第十七話 新しいもの(二)
翌日、私は開店準備をしながら星宇さんに相談をした。
「星宇さん。薄珂様にお会いすることってありますか?」
「……無いが、何故?」
「えっと、立珂様にどうしても伝えたいことがあるんですけど整理券が取れなくて。だから薄珂様に会うことがあれば伝えてもらえるかと思って」
「薄珂様か……」
星宇さんは露骨に嫌そうな顔をした。こんなに嫌悪感を押し出す星宇さんはやはり珍しい。
「あの、星宇さんて何で薄珂様のこと嫌いなんですか?」
「……嫌いなわけじゃない。ただあまりにも考えが読めなくてな。苦手ではある」
「星宇さんにもできないことあるんですね」
「何だそれは。当り前だろう」
「だって最初からずっと色んなこと助けてくれてるから。星宇さんがいなかったらお店続けられてないと思います」
「それが果たして偶然か必然か」
「え?」
「いや。特に会う予定はないが、何かあったのか?」
「ああ、はい。実は有翼人の赤ちゃんには天然素材が良いらしいんです」
「天然素材?」
「はい。母が言ってたんですけど、有翼人の赤ちゃんは天然素材の生地がかぶれないそうですよ。茉莉ちゃんはどうでした?」
「ずっとかぶれてた。へえ。そうなのか」
「けど天然素材生地ってすごく高いじゃないですか。うちじゃ難しいけど立珂様なら出来ると思うんです。だから検討頂けないかなと思って」
「……ほお」
星宇さんはにやりと笑った。いつものような妖しい笑みだ。
「それは誰にも言うな。俺が良いというまで一切口外するな。特に薄珂様と立珂様には」
「は、はあ。でもいつかは伝えてもらえます?」
「もちろん。ただ最良の時を選ぶ。これは良い」
何だか分からないけど、星宇さんは元気になったようだった。
今すぐ伝えられないのは残念だけど、星宇さんがそう考えるならきっとそれが一番良いのだろう。
するとその時、こんこんと扉を叩く音がした。
開店前なのにお客さんかな。
「はーい」
私が扉を開けると、そこにいたのは暁明さんだ。
「ちょっといいかな。ちょっと相談があってね」
「はい。中にどうぞ」
私は暁明さんを中に案内すると、暁明さんはいそいそと何かを取り出し私に見せてくれた。
白い上質な封筒で手触りも良い。
「これは?」
「招待状だよ。瑠璃宮で品評会をするそうなんだ」
「瑠璃宮といえば宮廷直営の百貨店ですよね」
「ああ。出店している店の商品を一堂に並べて瑠璃宮総責任者の紅蘭様がご覧になる。もちろん蒼玉も出すが、朱莉ちゃんの服も出したらどうかと思っててね」
「え!?」
「けど瑠璃宮は高級品ばかり。うちの庶民向け商品は歓迎されないと思いますが」
「今回は方向性が違うんだ。紅蘭様も立珂様の想いに触発されたようで、品質よりも本質を重視したいという。有翼人にとって必要な物をより多く見付けることも今回の目的となっている。どの店も有翼人専用商品の開発に取り掛かってる」
「なるほど。それならうちが最先端でしょうね」
「ああ。だがやはり無名の店を出店させるのは難しい。そこで蒼玉の出品に含めて出してもらえないかと紅蘭様直々のご要望を頂いた」
「直々にですか!?」
「ああ。これは大変な名誉だ。紅蘭様は先代皇の御側室でいらしたが、当時から国民を憂い今は天藍様へ積極的にご助力なさっているらしい。どうだい、やってみないか」
「やりたいです! ぜひお願いします!」
「それはよかった。じゃあ早速商品を選ぼう。間に合うなら一点物を作っても良いだろう」
「はい!」
私は嬉しさのあまり即答した。けれど星宇さんはまた少し難しい顔をしていて、私はやはりそれが少し気になっていた。
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