そこのキノコにご用心

第13話 パロディも嫌いです

『探偵くん大変だ! 私が分身した!』


 まともなエピソードを期待した俺がバカだった。


「……警部、落ち着いてください。分身……って、なんでですか?」

『だから私がたくさんいるんだ!』

「そ、そうですか……大変ですね……」マジで電話を切りそうになった。「……それで、俺はどうしたら良いんですか?」

『とにかく現場に来てくれ!』


 そのいつもの言葉を残して、警部からの電話は切れた。

  

 だから……要件を先に言ってくれよ……





 呼び出されたのは、近くの市民体育館だった。


 その中に……


「おお……」俺の想像を絶する光景が広がっていた。「……本当だ……警部が分身してる……」


 体育館の中に大量の警部がいた。その数……どれくらいだろう。わからない。数えるのが面倒くさい。100人くらい、だろうか?


 俺が体育館の扉を開けた瞬間に、警部たちが一斉に振り返った。


「「「「「おお探偵くん! よくぞ来てくれた!」」」」」

「一斉に喋らないでください怖いから」全員が大声だから耳が壊れそうだ。「あの……それで、なにがあったんですか?」

「「「「「「だから私が分身したんだ!」」」」」」


 だから一斉に喋るなって……鼓膜が破れる。体育館に反響して1000人くらいが一斉に声を出しているように聞こえる。脳がグワングワンする……


「えーっと……俺に電話をかけた警部はどなたですか?」

「「「「「私だ」」」」」

「……失礼しました。俺に電話をかけて、通じた警部は誰ですか?」

「「「「「私だ」」」」」

「……えーっと……俺に電話をかけて、通じた警部は誰ですか?」

「私だ」


 これでようやく会話ができる……全員が警部だから、1人と話そうとするのも大変だ。


 それにしても……本当に全員が同じ顔、同じ体格だな……本当に影分身でもしたのか?


「と、とりあえず……なんでこんなことになったのか、聞かせてもらってもいいですか?」

「そうだな……まず私はとある事件を追っていたんだ」

「とある事件……?」

「ああ。キノコ強盗だ」なかなか聞かない単語だなぁ……「キノコと言っても、ただのキノコじゃない。巨大な製薬会社が秘密裏に制作していた、危険なキノコらしい」


 危険なキノコ……なんでそんなものを製薬会社が……


「毒キノコ、とかですか?」製薬会社が毒を作るというのも笑えるが……「薬を作っている最中に、なにかの手違いで毒が生まれてしまった、とか」


 人を治すも殺すも、結構近いところにあるのだと思う。医療用の大麻とかもあるし、薬だって大量に接種すれば死んでしまう。そう考えると……毒と薬は近いものなのかもしれない。


「いや……その製薬会社は、最初からそのキノコを製造しようとしていたようだ。しかも……そのキノコは毒ではないようなんだ」

「毒じゃない? なのに危険なんですか?」


 毒がないキノコなんて、ただの食用キノコだろう。


「正確には……薬に近いものなんだ。ただ……唯一の欠点がこと」

「効果が高い……」それのなにが問題なんだろう。「それは、素晴らしいキノコなのでは?」

「私もそう思った。それに……私にはそこまでの深い情報が降りてこないんだ。私が知っているのは……『製薬会社が極秘開発。あまりにも効果がありすぎて、世界の構造を揺るがしかねないキノコ』という情報だけなんだ」


 キノコが世界の構造を揺るがす……? なんだそりゃ。幻覚でも見るのか……? いや、毒じゃないということは……不老不死にでもなるのだろうか。


 しかし……


「そのキノコと……警部が分身したことと、どんな関係があるんですか?」

「私がそのキノコを見つけ出し、食べたんだ」なにしてんだこいつ。「すると……なんと私が増えたんだ。その後も食べ続けたら……こんなにも増えてしまった」

「最初の時点で食べるのをやめてくださいよ」


 キノコを食べたら増えるということを認識してから、どれだけ食べ続けたんだよ。1つだけにしとけよ。というか……危険なものだとわかって操作をしていたのなら、そもそも食べるなよ。


 しかし……食べると人間が増えるキノコか……


 ……


 食べると、増えるキノコ……?


「警部……そのキノコ、何色でした?」

「緑色だったな」

「一応言っておきますと、俺はパロディも嫌いです」


 食べると何かが増えるキノコ。そしてそれを食べてしまった警部。

  

 そのキノコの正体とは――

 




 読者への挑戦状っぽくなっていますが、そういう作品ではないのでお気軽に次のページにお進みください。

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