第28話 存外に

 その高校の名前を検索欄に入れて、適当に検索してみる。


 少し見た限りでは違和感なんてない。どこにでもありそうな学校だ。ちょっとした業績と、ちょっとした不祥事があるだけ。なんか卒業生がスポーツで活躍しているらしい。


 そのまま俺はSNSで検索をかける。表示された内容は……


『〇〇高校の文化祭、すごかったよね』『〇〇高校は全教室にエアコン付き……天国……』『マジで空気最悪。気取ってんじゃねーよあの教師』『うちのクラスのやつを公園で見かけたんだけど。ホームレスってやつ?』『〇〇の生徒って口悪いよな……それとも最近の若者って、そんなもんなのか?』


 まぁ……よくある愚痴の類か。どこの学校で検索しても似たようなもんだろ。弟子の話が出てくる以外は。

 何気なく、


「最近の高校ってのは、全教室にエアコンが付いてるんだな」

「最近は付いてるところのほうが多いんじゃないッスか? 温暖化ですし……ないと死んじゃうッス」

「そうだよなぁ……」俺が子供の頃は、もっと涼しかった気がする。「キミ……よく生きてたな」


 温暖化の中ホームレス……死んでしまってもおかしくない。冬の寒さだって洒落にならないだろう。弟子がどれくらいの期間ホームレスをやっていたのかは不明だが……


「人々が優しかったので、大丈夫だったッス。私にとっては学校よりも生きやすかったッス」

「……そうか……」俺も学校が息苦しかったな……「……まぁ、あれだ。キミも準備しておいてくれ」

「心の準備も含めて、ッスか?」

「……わかってるならこれ以上言うことはない」

 

 そのまま弟子は奥の部屋に引っ込んで、なにやら準備を始めた。


 ……いつも明るい弟子にも、いろいろ過去があるんだろうな。聞き出すのは野暮なことだと思うが……吐き出して楽になるなら吐き出させてやりたい。


 ……

 

 まぁ、この事件の間は弟子の動向に注意しておこう。突然消えられたら……寂しいからな。幽霊さんの相手をする人間もいなくなってしまう。


 とにかく……さっさとこの事件を解決してしまおう。この物語に……シリアスな事件なんて似合わないのだから。 





 学校に連絡を入れると、


『探偵さん?』学校側の誰かが電話対応してくれた。『殺害予告の解決のために現場を見たい……?』

「はい。少し依頼を受けましてね」

『ああ……困るんですよねぇ。遊び感覚で部外者に出入りされると』邪険に扱われるのは慣れたものだ。『部外者を入れると文句が出るんでね……誰からの依頼か知りませんが、ご遠慮ください』

 

 ……まぁ彼からしても、そりゃ部外者なんて簡単に入れられないよな。学校側としては当然のセキュリティだ。


 というわけなので……あまり気乗りしないが、依頼者の名前を出すことにする。


「〇〇っていう生徒からの依頼なんだが……」

『……ああ……』なんか声が低くなったな……『なるほど……じゃあ良いですよ。ですけど、唯一お願いがあります』

「なんでしょう」

『私に対して、〇〇さんの名前を出したことは黙っておいてください。ちょっと……関わりたくないんで』

「……わかりました……」


 ……あれ程のクセモノだ。こうやって煙たがられていてもおかしくない。


 さて学校に入校する許可を得て、俺は電話を切った。


 すると準備を終えていた弟子が、


「あの依頼者さん……何者なんですか? 私が学校にいたときから、やたらと恐れられてましたけど」

「恐れられてたのは……まぁ、本人のカリスマ性かもな」彼女は悪のカリスマなんだろう。「同時に取り巻きも多かっただろ?」

「そうッスね……」危険な魅力は人を惹き寄せる。「先生も……途中からあの依頼者さんの取り巻きみたいなものでしたよ。誰も逆らえないって感じッス」


 話を聞いている限り……


「存外に……フェアな悪党らしい」

「フェアな?」

「ああ。キミは……依頼者の血縁関係について、詳しく知っているか?」

「いえ……まったく」

「そうか。じゃあ、知る必要はない」


 依頼者の血縁には国会議員やら市議会議員やら社長やら……権力を持った人間が多数いる。その名前を出すだけで同級生は震え上がるだろうに、依頼者はその権利を行使していない。行使していたら、弟子が知っているはずだ。


 あくまでも自分の力だけで学校を支配したわけだ。なんとも規格外の怪物である。本当に……嫌いじゃない。あの尊大な態度は嫌いじゃない。


 ある意味、尊敬に値する人物だよ。

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