第十二話 子供服(二)
それから茉莉ちゃんと服を考えて、日が暮れ始めた頃に星宇さんがばたばたと走ってやって来た。
「すまない! すっかり遊び相手をさせたな」
「いいえ。私も茉莉ちゃんにいっぱい遊んでもらって楽しかったです。それに子供服どういうのが良いかも分かったし」
「そうか。どんな服にすることにしたんだ?」
「成人用のいくつかを茉莉ちゃんの寸法にして、少しずつ形状に手を加える感じです。あとは肌着」
「肌着は幾つか持ってるだろう」
「あたらしいの! すっごくお洒落な生地があるのよ!」
茉莉ちゃんは机に広げていた生地のうちの一つを握りしめて星宇さんの目の前にぱっと広げた。
それはいつもの服を作る生地とは違う。糸をかぎ針でで編んだもので、花や幾何学模様を作り大きな一枚の生地や紐にした物だ。
「編み物か? 透かし模様だ」
「はい。響玄様が下さった生地なんですけど、結構丈夫なんです。そのまま洗っても大丈夫」
「面白いな。だがこれじゃあ肌着にはならないだろう」
「肌着というよりお洒落を加える薄い衣ですね」
私は茉莉ちゃんの裾に透かし編みを簡単に縫い付けた。ぐるりと一周付けると、茉莉ちゃんはくるりと回って全体を見せてくれる。
「じゃーん!」
「へえ。大分印象が変わったな」
「そうでしょう。茉莉ちゃんに聞いて分かったんですけど、子供は服の形状に差を感じにくいみたいなんです。使う布面積が少ないでしょう? だから形での工夫に限界があるんです。箱ひだも全円も大人ほど豊かには作れないし、そうなると下向いても本人には同じ服に見える」
「確かに自分じゃ見えないもんな。あ、しょっちゅう俺に見せて可愛いか確かめてるのはそれでか」
「うん。茉莉みえないの」
「けどこれなら履くだけで全然変わる。袖に付けても可愛いかな」
私は茉莉ちゃんを引き寄せると袖にも透かし編みを縫い付けた。本当に簡易的だけど、それでも大きな透かし編みが袖に付いているだけで雰囲気は全然違う。
「だいすき! すそとおそでがおそろいでとってもかわいい!」
「これは服に付けてますけど、裏地代わりの衣にしても良いかなって。特に裳は二段になると動きが増えて見栄えも良くなります」
「いいじゃないか。これは大人にも良いんじゃないか?」
「はい。子供限定の物じゃなくて、大人も子供も使える物を増やそうかなって」
「そうだな。子供服は受注生産でいいだろう」
「茉莉が一番さいしょなんだよ! まだ売ってないんだよ!」
「そうか」
茉莉ちゃんは星宇さんの足にしがみ付いた。星宇さんはお兄ちゃんの顔をして茉莉ちゃんを撫でるとひょいと抱っこする。
「ちゃんとお礼言ったか」
「あ! お姉ちゃん有難う!」
「どういたしまして。私も良い商品が作れそう。完成したらお兄ちゃんに伝えるからまたお店に来てね」
「うんっ!」
そうして星宇さんと茉莉ちゃんは仲良くくっついて帰って行った。
茉莉ちゃんは最後まで笑顔で手を振ってくれてとても嬉しかった。いつもとは違う星宇さんを見れたのも、なんだか嬉しかった。
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