天狗

第9話 由々しき問題だからな

「探偵くん……キミは『テテテテング』という存在を知っているかね?」

「テテテテング?」ドラ◯エに出てきそうな名前だな……「聞いたこともないですが……」


 今日は……珍しく警部が俺の探偵事務所に直接訪れていた。いつも電話越しでの依頼なのに直接来るということは、もしかしてまともな依頼なのだろうか。


「テテテテングは……とある山奥に伝わる妖怪伝説だよ」

「妖怪……天狗、ってことですか?」

「その通り。もともとその地域には天狗伝説が残っている地域だったんだ。そして……その地域でとある殺人事件が起きた」

「……なるほど……手が切断された死体が発見された、ということですね」

「話が早くて助かるよ」


 ……なんか探偵と警察っぽい会話をしている……警部とこんなまともな会話をしたのは初めてじゃないだろうか。


「キミの推測通り……両手のない死体がいくつか発見されたんだ。これを村人は天狗の怒りだと解釈した。執拗に手を求める天狗を……いつしかテテテ天狗と呼ぶようになった」


 ……ちょっとネーミングはギャグみたいだが……まぁしょうがない。そんなストレートな命名しかできないくらい追い詰められていたのだろう。


 しかしアレだな……ようやくまともな依頼が来たようだ。せっかく俺を頼ってくれたのだから、スパッと解決してみよう。


 俺は用意したコーヒーを一口飲んで、


「……その、事件の概要は?」

「ああ……まず第一の被害者は村の主婦だった」一般人が犠牲になるのは、毎回悲しいな……「その天狗から子供をかばって……背中から心臓を一突き。その後、手を切断されたようだ」


 思わずツバを飲み込んでしまった。かつて警部の話で、ここまで緊張感があったことはない。どうやら俺は……ついに本格的な推理を披露することができるらしい。


 被害者たちの無念のためにも、頑張らなくては……


「その後も被害者は増え続け……警察の捜査も及ばず、本当に天狗が存在するのではないかという考えが村を支配していた」


 どうしても納得できない、どうしてもわからない存在を超常的な力だと思って無理やり納得する。それは心の防衛本能なのだろう。


「しかし……流れが変わる出来事があったんだ。遠くからやってきた祈祷師が……ついにその天狗の正体を突き止めた」……突き止めたの……? 「その正体は……山に古くから住み着いた天狗、そのものだったんだ」


 ……

 

 ……


 一瞬、理解が遅れたが……


「あ……ホントに天狗がいたんですか?」

「そうだ」いたんかい。なんだそりゃ……「祈祷師が言うには、天狗の意見はこうだ。『人間たちは山への経緯を忘れ、自分たちのエゴのために環境破壊を行っている。そんな愚かな人間たちは、自らが凄惨な目にあわないと自分の愚かさを理解できないだろう。だから殺した』と発言したそうだ」

「……なんで、手を切ったんですか?」

「それは天狗の趣味だったようだ」どっかの平穏を望んでいる殺人鬼かよ……「ともあれ……我々も気をつけなければならないな。人間の環境破壊は……由々しき問題だからな」


 そのまま警部は立ち上がって、続けた。


「では、今日のところは失礼させてもらうよ。やはりキミとの会話は楽しいな」

「あ、世間話だったんですね」


 依頼とか推理とかじゃなかった。探偵として頼られたわけじゃなかった。事件は俺の知らないところで、勝手に解決していた。


「勘違いさせたならすまないな。今回は探偵としての力を借りに来たのではなく、友人として楽しい会話をしに来たのだよ」

「……いつの間に俺と警部は友人になったんですか……」

「ついさっき決めた。これからキミは私の友人だ」

「……そうですか……」


 ということで……


 世間話は終わった。


 なんで探偵物で世間話だけでエピソードが終わるんだよ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る