第6話 力士はそんなことしません
「ど、どうした探偵くん。まさか、密室の謎が解けたのか?」
「……警部……」アホらしすぎて体に力が入らない……「ですから、電話越しで現場の状況を伝えてください。そしたら、わざわざ移動する手間がなくなりますから……」
こんな状況で密室殺人だとか言うな。密室に失礼だ。
「それで探偵くん……この密室トリックは、いったいどんなものだったんだね? 窓も鍵が閉まっていたし、扉も閉まっていたんだぞ? 天井もある」
「たしかに天井はありますけどね……」俺はその部屋の地面があるべきところを指さして、「床がないじゃないですか……!」
そう……その部屋には床がなかった。2階と1階の部屋が縦に繋がっていた。なんなら……下の階の人が美味しそうにご飯を食べていた。
「な、なんだって……?」警部が驚いた顔をして、「ほ、本当だ……! 床がないじゃないか……!」
「今? 今さら気づいたんですか?」
部屋の床がないことに気が付かなかったの? その状態で密室殺人とか幽霊とか言ってたの?
「と、とにかく……この部屋は密室じゃなかったんですよ」下の部屋と繋がっていた。「だから……その、たぶん下の階層の人が犯人だと思うんですけど……」
その犯人らしき人は美味しそうにご飯を食べている。その人からすれば天井がない状態なんだが……まったく気にした様子はない。
俺がおかしいのかな……最近の旅館って、こんな感じなのかな……
「というか警部……1階の部屋が見えていることに疑問を感じなかったんですか? 床がないことを、どうやって脳内で処理していたんですか?」
「力士がつっぱりの稽古をして壊したのかと思っていたよ」
「力士はそんなことしません」公園の雪でつっぱり稽古もしない。「と、ともあれ……これで密室の謎は解けましたね」
「そうだな。さすが探偵くんだ」
「……ありがとうございます……」
バカにされてるようにしか聞こえないけれど……まぁ称賛はありがたく受け取っておこう。
ああ……
そろそろ、まともな推理したいなぁ……
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