第二十二話 真の目的(二)
「……それを一日で開発したのは褒めて差し上げましょう。ですが納品が間に合わなければ意味がありませんよ」
「新たに開発したのではなく既に販売している商品です。在庫がたっぷりあるので納品するだけで済みました」
「在庫管理も倉庫連携も完璧。素晴らしい」
護栄様はまたぱちぱちと拍手をした。
止めてくれないかなそれ……
「で、でも饗宴用衣装はそれでは困りますわ」
「はい。なので細かな形状と生地はまだ考え中ですが基本形状は変わりません。納品期日には間に合います」
侍女の皆様はぐっと黙った。
……すごい睨まれてる。これどう決着すればいいの?
どうしたって和解できる道が見えないけど、護栄様がすっと前に出た。
「ということで服作りは困りませんでした。あなた方が困るのはもっと別のことです」
「別?」
護栄様はにやりと妖しく微笑んだ。
……なんか星宇さんと笑い方似てるな。
「本件担当侍女は全員業務放棄。これは次回給与査定の判断材料となります」
「な、何ですって!?」
「加えて殿下が人道的立場より推進している孤児難民保護、及び生活困窮者支援活動の成果である下働きを軽んじる言動は殿下への暴言と同義。そのうえ来賓であられる立珂様のお墨付きで殿下が選抜したお二人への暴言。どちらも不敬罪及び名誉棄損で宮廷特別裁判の実施となりました」
「は!?」
裁判てあの、いわゆる裁判!? これそんな話なの!?
私は慌てて星宇さんを見上げたけれど、いつものように妖しい笑みを浮かべている。
あ、これ黙ってた方が良いやつ……
「こんなことで裁判ですって!? 何を馬鹿な!」
「馬鹿? 皇族への不敬及び暴言暴挙は特別裁判とする法を定めたのは先代皇宋睿ですが、馬鹿でしたか。そうですか」
何か聞き覚えのある話……
ひどく演技じみた言い方は確実に嫌味だ。宰相様がこんな子供っぽいことするとは思わなかった。
さては侍女の皆様よりずっと嫌味だなこの人……
「査定はこれまでの勤務状況も踏まえますが、特別裁判となった以上は減俸もしくは退廷を覚悟なさい」
ふいに私は既視感を覚えた。
それは店に先代皇派という男が押し入ってきた時のことだ。星宇さんはわざと殴られて先代皇宋睿の法に則った罰を受ける必要がある状況へ追い込んだ
星宇さんといい、頭良い人ってみんなこうなのかしら……
*
「私からは以上です。お二人から何かあればどうぞ。星宇さんはどうです?」
「私は特に」
「朱莉さんは」
「え、ええと……」
困ったな。嫌味だけど饗宴用の考案は一緒にやってほしいのよね。礼儀作法なんて分からないから私の考える服が饗宴に相応しいか分からない。そうなれば護栄様の失態となる。
ちらりと護栄様を見ると、美しくにこりと微笑んでいる。星宇さんも同じように微笑んでいて、ちっとも妖しさはなくとても美しい。
……そうか。これは私の対応を試されてるんだ。
このまま侍女の皆様を罰しては饗宴が失敗するかもしれない。護栄様は先代皇派から返り討ちにあうだろう。
私は固く目と拳を握ると、すうっと深呼吸をして侍女の皆様に向き直った。
「種族や出自が違う他人を理解するのは難しいと思います。でも殿下のお志通り、皆が幸せになれるのが良いと思います。そのために私の服がお役に立てるのなら全力を尽くします。ただ、私は宮廷の礼儀作法が分かりません。今から勉強したとて付け焼き刃です。なので既に完璧な皆様に監修いただきながら考案をしたいのです。どうか力を貸して頂けないでしょうか!」
私は勢いよく頭を下げた。
饗宴を失敗するわけにはいかない。でも上から目線で見下し嫌味を言うだけの人に頭を下げろと言っても下げはしないだろう。
なら下げる! 私が許してもらう形にすれば嫌々でも頷くはず! それで裁判が避けられるなら絶対頷く!
星宇さんならもっとうまくやるかもしれないけど私にはこれくらいしかできない。私は頭を下げたままぎゅっと拳を握っていると、ぽんと優しく肩を叩かれた。
「……分かりました。ぜひ協力をさせてください」
「は、はい! ぜひ! 有難う御座います!」
「では一旦裁判は無し。今後の姿勢次第で減刑を検討します。しっかりお願いしますよ」
「承知致しました」
侍女の皆様全員が一斉に頭を下げた。はきはきとした返事は実に心地良い。
最初からそうしてくれれば良いのに……
でも侍女の皆様はごめんなさいね、と微笑みかけてくれたので良しとしよう。
けれど星宇さんはまったくこちらに参加せず、護栄様と睨み合っていた。
「先代皇派鎮圧という真の目的は達成できましたか」
「宮廷で働く気になったらいつでも言ってください。歓迎します」
……もう少し普通にお喋りできないのかしら。
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