第22話 ノーダメージだったッス

 はぐらかすように説明すると、ストーカーにも思えるその存在。

 だがそれはストーカーではないし、もちろん犯罪者でもない。むしろ……現在は多くの人が持っている。だからこそ……弟子にこの話をしたのだ。


「むぅーん……」弟子は訳の分からないうめき声を上げて、「なるほどなるほどぉ……」

「わかったのか?」

「なんとなく推測はできましたよ。まぁ私は、その存在に馴染みがないので……実感はありませんが」


 だろうな。だからこそ出題しなければならなかった。


「それで……答えは?」

「……それは……」弟子はポケットからその存在を取り出して、「これでしょう? 答えは……ッス」

「正解」弟子が答えにたどり着いて、ちょっとホッとした。「ふむ……よくわかったな。まだキミは……スマホを持って3日だろう?」


 これからの時代を生きていくにはスマホとPCが必要だと思って、買い与えていた。弟子もその意図を汲んで、それらの使い方を勉強していたようだ。


 動画投稿サイトとか通販サイトを見ていると、俺の検索に応じてオススメが表示される。それがあまりにも正確で、少しばかりビビったことがある。

 さらに……犯罪に巻き込まれる場合もある。ワンクリック詐欺とかフィッシング詐欺とか……場合によっては密売とかにも巻き込まれる可能性だってあるのだ。


 しかし……便利な道具であることに変わりはない。俺はおそらく……もうスマホがないと生きていけない。


 弟子にも……与えるべきではない機械だったのかもしれない。だが……やはり今の御時世でスマホもPCも使えないのは生きづらいだろう。使えたら使えたで……生きづらいかもしれないが。


 まぁ、いろいろ考えがあって弟子に買い与えたわけだが……その判断は正しかったのだろうか。


「使うのは慣れないッスけど……噂は聞いたことあったッス。クラスのグループチャットは、私の悪口で盛り上がっていたみたいッス」……嫌なことを思い出させてしまった……「まぁ、当時の私はチャットどころかスマホも持っていなかったので、ノーダメージだったッス」

「そ、そうか……」俺は直接チャットで悪口を言われたことがある。悲しかった。「まぁ……アレだ。何が言いたいのかというと……」

「スマホは使っても良いけれど、危険も伴うから気をつけろ、ってことッスよね」

「そういうことだ」こいつ……本当は頭良いだろ。「被害者になることもあるが……同時に加害者になることもある。気をつけろよ」

「はいッス」


 ……まぁ、気をつけていても加害者になってしまうのが怖いところだよな。本人にその気はなくても、傷ついてしまう人がいるのだ。


 相手を傷つけてしまうことは避けられない。自分が傷ついてしまうことは避けられない。それはインターネットだけの話じゃなくて……人間関係すべてに言えることなのだ。


 ……

 

 だからといって……

 

 意図的に相手を傷つけて良いわけじゃないけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る