第17話 そうやって検証をサボってるから

「まずは……そうだな。それらの小説の概要を教えてくれ」

「了解ッス」


 弟子はホワイトボードを引っ張り出して、そこに情報を書き加えていく。



攻略本 情報

現時点のPV数 40174

星の数 51

文字数 271437

ジャンル 恋愛



人違い 情報

現時点でのPV 15408

星の数 59

文字数 122296

ジャンル 異世界ファンタジー



「星の数は『人違い』のほうが多いんだな。文字数は……『攻略本』のほうがかなり多いな。ジャンルも異世界ファンタジーと恋愛で異なる……」俺は頭をかいて、「なんとも比較しにくいデータだなぁ……」

「そうッスね……まぁ、なんとかして比較するしかないッス」他に使えそうなデータもないからな。「とりあえず、次にタグを見ていくッス」


 ホワイトボードに文字が追加される。



攻略本 タグ


カクヨムオンリー

恋愛

ギャルゲー

美少女

攻略本

主人公刺されたらいいのに

ゲーム

ハーレム?



人違い タグ


カクヨムオンリー

勘違い

人違い

ハーレム

美少女

恋愛

勇者

魔王



「まぁ個人的な感想としては、やっぱりハーレムがあるとPVの伸びが違うなと思うッス」

「ふーん……」なんだかんだ……美男美女の求心力は凄まじい。「この『ハーレム?』ってのは? なんで疑問形なんだ?」

「『攻略本』の主人公はヒロインに恋愛感情を抱かれていなかったりします。ただ女性に囲まれることをハーレムというのも、なんか違和感があったので疑問形にしました」


 ……まぁハーレムの定義があるわけじゃないからな。そのへんは主観か。


「じゃあ『主人公刺されたらいいのに』ってのは?」

「書いていて主人公がモテすぎてムカついたときは、このタグがついてます。このタグがない場合は主人公にムカついていないか、主人公がモテていない場合。あるいは他のタグで埋まってしまった場合と……本当に主人公が刺される場合があります」

「……なるほど。刺されたらいいのに、じゃなくて刺される場合があるんだな」

「はいッス。ちなみにとある主人公は刺されたり拳銃をぶっ放されたりしたッス。ジャンルはラブコメっす」


 なにがあったんだよ……なんでラブコメで刺されるんだよ……


「話がそれたッス。この作者の作品は、話がよくそれるッス」自覚してるなら治せ。「さて……この2つの作品について、どう思うッスか?」

「思ったことは2つだな。1つは……カクヨムでは異世界ファンタジーより恋愛のほうが人気という説だ」


 昔はネット小説といえば異世界ファンタジーだったが、今は恋愛も強かったりする。とくに他の大手投稿サイトでは異世界恋愛が強いとも聞く。


「今、適当にランキングを確認したら……まだファンタジー系統が多い印象ッス。本当に適当に見ただけなので、確証はないッス」

「そんな適当でいいのか?」

「別に考察作品じゃないので大丈夫ッス」じゃあ今はなんの時間なんだよ。「ついでにいうと、別にこの推理に結論は出ないッス。飽きた人は次のページにGOッス」


 ミステリーでもないし考察でもない。そしてもはやギャグですらない。この作品はなんなんだ……


 まぁ……とにかく、考察を続けよう。


「じゃあ純粋に……『攻略本』のほうが面白いんじゃないのか? あらすじとか一話目とか……その辺の求心力が違うんだろ」

「そうかもしれないッスけど……正直、違いがわからないッス。その違いを見つけて改善していくのが成長への近道だとはわかってるッスけど、よくわかんないッス」

「わかってたら、改善してるって話だよな……」PV伸ばす方法がわかってたら、もっと伸びてんだよな……「となると……なんだ?」

「細かい違いはたくさんあるッス。でも、それらをすべて検証するのは非現実的ッス」


 だろうな。そもそもなにかの違いを検証しようとするのなら……その他の要素がまったく同じものを用意しないといけない。そして最大の難関は……という主観的なものの量も一致させないといけないのだ。


 まったく同じ面白さの小説を用意することなど不可能である。よって、検証は難しい。


「ふーむ……」弟子がホワイトボードを眺めて、「まぁ今のところ……やっぱり美少女とハーレムは強そうッス。今度……美少年というタグでもつけてみようかな、と思ってるッス」


 イケメン男子とか、スパダリとか言われてるやつか。スパダリはちょっと違うのか?

 ちなみにスパダリの女性版はなんていうのだろう。スパハニ?


「ちなみに『攻略本』は風光明媚の店員さんの初登場作品だったりするッス。当時は高校生で、バスケ部の部長でした」


 その後……新しいキャラクターを考えるのが面倒なときに、たびたび登場するようになった。主要キャラにすると大抵の問題を解決できてしまうほど優秀なので、出番は少ない。


「さてと……結論が出なさそうなんで、これでこのエピソードは終わりッス」

「バカ野郎。そうやって検証をサボってるから――」

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