幽霊
第3話 ひとまず現場に来てくれ
「探偵さん探偵さん。探偵さんは、どうして探偵になろうと思ったんですか?」
「なんでついてきてんの?」
あの雪の中の公園事件があった翌日……なぜか女子高生が俺の探偵事務所にいた。
「キミは……昨日の事件のときにいた女子高生だよな? 知り合いじゃないよな?」
「初対面ということにしておくッス」
「キミ、そんな喋り方だったっけ?」
「一話を書いてみたら、私のキャラが弱いかなって思ったッス」
「だからメタ発言をやめろ」俺は嫌いだ。「んで……なんでキミがここにいる?」
現在地点は俺の探偵事務所。
そこそこ広くてキレイで快適な空間だと思っている。まだ駆け出しの探偵だった頃に調子に乗って借りた部屋だが……まぁ後悔はしていない。これくらいのオフィスがあったほうが、探偵らしいからな。
とある事情で家賃は安いのだが、今のところ不便はしていない。お気に入りの部屋だ。
「私がここにいる理由ですか? 話すと短くなるッス」
「短いなら説明してくれ」
「暇だったッス」
「そうか。よかったな。暇というものは素晴らしいぞ」すべての物事は暇から生まれる。「さて暇なお嬢さん。おかーさんに習わなかったか? 知らない大人について言っちゃいけませんってな」
「お母さんは私を生むのが精一杯で……そのまま亡くなりました」
「……スマン余計なことを言った」
マジで失言だった。見ず知らずの少女に、あまりにも配慮がない発言だった。
参ったな……俺は子供の相手が苦手だ。とくに目の前の少女のような……いつもニコニコしていて本心を出さないタイプの子供が苦手だ。あまりにも……つらい人生を送ってきたのが伝わってきてしまうから。
俺は頭をかいて、
「まぁ……あれだ。差し支えがあるのなら答えなくていいが……お前さん、家はあるのか?」
「公園に作りました」
「……素材は?」
「主にダンボールッス」
……ホームレスか……なるほど。だからあの時間に公園にいたんだな。だから制服が汚れているんだな。
「あー……」困ったな……まさかホームレスとは。「とりあえず……今から警察に連絡……いや、児童相談所か? こういうとき、どうすりゃいいんだ……」
「ここで生活させてほしいッス」
「そういうわけにはいかないの。今の御時世で俺みたいなおっさんが女子高生を家に泊まらせちゃダメなの」
「おっさんとは……探偵さん、おいくつなんですか?」
「……さぁな……」
「24と考察するッス」
なぜわかる。なぜ完璧に当てられる。人よりも老けているとよく言われるのに……
ともあれ……もう24はおっさんだ。眼の前の女子高生のように若くないのだ。
若くないとはいえ……女子高生を連れ込んだ罪で逮捕されるのは嫌だ。世間的に終わってしまう。
さて、どうしたもんかと悩んでいると、突然部屋の電話が鳴った。
「悪い」俺は女子高生に断ってから、電話に出た。「はい。〇〇探偵事務所」
『私だ』
「……警部、ですか?」また警部からの電話か……嫌な予感しかしないが、今回はタイミングが良かった。「ちょうど良かった。ちょっと今、女子高生を預かってるんですが……」
『昨日の女子高生だろう? キミのところに宿泊すると言っていたから、許可しておいたぞ』
なんで警部が許可してんの? 俺の意思は? 俺に決定権はないの? 俺の事務所兼家なのに?
……まぁ、誘拐犯扱いされないだけマシだと思おうか。うん、そうしよう。
「それで……どうしたんですか警部。また依頼ですか?」
『そうなんだ。なんと今度は密室殺人……どこからどう見ても、幽霊やゴースト、おばけの類が犯人としか思えんのだ』
なんで同じ表現を3つ使って幽霊を表現したんだろうか……相変わらず、この警部の話はよくわからん。
「依頼なら引き受けますよ」それが探偵というもの。「まず現場の状況を教えてください」
『ひとまず現場まで来てくれ』
「毎回言いますけど、現場に行かなくても解決できそうな依頼が多いので……とりあえず説明してください」
とんでもなくくだらない事件で県外まで呼び出されることもあるからな……ちょっとは安楽椅子探偵の真似事もしたい。
なのだが……
『ひとまず現場に来てくれ』
「現場には行きます。でも先に事件の概要を――」
『ひとまず現場に来てくれ』
RPGの無限ループする選択肢かよ……「はい」を選ぶまでひたすら繰り返すタイプの選択肢かよ……
毎回この調子だ。いつもこんな感じで現場まで出向くことになってしまう。
……
……まぁしょうがないか。これが探偵という職業なのだろう。クライアントの意見には答えなければ。
というか……
いちいち警察が探偵を頼ってくるなよ……
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