最高の練習相手
第10話 感謝
その日、俺はとある喫茶店に来ていた。
「――ということがありましてね……というか、そんなことばっかりなんですよ。俺に舞い込む依頼っていうのは、変な依頼ばっかりで……」
床が抜けている部屋を密室扱いされたり、一生懸命ズボンをはこうとしている少年がいたり、なんならもう天狗が実在したり……
俺の周りの空間はおかしくなってしまっているのだろうか。俺がおかしくしているのだろうか。だからまともな推理を披露できそうな事件が舞い込んでこないのだろうか。
「なるほど……」喫茶店の女性店員さんは皿を洗いながら、「私は探偵さんのお話が好きですよ。なかなか他の人から聞けるような話じゃないですからね」
「あなたにそう言っていただけることだけが救いですよ……」俺は注文したコーヒーを一口飲んでから、「難事件を推理したくて探偵になったのに……これじゃギャグ漫画ですよ。俺の求めてるジャンルじゃない」
俺がそう言うと、隣に座る弟子が言った。
「カクヨムにはギャグというジャンルがないだけッス。本来ならミステリージャンルじゃなくてギャグというジャンルに入れたい作品ッス」だからメタ発言は嫌いだからやめろ。「ラブコメというジャンルにコメディ……つまりギャグ要素は含まれてるッスけど、ラブ要素がないコメディ作品を投稿する場所がないッス。本当にギャグというジャンルがほしいッス」
メタ要素は嫌いだが……それは俺も思う。他の投稿サイトには追加されてたりするのに……ノベル◯ップ+には追加されたのに……
……まぁ小説投稿サイトなんて、それぞれに特色があるのが売りなのだろう。すべてが同じようなサイトになってしまっても面白くない。
店員さんが言う。
「小説投稿サイトも……昔では考えられないほど巨大に、かつ数が大きくなりましたよね。私の世代からでは考えられない規模になっていますよ」
店員さんの世代って……この人いくつなんだろう……見た目は大学生くらいにしか見えないが、落ち着いた優雅な所作はとても学生には見えない。
しかしまぁ……たしかにそうだ。昔なら小説投稿は賞に応募したり出版社に持ち込む以外選択肢はなかった。
だけれど今は……いろいろな小説投稿サイトがある。しかも広く世間に認知されて、そこからプロになるという道まで開拓されている。
時代というのは……いつも俺の予想のとおりには進まない。だからこそ面白いのだが。
「せっかくなので言っておくッス」弟子が言う。「小説投稿サイトのコメント欄は荒れるとか、怖いとか思ってる人もいるッス。でもそれは一部の人達だけで、大抵の人はとても心優しく温かいッス。もちろん……その一部の人に最初に当たってしまう可能性もあるッスけどね」
それは辛いだろうな。最初に投稿した作品に心無い言葉をかけてくる人がいる。しかもそれが最初にもらったコメントだとしたら……すべてのコメントがそういうものだと思ってしまうかもしれない。
「批判コメントなんて、大抵は無視すれば良いッス。そもそも素人が書いた作品に素人が文句を言うのは筋違いッス」それは俺もそう思う。「まぁ大抵は……頑張って書いてもコメントすらつかない、評価すらつかない……あるいはPVが全然伸びない、というのが現実だと思うッス。でも、そういう期間があったからこそ……1PVでもついてくれると、とても嬉しいッス」
最新話まで読んでくれている人が1人でもいる、となると嬉しい。
「評価とかレビューがなくても読んでくれてるだけで嬉しいッス。そしてレビューや評価、ギフトも嬉しいッス。それらを始めていただいたときの達成感は、他のことでは得られないッス。作者は返信とか限定近況ノートとかは書いてないッスけど、常に読んでくれている方に感謝してるッス」
ネット小説の類は無料で読みたい+作者がコミュニケーションが苦手で相手を傷つけてしまう可能性が高いという理由でコメント返信やら限定近況ノートは書いておりません。
「どうせ未来なんて誰にも予想できないッス。ウェブ小説からデビューなんて考えられていなかった時代もあると思うッス。なら……これから先、ネット小説からノーベル文学賞とか芥川賞とか直木賞が生まれるかもしれないッス。それは、あなたの作品かもしれないッス」
……それはどうなのだろう。可能性としてはあるのだろうか。俺は詳しくないからわからない。
というか……
「弟子よ……キミはいったい、誰に話しかけているんだ?」
「誰かッス」だから誰だよ。「まぁ要するに……」
「要するに?」
「なんでしょうね……」なんだそりゃ。「本当にこの作品は適当に書いているので、こんな感じでなにを言ってるのかわからなくなることもあるッス。まぁ考えて書いてても、なに書いてるかわからなくなることも多々あるので……問題ないッス」
それは問題だろう。もうちょっと頑張れよ作者。
……
というか……アレだな……
ついに謎すら提示されなくなったな。
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