第十四話 守られたもの(一)
「何してるの! なんでいじめてるの!」
「そ、それが、あの子が立珂様の服を盗作してて」
「う!? してないよ! 朱莉ちゃんは自分で考えたんだよ! それに全然違うものだよ! 僕のはお洒落着だけど朱莉ちゃんのは普段着なんだ! あれとっても良い服なんだよ!」
「でも同じ構造なんですよ。分割のお洒落」
「それは僕が型紙あげたの! だって僕が作れるのお洒落着だけなんだもん! 毎日着る服は作れないの! でも朱莉ちゃんが作ってくれるからあげたの!」
立珂様は私を守るように両手を広げ、聴衆との間に立ってくれた。
そして憤慨した立珂様を薄珂様がひょいと抱き上げ、薄珂様も私を背に隠してくれた。
「それにそれを言ったら服という存在自体が盗作だよ。最初に誰かが作ったのを模倣しそれが広まった。それは罪?」
「い、いえ……」
「技術なんて自然と広まるものだよ。立珂だって南の有翼人専用服を参考にしたんだし」
「そうだよ! 僕がいっぱいいれば遠くにもお届けできるけど僕はいっぱいいないの! けど朱莉ちゃんがお店作ってくれたから前よりたくさんの人が元気になったよ! 他にも作りたい人がいるなら作ればいいよ! それで有翼人の生活が良くなるなら僕は嬉しいもん! なのにどうしていじめるの!」
聴衆はのどよめきはどんどん大きくなっていった。
そしてみんなが静まりかえった頃、聴衆の中から何人かが前へ出て来てくれた。それは常連となってくれたお客さんの数名だった。
「新作の予約って今日からよね。まだ枠あるかしら」
「俺も羽結い紐が切れちまって。新しいのあるかい」
「あ、あります! あります!」
まるで合図でもされたかのようにたくさんの人が集まり始めた。星宇さんは待ってましたとでも言うかのように扉を開き、閉じてしまわないように重しを置いた。
お客さんはまだ入り難そうにしていたけれど、それを察したのか立珂様がばっと手を上げてくれた。
「僕も買おーっと! 薄珂! 朱莉ちゃんのお店いきたい!」
「肌着欲しいんだよな」
「うんっ! 僕もおうち用のがほしい!」
薄珂様は聴衆に背を向け、立珂様を抱っこしたまますたすたと店内へ入っていった。
そして、それに続けとどんどんお客さんが入店し、星宇さんに背を押されて私は店内へ飛び込んだ。
それからしばらくすると新作は予約上限に達し、再生産の予定までもが立った。子ども服は店頭分が一斉に完売し、倉庫在庫を取り寄せる予約を受けた。これも全て完売となり、同じく再生産が必要となった。普通なら納品にひと月は待つのだが、星宇さんは十日後に入荷予定と告げた。どうやらこの事態をみこして既に発注をかけていたようだった。
こうしてまたたく間に全商品が倉庫分まで完売となり、日中だというのに営業終了となった。
「立珂様! 本当に有難うございました!」
「ううん! 間に合ってよかった!」
「間に合って? 偶然いらしたんじゃ……?」
「おにーさんが教えてくれたの。朱莉ちゃんが困ってるって」
「星宇さんが?」
ぱっと振り向くと、星宇さんはにやりと笑った。
「いつの間に?」
「さてな」
「……教えてくれればよかったのに」
「あんたの悲痛な叫びがあるとより効果的なんだ。顧客増えるぞ」
「星宇さん……」
こうして私の盗作騒ぎは立珂様公認という看板を手に入れる形で終着した。
しかしまだ終わってはいなかった。更なる問題がこの日の夜にやって来たのだ。
「はい、そこまで」
「きゃっ!」
「さすがにそれはやりすぎだ」
街が寝静まっても私は店に残っていた。もちろん星宇さんもいて美月も来てくれている。
星宇さんが捕まえたのは店の裏手でもぞもぞと動いているもの、それは一人の少女だった。
「この子は……」
少女はたっぷりの油と火の灯った蝋燭を持っていた。
放火……?
私は少女をじっと見た。少女はぷいっと目を逸らしたけれど、私は覚えがあった。
さっき一番最初に盗作呼ばわりした子だ。
「……そっか。立珂様が大好きなのね」
「は!? 馬鹿言わないで! 一番悪いのはあいつよ!」
「え?」
少年は今までで一番怖い顔をした。ぎらぎら憎しみの炎が揺れる瞳に私は思わず後ずさったけど、星宇さんは平然と少女の顔を覗き込んだ。
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