死を呼ぶ紙飛行機
第25話 しょうもない依頼
その以来は突然訪れた。
基本的に……俺に依頼をする人間は大抵が警部である。だから警部以外の依頼者が来ることは珍しいのだ。
来客は小さなノックの音から始まった。
「……?」あまりにも小さなノックだったので、ボーっとしていたら聞き逃すところだった。「どうぞ。開いてますよ」
「し、失礼します……」オドオドしながら事務所に入室してきたのは……女子高生だった。「あの……ここは、探偵事務所だって聞いたんですけど……」
「そうですよ」依頼者には敬語を使うと決めている。「依頼ですか?」
「は、はい……その、依頼です……あの……」そんな怯えなくても……「しょうもない依頼、なんですけど……いいですか?」
しょうもない依頼ばっかり受けてるからな……正直、警部が持ってくる依頼よりもしょうもないとは思えない。
「依頼料さえあるのなら、なんでも大丈夫ですよ」無償で動く気はない。「まぁ……とりあえずお座りください」
「は、はい……」
俺はお茶を準備しながら、その女子高生を観察する。
制服を着た女子高生だった。今日は日曜日だから学校は休みだと思うが……
うちの弟子みたいな境遇……ではなさそうだ。あまりにも制服がキレイすぎる。やせ細っているわけでもないし……
……というかこの制服……どこかで見たことがあるな。そうだ……弟子が着ていた制服だ。年齢的にも……弟子と同い年くらいなのではないだろうか。
……もしかして知り合いだったりするのだろうか……そう思って弟子に聞こうかと思ったが……
「……?」
いつの間にか、弟子の姿が見えなくなっていた。ついさっきまで目に映る範囲にいたはずなのだが……奥の部屋に入ったのだろうか。
なんとも珍しい。いつも依頼が来ると興味津々に聞いていたというのに。
……
同じ学校の人間にはトラウマがあるのだろうか。ならばそっとしておいたほうが良いよな……
ともあれ、依頼者の女子高生はソファに座った。
俺は依頼者にお茶を差し出して、
「どうぞ。粗末なもんですが」
「粗末なものなら……いりません」
「あ……そっすか」
……これが最近の若者か……自分の意見をスパッと言える人間は少ないので、ここは俺が受け入れるべきなのだろう。
まぁ……礼儀だなんだ、細かいことを言うつもりはない。実際……粗末なものとか粗品ですが、という言葉は海外では通じないと聞く。日本特有の文化を押し付けるのも良くないよな……
……こうして考えると……俺も年齢を重ねたんだな、と実感してしまう。
「まぁ……気が向いたらどうぞ」急に喉が渇くかもしれないからな。取り上げるのはやめよう。「それで……依頼というのは?」
「はい……まず、こちらが依頼料なんですが……」依頼者はカバンの中から封筒を取り出して、「これだけあれば、足りますか?」
依頼者が取り出した封筒を見て、ぶったまげてしまった。
その封筒は、パンパンになっていた。明らかに……10万や20万では足りない。およそ女子高生には似合わないような大金だった。
「……」俺はその封筒の中身を見て、「……いくら、あるんですか?」
「100万円です」人でも殺すのか……? 暗殺依頼? 「足りませんか? 必要ならもっと用意させますが……」
「うーむ……」用意させる? 「依頼内容も聞かずに、依頼料を決めることはできませんね。まずは依頼がほしいです」
「あ……これは失礼しました」……なんか……この人と話してると調子狂うな……「では……まず依頼内容を説明させていただきます。といっても100万円程度の……くだらない依頼ですよ」
……金持ちなのかな……100万円程度って。それともボケてるつもりなのかな。笑ったほうがいいのかな……
依頼者は咳払いをしてから、言った。
「うちのクラスで……殺人予告があったんです」
……
……
警察に相談することじゃないかな……
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