第19話 暇だったみたいッス

 幽霊さんからの挑戦状。この謎が解けなければ、俺は呪い殺されるらしい。


 そんなときに限って……わからん。なんだ? トイレの中から聞こえてきた『キレチャッタ、シンデル……テヲヨゴス……』という言葉の意味とは……


「幽霊さんが言うには、ちょっと汚い謎みたいッス」


 汚い謎……こないだの店員さんの時みたいに、叙述トリックなのだろうか。


「ここで、少しヒントッス」ありがたい。ヒントがないと死んでしまう。「幽霊さんは、その少し前にトイレに入ったッス。そのときに……違和感があったみたいッス」

「違和感?」

「はい。なにかが足りない。なにかがないような……そんな違和感だったみたいッス」


 なにかが足りない……? なんだろう……窓の鍵とかだろうか。鍵が閉まっていなかったとか……


 いやいや……まて落ち着け。メタ発言は嫌いだが、この作品でまともな推理なんてあるわけがない。メタ発言は嫌いだが。


 なんかあるはずだ。しょうもないなにかを見落としているはずだ。


 トイレに行って、なにかが足りない。そしてその場では困らないが、少しあとに困ることになる。


「質問がある」

「なんでしょう」

「仮にトイレに行くタイミングが入れ替わっていたとしたら……幽霊さんも同じセリフを言うか?」

「……」弟子は幽霊の言葉を聞いてから、「可能性はある、と言ってるッス。ただ幽霊さん本人は、そんな回りくどい言い回しはしないみたいッス」


 回りくどい……つまり直接的に言うわけか。


 キレチャッタ、シンデル、テヲヨゴスが回りくどい……そしてトイレにはなにかが足りない……


「あ……」なるほど……そういうことか。「ああ……わかった」


 なんだそんなことか。なるほど。たしかに汚い謎だな。


 ……なんてこった。急に命をかけるとか言われて、取り乱していた。こんなありきたりで使い古された謎に困惑してしまうとは……もっと冷静にならないとな。


 そのときにトイレで起こっていたこととは……


「要するに……アレだろ。んだろ?」


 トイレの最中にトイレットペーパーがなくなって……トイレットペーパーが『切れちゃう』。そしてトイレットペーパーが『芯、出る』。最後に……物理的に『手を汚す』しかなくなったわけだ。


 そして……腹痛だったからうめき声みたいになってたわけだな。


 いや……マジで汚い謎だったな。しかもトイレットペーパーがなくなって手を汚すって……要するに、そういうことだよな。


「正解ッス」これで死なずに済んだ。「ちなみに……幽霊さんが気づいたので、トイレットペーパーを補充して事なきを得たそうです」


 手を汚さずに済んだわけだ。よかったよかった。本当に良かった。マジで良かった。


「それから……呪い殺すというのは嘘ッス。幽霊さんにそんな力はないッス」

「ああ……だと思ったよ」はぐらかした時点で、嘘かもしれないとは思っていた。「……なぜ、そんな嘘を?」

「暇だったみたいッス」


 ……幽霊ってのは暇なんだな……そりゃそうか。なんにもないもんな。


 それにしても悪趣味な冗談だよなぁ……


 まぁ……アレだな。


 たまには暇つぶしに付き合ってやるか。

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