足跡も手型のない現場

第23話 安いものさ

『探偵くん、大変だ! また殺人事件だ』

「この街、治安悪すぎません?」

『そういう場合、大抵は探偵が死神扱いされるぞ』

「たしかに」たしかにそうなんだけれど……直接言われると悲しい。「……俺が殺してるわけじゃないんで……」

『そうだな……スマン。配慮に欠ける発言だった』

「いえいえ」この警部……ニセモノか? 会話が成立するぞ? 「そういえば警部……この間の、残機たちはどうなったんですか?」


 緑のキノコを食べて、増えた残機たちである。およそ100人ほどいたはずだが。


『ああ……キミの言う残機という推測は当たっていたようだ。これまで8回ほど殺されたが、問題なく復活したよ』

「……そ、そうですか……」復活されたらミステリーが成立しないんですけど……「あの……命は大事にしてくださいね」

『罪なき市民を、この命で守れるのなら安いものさ』なにカッコいいこと言ってんだ。『ともあれ……殺人事件なんだ。また、あの公園の砂場に死体が見つかった』

 

 あの公園、呪われてんのかな……足跡がない事件現場の時の公園だよな。弟子がホームレス生活してた時の公園だよな。


「それで……現場の状況はどんなものですか?」

『とりあえず現場に来てくれ』

「何度も言いますが、まずは状況説明――」


 電話は切れた。俺もキレそうになった。


 ……電話口で状況説明くらいしてくれよ……電話だけで解決できそうな事件、いくつもあるんだよ。まぁ依頼料もあるから行くけど……


 

 ☆



 今日は雪の降る一日だった。というより、前日から雪が降り続いていた。


 こうして雪を見ていると、弟子と初めて出会った日を思い出す。あの事件のときも雪が降っていた。


「いま何月なの? という野暮なツッコミは禁止ッス」


 俺はメタ発言が嫌いだ。


 ともあれ……よくあの雪の中、弟子も生き残ったものだ。凍死していてもおかしくなかったと思うが……よくぞ耐えた。


 公園にたどり着くと、


「やぁ探偵くん。よく来てくれた。弟子のキミも一緒か」

「もはや師匠とは一心同体と言っても過言ではないッス」過言だな。間違いなく過言。「それで……事件というのは?」

「ああ……キミと初めて出会った日の事件と、よく似ているよ」弟子と出会った日か……「公園の砂場の中に、死体が転がっていた。そして……その周りには足跡がまったくなかったんだ」

 

 またか……


 一応聞いておく。


「……手型はないですよね?」

「ああ。今回は手型もなかった」それはよかった。トリックを使い回すのかと思っていた。「今回ばかりは本当にお手上げだ。足も手も使われていない。気になるのは公園に食いしん坊がいたらしい、ということなんだが……」


 ……食いしん坊がいた……? なんでそんなことがわかるのだろう。公園ごと食われていたのだろうか。


「まぁ……とりあえず現場を見てくれ。キミほどの探偵なら、現場を見れば何かがわかるかもしれない」


 そう言われて、俺は現場である砂場に目を向けた。


 そこには雪が積もっていて……たしかに足跡も手型もなかった。


 だが……


「あの……警部……」毎回……現場を見るたびに崩れ落ちそうになる。「何度も言いますけど……現場の状況は電話で説明してください……わざわざ移動する手間が省けますから……」


 まただ……また訳の分からない事件だ。いつもそうだけれど……


 足跡はない。そして手型もない。その状況で、雪の降る砂場の真ん中に死体があった。そして公園には食いしん坊がいたという。


 犯人はどうやって……死体を砂場の中央まで運んだのだろうか。



 ☆


 

 読者への挑戦状っぽくなっていますが、そういう作品ではないのでお気軽に次のページにお進みください。

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