕は彼女の魔法陣から放たれた火の玉へと突っ込んだ。

 ああ言うマジックで使う炎は継続せず、一瞬で消えてしまう。それを知っていたからこそ、普通の人なら反射的に避けてしまうところでも突っ込んだのだ。

 

 彼女のマジックは一見すればすごいものである。いや、一見しなくてもすごいものであるものだとわかる。それこそ魔術と呼べるような代物であると俺も思う。


 ……だが、彼女は俺の異能をそんなものと言った。


 これまでも、異能のことで馬鹿にされることは何度もあった。

 それは親であったり、友人であったり、はたまた見ず知らずの人であったり、とにかくいろんな人から言われた。

 でも、その誰もが異能を信じていなかったし、異能に興味すら持っていなかった。


 けども、彼女は違う。

 この部室に来て、異能の話をしてわかった。

 彼女は異能を信じているし、異能にも興味を持っていた。


 なのに、人の夢を否定した。

 ーーだからこそ、俺自身も彼女の夢を認められない。


 

 

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