トイレの殺人
第18話 伊達政宗と扇風機くらい違うってことッスね?
最近……事務所が騒がしくなった。
「ふむふむ……」弟子が虚空に話しかけている。「つまり伊達政宗と扇風機くらい違うってことッスね?」
どんな会話してんだよ。なんで伊達政宗と扇風機を比較することになったんだよ。
弟子は幽霊が見える。そして俺はあんまり会話とかを積極的にしないタイプなのだ。
結果として弟子は、よく幽霊と喋っている。俺としては幽霊の声が聞こえないので、会話の流れがまったくわからないのだ。常にもやもやしている。
「まぁまぁ……エサは焼肉ヤクザはニタリ、って言うじゃないですか」
なんの会話してんの? エサは焼肉? ヤクザはニタリ? なんか似た語感のことわざがあったみたいなんだが……
「ほほう……?」弟子は一瞬だけ俺を見て、「師匠に挑戦状? 問題を出したい?」
「俺に?」
「あ、師匠。聞いてたんですか?」
「そんな堂々と話してたら聞こえるだろ」そこまで部屋は広いわけじゃない。「それで……幽霊さんがどうしたって?」
弟子はソファから元気よく降り立って、
「師匠に謎を一つ出したいみたいッス。住まわせてもらってるので、家賃代わりだそうです。ゴールも設置してもらったし、お礼がしたいと」
「……住まわせてるつもりはないんだが……」かってに住み着いてるだけだ。追い出せるもんなら追い出したい。「とりあえず……ゴールはそれでいいのか? 俺はバスケに詳しくないんだが……」
幽霊さんがバスケ好きだと知って、バスケのゴールを購入した。適当にネット情報で調べての購入だから、性能は知らん。
「気に入ってるみたいッスよ」
「そりゃよかった」俺には幽霊さんが見えないから、使っているのかがわからなかったのだ。「それで……問題ってのは?」
「少々お待ちを」弟子は幽霊の話を聞いて、「タイトルは『トイレの殺人』とのことです」
なんか似たタイトルの歌があったな……いや、全然殺人とは関係ないけれど。
「ちなみに謎が解けなかったら呪い殺すそうです。頑張ってくださいッス」
「なんで? なんで呪い殺されるの? ねぇなんで?」
マジでなんで? なんで急に命がけの推理ゲーム始まったの? いや……それ自体は歓迎だけどさ……もっとシリアスな空気でやらない?
「幽霊さんが言うには……定期的に人を呪わないと、幽霊としてのパワーがなくなって成仏しちゃうみたいッス」
「今までどうしてたんだ?」
「それでは問題ッス」
俺の声って、そんな聞こえないのかな……それとも聞こえてて無視されてんのかな……一応、俺が子の部屋の主なんだけどな……お前ら全員、居候なんだけどな……というか不法侵入に近いんだけどな。
ともあれ……なんか命がけの推理対決が始まってしまった。死ぬわけにはいかないので、頑張って推理しよう。
そして弟子が話し始める。なぜか電気を消して、懐中電灯の明かりをしたから顔に当てていた。なんで怪談みたいに話す必要があるのだろう……
「これは幽霊さんの生前……何年くらい前ッスか? わからない? えーっと……じゃあそこそこ前の話ッス。それで……高校生? 中学生? 覚えてない? じゃあ……なんとなく学校っぽい話……違うかも? 友達の家? やっぱり学校?」
もうちょっとまとまってから話してくれよ……なに言ってるのか分からねぇよ……でも、一生懸命話しているから聞くけどさ。ふざけているわけじゃないのは知っているから、聞くけどさ。
弟子も少し反省したのか、幽霊さんとしばらく話し込んでいた。
そして咳払いをしてから、
「これは幽霊さんが高校生だった頃の話、だと思うッス。年代は重要じゃないので、適当に高校生ということにしたッス」じゃあ年代を付け加えなくていいよ。「高校生だった幽霊さんは……トイレに行こうとしたみたいッス。ちなみに……たしか友達の家のトイレだったらしいッス。学校だったかもしれないッス」
あやふやすぎる。こんなんで推理できるのだろうか。そもそもこの物語に推理を期待して良いのだろうか。良い訳がない。
「生前の幽霊さんがトイレに行くと、先客がいたそうです。仕方がなく戻って待とうとしていると、トイレの中から小さな声が聞こえてきたッス」
「トイレの中から……?」
「はいッス。この世のものとは思えないような追い詰められた声で……『マズイ……シンデル……』って声が聞こえてきたッス」
シンデル……死んでる?
……トイレの中で殺人が行われた?
「その後もうめき声は続くッス。『キレチャッタ、シンデル……テヲヨゴス……』……そんな類の単語がボソボソと聞こえてきたッス」
……刃物による殺害で手を汚した? そして死んでることを嘆いているということは、殺意はなかった?
「さて、ここで問題ッス」というか弟子……怪談話うまいな……雰囲気が出ている……「いったいトイレの中で……なにがあったのでしょう……」
……
……
……
あれ……?
わかんねぇ……どうしよう……
☆
読者への挑戦状っぽくなっていますが、そういう作品ではないのでお気軽に次のページにお進みください。
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