第十二話 子供服(一)
私は今、天使を目の前にしている。
「っこ、この子は」
「妹だ。ほら。挨拶」
「
茉莉ちゃんはにっこりと満面の笑みを見せてくれた。大きく口を開けて溢れさせる笑顔は眩しくて、背の羽も私よりずっと白くて笑顔と共に輝いて見える。
ふっくらと丸い頬はほんのりと赤く、大きな目はわくわくと期待に満ちている。
茉莉ちゃんはとても可愛くて、私は思わず抱きしめ頬ずりをした。
「か、か、かわいい~~~!」
「きゃー! あはは!」
「いらっしゃい! 今日はいっぱい服考えようね!」
「うんっ!」
私は茉莉ちゃんを抱き上げ作業台へ向かった。
商品になっている子供服と試作中の服を全て並べると、茉莉ちゃんはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「売ってるのは全部持ってるわよね。どれが一番好き?」
「これ! この裳にお花がいっぱいかいてあるの!」
「桃色が好きなの? それともこの形?」
「どっちも! これが一番羽くすぐったくないの!」
「ああ、背中が出ない方が好きなんだね」
茉莉ちゃんが指差したのは桃色の印刷生地だ。柄が大きくて目を引くのだが、成人が着るには少し子供っぽい生地だったので子供服にした。
一番注意したのは背だ。有翼人の背中は羽が生えているので背の形が人間と少し違う。人間よりも背骨が太く、肩甲骨に当たる部分から羽が生えるので骨の形からして違う。羽で隠れる辺りも出っ張っている骨があり、それが羽を支えている――らしい。
人間と服を共有できないのはこれもある。有翼人は骨が飛び出てるから生地が足りない。
子供の頃にこれが形成されるが、それがおよそ二、三歳だ。羽の発育には個人差があるが、それでも五歳にもなれば完全に生え切っている。
しかしこの『個人差』が既製服を作る上で大きな問題だった。平均的には五歳だが、発育が悪ければ十歳を過ぎても生えそろわないこともある。それどころか骨の形成が終わっていないこともあり、そうなると有翼人の背に合わせた服はだぶついてしまう。骨の形成が終わっていれば専用の型紙を使った服しか着れない。
茉莉ちゃんはもう十歳。骨の形成もできてるし羽も生えそろってる。これなら服の形状自体は成人と変わらない。
羽穴が広くても小さくてもどちらでも良いだろうけど、うちの服は羽穴が広いのが基本だ。
「じゃあ肌着は立珂様のを使った方が良いわ。立珂様のは本当にぴったりするし、見えて良いようなのもあったはずよ」
「んー。でもおねえちゃんの肌着のほうがすきなの」
「立珂様のほうがお洒落じゃない?」
「にあわないの。肌着だけお洒落だと、なんかお洒落じゃないの」
「ああ、全体のつり合いを見ればそうかもね」
私の服はそこらで売っている生地だ。特別な生地は使っていない。その中で突然立珂様の生地が出て来てはそこだけ浮いてしまうだろう。
「だからもっといろんな色の肌着がほしいの! お花のもようもすき!」
「じゃあ生地を選ぼうか。これはどう?」
私は肌着用の生地を取り出し並べた。
茉莉ちゃんはそれだけで目を輝かせ、飛びつくように生地の手触りを確かめ始めていた。
茉莉ちゃんと二人で生地選んでいると、星宇さんの姿が無いことに気が付いた。
どこ行ったんだろう。何かあったかな……
部屋を見回すと、隅に置いている長椅子で横になり寝息を立てる星宇さんの姿があった。
「おにーちゃんねてる」
「疲れてるのかな。寝かせてあげようね」
私は星宇さんに布団を掛けると、起こさないよう生地を持って茉莉ちゃんを連れて店舗へ移った。
茉莉ちゃんは成人用の商品にも目を輝かせている。
「茉莉おっきくなったらこれ着るの!」
「茉莉ちゃんの寸法でも作れるよ。作ってみる?」
「ほんと!? ほしい!」
「じゃあ作ってみるね。同じ生地でいい? 違うのにする?」
「違うのがいい! お姉ちゃんの服みんな着てるから茉莉のだけのがほしい!」
「あはは。星宇さんのおかげでたくさんの人が買ってくれてるからね」
「ふふふっ。お兄ちゃんね、最近とっても楽しそうなんだ。まえまで蛍宮きらいだったのに」
「え? そうなの?」
「うん。きらいな人いるんだって」
「へえ……」
想像つかないな。こんなに良くしてくれるし、いつも笑顔でお客様にも評判良いし……
「でも来てよかった! 馬車でごとごとするの茉莉きらいなの」
「疲れるものね。お兄ちゃんも茉莉ちゃんが元気で嬉しいって言ってたよ」
「えへへ。茉莉もお兄ちゃんが元気でうれしい!」
「じゃあ生地選ぼうか。桃色ならこれはどう? 黄色地に色とりどりのお花の柄もあるよ」
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