カッパ

第7話 信じますか?

 幽霊事件を解決した翌日。俺が買い物に行っていると、公園の中で泣いている男の子がいた。


「なぁ、我が弟子よ」

「ついに認めてくれたんですね」

「……仕方なく、な」


 もう毎日つきまとわれているので、さっさと弟子だと認めたほうが楽だと思った。


「ちょっと……あそこにいる少年に事情を聞いてきてくれないか」

「なんで泣いてるのか、ってことッスか? そんなの、師匠が聞けば良いのでは?」

「……この間泣いている子供に話しかけたら、警察沙汰になってな……」

「それは……ドンマイですね」マジでな。マジで捕まりかけたからな。そういうときに限ってまともな警察が来るからな。「じゃあ、ちょっと行ってきますね」


 うちの弟子はコミュ力が高いので、他人に話しかけるのが得意だ。そう考えると……俺にないものを持っている弟子かもしれない。


 ともあれ弟子は男の子に近づいて、


「どうかしたんですか? 悩みがあるなら相談に乗るッス」


 年下にも敬語なんだな。

 

 少年は泣き腫らした顔で弟子を見て、


「あ……あなたは、公園によくいる……」

「そうッス。公園の皇帝とは私のことッス」公園の皇帝なんて呼ばれてたのか……「今は探偵さんの弟子になってるッス。暇なのでキミを助けに来たッス」


 俺は暇じゃないけどな。家賃と……弟子のために稼がないといけないけどな。金にならないことはやりたくないけどな。


 弟子と少年の会話は続く。


「なにか私に、力になれることはありますか?」

「じゃあ……えっと、お姉さんは……信じますか?」

「なにをッスか?」

「カッパです」

「カッパ……って、なんですか?」


 カッパを知らんらしい。まぁ……この弟子は明らかに浮世離れした生活を送ってきたみたいだからな。こちらの常識を押し付けるのもおかしな話だろう。


「カッパというのは……アレですよ」日本の妖怪だ。きゅうりが好きだと言われる妖怪だ。「雨の日に着たりするやつです。レインコートって言ったほうが伝わるかもしれませんね」


 そっちのカッパかい。語り出しが心霊現象風だったから、妖怪のほうだと思った。


「レインコートなら知ってます。あれ、カッパっていうんですね。かなりお世話になりましたよ」……雨風はしのぎたいだろうからな……「その、カッパがどうかしたんですか?」

「カッパが……着れなくなったんです……!」


 そんな迫真の表情で言わなくてもいいのに……死体見つけたときのリアクションだぞそれは……


 しかし少年のカッパが着られなくなった……それはどういうことだろう。


「……それは、あなたが成長したということでは?」


 真っ先に思いついたのはそれだ。純粋に少年の体が大きくなって、昔のお気に入りのレインコートが入らなくなったということ。だから泣いていたという可能性。


「いえ……先週買ったばかりのカッパなんです……昨日までは着れていたのに……どうして……」

「それは……なぜなんでしょうね……ちょっとわからないッス」たしかに。今のところ、俺にもわからない。「別人のを間違えて持って返ってしまった可能性はないッスか?」

「ないです……名前も書いてあるんです」


 間違いなく自分のものなのに、それが急に着られなくなってしまった。


 ふーむ……


 俺はちょっと口を挟んでみる。


「カッパが壊れた、ってことはないんだよな?」

「はい……お気に入りだったので、ちゃんと保管しているはずなんです」

「なるほどねぇ……」まだなにもわからないが……「とりあえず、そのカッパを見せてくれないか? 実際に着ようとするところを見せてくれ」

「は、はい……」


 そうして少年はカバンからカッパを取り出した。

 

 どこにでもありそうなカッパだった。上下セットの青色のカッパ。


 大きさを見ても……特に問題なく少年が着用できそうな大きさに見える。破れてもいないし、切れてもいない。新品に近いような状態のカッパだった。


 なぜそのカッパが突然着用できなくなったのだろう。


「じゃあ……着ようとしてみますね」


 そう言って、少年はカッパを着用しようと動き始めた。


 そしてそれを見て……なんで少年がカッパを着られなかったのか、その理由がわかった。


 ……この少年……酔っ払ってんのか?




 読者への挑戦状っぽくなっていますが、そういう作品ではないのでお気軽に次のページにお進みください。

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