第24話 食いしん坊

 俺が事件現場を見て放心していると、


「師匠。この事件の謎が解けたんですか?」

「懐かしいセリフだなぁ……」最初に会ったときも、同じセリフを言ってたよな。「まぁ……たぶんな。ちょっとアホらしすぎて……言いたくないけどな」


 本当にアホらしすぎる。今までで一番アホらしいんじゃないか。いや……今までと比べるとまともなほうなのか? わからん。感覚が麻痺してきた。


「というか弟子よ……キミは、この現場を見てなんとも思わないのか?」

「どういうことッスか?」……こいつ……本当にポーカーフェイスだよな。ギャンブル強そう。「足跡もなくて手型もない……唯一の手がかりは食いしん坊ッスよ」

「それだよ」思いっきり答えだ。「なんで……この場所に食いしん坊がいると思ったんだ?」

「そりゃあ……砂場に歯型があったからッス」


 ……うん……そうだよね。ちゃんと見えてるんだよね。


「……その歯型は……一直線に遺体があったところに向かっているだろう? そしてUターンして、砂場の外に出ている」

「つまりあれッスか? 犯人は足跡をつけないために……ってことッスか?」

「そういうことなんだろうな」無理があるけれど。この物語ならありえる。「犯人は遺体を担いで、公園の砂場のど真ん中に遺棄することを考えた。しかし足跡があってはすぐにバレる。手型も同じだ。だが……歯型ならバレないと思ったんだろう」


 俺……なに言ってんだろう。なんで俺はこんなことを真顔で言わないといけないんだ? 俺が探偵になったのは……こんなことをするためじゃなかったのに……


 なに歯型って。なんで砂場の雪に歯型がついていて、食いしん坊がいると思ったんだよ。


「ううむ……」推理を聞いていた警部が、「あの歯型は……食いしん坊が雪を食べようとした跡じゃなかったんだな」

「……」そんなわけねぇだろ、と思いつつ、「仮に雪を食べようとしただけなら、足跡も残るでしょう。歯だけで移動する理由にはなりません」

「なるほど……そういえば、口の周りが血だらけの男が走っているのを見たな。あいつが犯人か」もっと早く気付けよ。「ありがとう探偵くん。今回もキミのおかげで事件は解決したよ」


 俺じゃなくても解決しただろ。いや……今回は俺の推理もだいぶ適当だぞ。歯型? ふざけてんの? 足跡がなければ謎になるとでも思ってんの?


 ああ……

 

 まともな謎解きがしたい……

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