第4話 ゴールを設置してほしいって言ってます

 俺は事件現場に向かう準備をしながら、


「そこの女子高生」

「なんでしょう」

「これ、この事務所の合鍵だ。ここで寝泊まりするなら必要だろ」

「いいんですか?」女子高生は鍵を受け取って、「自分で言うのもなんですけど、私……かなり怪しいッスよ? 泥棒して帰るかも」

「そのときはそのときだよ」俺は肩をすくめて、「大切なものは金庫に保管してある。キミが盗めるものなら、なんでも使って構わない」


 もしも女子高生が金庫を開けられたら……それは俺が知恵比べで負けたということ。ぜひとも中身も持って言って良い。悔しいけれど。


「……変わった人ッスね。師匠は」

「俺以上に変わった人間は多数いるよ」目の前にもいる。「……というか、師匠ってなんだ?」

「暇なので探偵でも目指そうかと。ですので、いろいろ探偵のこと教えて欲しいッス」

「……教えるほどのもんでもないけどな……今のところ、俺のところに舞い込む事件はおかしな事件ばっかりだ」


 まともな推理なんてした記憶がない。


「おかしな事件とは?」

「そうだな……」俺はこの事務所を指して、「たとえばこの部屋だが……事故物件だったんだよ。幽霊がいるからなんとかしてくれって依頼を受けて……そのまま借りてんだ。だから安かったし、結局幽霊も見ないから……まぁ良い買い物だったよ」

「なるほど。さっきからこっちを見てる女性は幽霊さんだったんですね」


 思わず振り返ってしまった。しかし、この部屋には俺と女子高生しかいない。


「……なんか、いるのか?」

「はい。ショートカットで……バスケしてます」

「もっと幽霊の自覚を持ってくれ」なにを幽霊生活エンジョイしてんだ。人を呪え。いや、呪われても困るけれども。「……そういえばあの依頼者……バスケ部の女子高生が自殺した部屋って言ってたな……」


 ……つまり……本当に幽霊がいたのか? 俺には見えてなかっただけ? 


 そうだよな……目の前の女子高生、自称俺の弟子がこの事故物件の情報を知っているとは思えない。ならば、おそらく本当にいたのだろう。


「その幽霊さんは……なんて言ってる?」

「ゴールを設置してほしいって言ってます」

「だから幽霊の自覚を持てよ」なにをバスケを楽しもうとしてるんだ。「……しかし、あれだ。わかったよ。時間があればゴールくらい設置しよう」

「ありがとうございます。一緒にやりましょうって言ってるッス」


 幽霊と? バスケを?


「……遠慮しておくよ……」勝ち目なさそうだし。「ま、まぁ……あれだ。とにかく俺は事件現場に行くから、留守番頼むぞ」

「私も行くッス」なんでだよ。「私、せっかく師匠の弟子になったッスから。仕事ぶりを見学したいッス」

「……嫌だと言ったら?」

「悲しいッス。おとなしく留守番するッス」

「……わかったよ……」おいていくのも……なんか心配だしな。「ただし……1つだけ言っておくぞ」

「師匠の仕事は危険なことが多いから、死んでも文句は言わないっす」

「なにその理解力」


 超能力者? 俺の頭の中を読まれたのか? 完全に折れが言おうとしていたことを言われたぞ。


 ……なんなんだこのホームレス女子高生は……幽霊も見えるしキャラが弱いとか言い始めるし……ただのアホかと思えば的確な推測をしてくる。


 ……


 ……

  

 って、ちょっと待て。


 俺、師匠であることを認めてる?

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