第5話 同窓会
やがて、走るのだけが、突然速くなった。クラスで一、二を争うタイムを出した。
なぜ急に速く走れるようになったのかは分からない。
ある日の五十メートル走のスタート前に、まっすぐ前を見ていたら速く走れる気がして、走ってみたら、速かった。
走り方を誰かに教わったわけではない。
もしかすると、やる気を出せばできるようになるのか?とも錯覚しそうになったが、球技ができないのは相変わらずだった。
中学生になっても、バスケットではシュートが入らないし、バレーではサーブが入らず、苦しんだ。
部活は陸上部に入った。
試合に出たり、そこそこやっていたが、足の速い人の中に入ると、そんなに速い方ではなかった。
中学では苦手な球技以外のスポーツをやろうと陸上部に入ったが、ダメだったので、高校では格闘技をやってみようと考えた。
大相撲やプロレスを観るのは好きだったのと、近くに町道場があった。
先輩後輩間の礼儀作法などが中学の時に嫌気が差していたので、高校の柔道部には入らなかった。
道場で色んな年代の人達に混じって練習するのは新鮮で楽しく、しばらくは夢中で頑張ったが、初段を取った頃になると技の習得に行き詰まるようになり、一年で辞めた。
ただ、その時、一時本気で取り組み身体に刻んだ記憶が、後の介護の仕事の助けになった。
数年前にあった同窓会で、牛島と三十年ぶりぐらいに再会した。
彼は勉強ができたので、学者になっていた。
体育嫌いの作文のことも、笑い話にできた。
僕があの時、二人で残されたな、と話すとはじめは思い出せなかったようだが、しばらくすると分かってくれて、あの時は意地張ってたな、と言い合った。今では考えられないな、とも言う。
あの時の先生は、同窓会には来ていない。
転任して行ったので、他の先生達も消息を知らないようだった。
牛島はもともと勉強が得意で成績が良く、中学、高校とさらに成績を伸ばし、中学は地元の公立で一緒だったが同じクラスにはならず、話すこともなくなり、高校は僕は中の下クラスの公立高校、彼は進学校に進んだと聞いている。
小学生の頃に僕のことを散々罵った同級生とも、中学生ぐらいになると普通に話したり、一緒に帰り道を帰ったり遊んだりするようになり、同窓会でも懐かしく談笑していた。
考えてみれば、誰のことも恨んだりしていない。
ただ、運動ができなかった記憶は僕の中にこびりつくように残っていて、今まで、人生の岐路に立った時、どうせおれはだめだろうな、と内なる声が聴こえ、影響してきたように思える。
その後、アルバイトしたり就職したりした先で、ボウリング大会とか卓球大会とか野球とかサッカーとかフットサルとかバドミントンとかバレーボールとかゴルフとか、誘われたり、やろうと言われたりするたび、まず、どうやって逃げようか考え、悩むことになった。
他の人達が当たり前にできることを、自分だけは、決してできない、と決めてかかっている節があった。
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