第8話 今度から

「ほら……見てください」少年は泣きそうな顔で。「どう頑張っても着られないんです……」

「お、おう……」言葉を失いかけてしまった。「少年……キミ、酔っ払ってるのか?」

「……? そんなわけがないでしょう。未成年の飲酒は法律によって禁じられています」


 ……たまに正論を言われるの腹立つな……しかし我慢だ。


「少年よ。自分が着ようとしているものを、よく見てみろ」

「カッパ……ですよね?」

「ああ。カッパだ。それは間違いない」そこまでは問題ない。間違いない。だが……「……それ……?」


 少年は……一生懸命ズボンを上半身に着ようとしていた。しかし……当然着られるはずもない。だって頭を出す穴がないのだ。


 ……なんか昔……酔っぱらいがズボンを服と間違えて着ようとしている動画を見た覚えがあるが……眼の前の少年はシラフである。純粋に間違えている。


「え……?」少年は自分の手荷物ズボンを眺めてから、「ほ、本当だ……!」


 本気で気づいていなかったらしい。


 そのまま少年は手に持ったズボンを、しっかりと脚に穿いた。そして上の服を上半身に身に着けて、


「き、着られました……!」

「お、おう……」そんなに喜ばれたら……なんかこっちも嬉しくなってきた。「まぁ……解決したなら良かったよ。今度から、上下にも気をつけような」

「わかりました……ありがとうございます……!」

「……礼を言われるようなことはしてないけどな……」


 本当にしていない。俺以外の大人に相談しても答えは返ってきただろう。


 ……


 ……


 まぁ……少年が嬉しそうだから良いか。

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