第2話 なんでそこをチョイスした?

 隣の女子高生が言う。……というか、この女子高生……本当に誰?


「雪の降り積もる公園の中に死体があった。でも足跡は1つもない。だけどこの事件は他殺だって言うんですか?」

「ああ」……なんで俺はこんな事件を真面目に推理しているんだろう……「さっきの警部の言葉を、思い返してほしい。というか現場をちゃんと見てほしい」

「さっきの警部の言葉ですか? 『なんだって? 事件の真相を教えてくれる?』ってやつですか?」

「なんでそこをチョイスした?」


 他にセリフあったよね。もっと重要なセリフあったよね。そこは限りなく重要じゃないセリフだよね。


「じゃあ『犯行現場は雪の降る積もる公園。その公園の砂場の真ん中に死体があったんだ。しかし……その周囲に足跡は1つもなかった。あったのは無数の力士がつっぱりの稽古をしていた跡だけだ。そのことから我々は自殺だと判断したわけだ』というやつですか?」

「すごい記憶力だな……」まるでコピペしたみたいに正確である。「その言葉の中に、なにか違和感はないか?」

「たしかに……」ようやく気づいてくれたらしい。「このご時世に、公園に砂場なんてありませんよね」

「どんな時代を生きてんの?」


 どのご時世になったら公園から砂場が消えんの? まず遊具からじゃない? 砂場で埋もれて死者でも出たのか?


「もっと他におかしなセリフがないか?」

「言われてみれば……」やっと気づいてくれたようだ。「なんでこんな場所で力士がつっぱりの稽古を?」

「そう、それ」やっと推理が進む。「そもそも……どうして警部は、この場所で力士がつっぱりの稽古をしていたと思ったんですか?」


 俺が言うと、警部は現場の砂場を指さした。


「見たまえ。あの砂場には手の跡がいくつもあるだろう。だから力士がつっぱりの稽古をしていると思ったんだよ」

「なんでそう思うのか不思議でなりませんが……」俺も現場を見て、「見てください。明らかに手の跡が被害者の遺体があった位置に向かって、その後折り返してきてるじゃないですか。これのどこがつっぱり稽古なんです?」

「なるほど……盲点だったな」


 盲点がデカすぎるだろ。


「そもそも力士の突っ張り稽古なら足跡も残っているでしょう。それに地面に向けてつっぱりを使う場面がどこにあるんですか」


 手を地面についたら負けなのに。なんで負ける練習をしないといけないんだよ。


「つまり……力士ではなく、関取ということか?」

「言い方を変えてもダメです。お相撲さんでもないですよ」

「つまり……なんだ?」


 この人……なんで警部という役職にいるのだろう。コネがあるのかな。


 そう思っていると、隣の女子高生が、


「つまり犯人は被害者を殺害したあと、逆立ち状態で被害者の遺体を公園の砂場まで運んだ、ということですね」

「急に理解力上がったな」この女子高生は……わかっててふざけてる節があるよな。「おそらくそういうことだろう」

「なんでそんなことを?」

「俺が聞きたい」なんで逆立ちで被害者を運ぶ必要があったのか……「まぁ、実際に警察の人間をごまかしかけていたからな。自殺に見せかけるためなんじゃないか?」


 現実として自殺として処理されかけていたんだからな……まぁ、犯人のしてやったりということだろう。


 ともあれ……これで事件は解決だ。


「この雪の中、逆立ちで死体を運ぶ。そんなことをしたら手の指に砂や雪が入っていたり、とにかくなにかしらのダメージがあるでしょう。まだ事件が起きてそんなに時間も経過していないし……周囲を調べれば犯人がいるんじゃないですか?」

「そうか……ありがとう探偵くん」警部は俺の腕をがっしり掴んで、「いつもキミには世話になっているな。今度、焼肉でも奢ろう」

「焼肉よりまともな推理させてください。まともな事件を持ってきてください」


 毎回毎回、こんなバカげた事件ばかり依頼される。


 世の中で起こっている事件というのは……こんなしょうもないものばっかりなのだろうか?


 いや……そんなはずはない。俺が探偵を続けていれば、いつか良質なミステリーに出会えるはずだ。たぶん。 

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