ラフ参り、ビバ日曜

闇雲ねね

ラフ参り、ビバ日曜

 完璧な日曜日。というテーマを聞いて私は考えてみた。満足な日曜日だとか、平和な日曜日でもない。完璧な日曜日。もし絶頂のような稀な出来事が起こっても、イコール完璧と言い切る自信は私は持てない。普段の日曜日も、サザエさん症候群とも呼ばれる現象へと陥り、夕方には明日からの激務を想像してしまい、憂鬱から逃れるように次の酒缶をプシュリと開けている私がいる。

 完璧の妥協点を考えてみると、その日を罪悪感なく過ごすことができれば、言い換えれば完璧と私なりに体感できないだろうか。

 文学祭への応募締切前日の日曜日、丸々この身を使って、完璧な日曜日を実行してみたのである。では、書くタイムリミットもあるので、手短に始めよう。

 スマホのアラームを鳴らし、早起きをする。平日以上に早く早起きするのは苦痛であるので、平日より三十分遅らせて早起きする。寝られるのなら休みは昼過ぎまで寝ていたい。でも完璧のために朝起きる。なるべく早く家を出られるように、前夜にできることを支度しておいた。服を一式まとめておくとか、電車の乗換案内アプリで時間の検索をかけておくとか。

 外は晴れていた。気温も上がる予報で幸先が良い。駅の方向へと自転車を漕ぐ。車が少なく立ち漕ぎしてみたくなったが、腰が少し痛いので、お行儀良く漕ぐ。契約駐車場に自転車を停め、最寄り駅から電車に乗る。そして二時間強、乗り換えを挟みながら生まれ育った地元方面へと向かう。向かう先はご先祖様たちが眠る霊園。私はこの日曜、墓参りしようと考えてみたのだ。ハードモードで暮らす現代人にとって、墓参りはある種、徳を積むような行為と言えないだろうか。日頃どれだけだらしなく乱れて破廉恥に暮らしていても、墓参りとは聖域のような肯定力を備えている。ご先祖様たちの力(パワー)は偉大だ。あらかじめ用意しておいたワンカップを一本開けて、墓石へと回しかける。酒好きだったおじいちゃんを思い出す。そして、私用に用意しておいたもう一本のワンカップを開ける。先祖と同じ酒を飲み交わしながら、心で問いかける。今日のステークス、どの馬勝つかな。あ、馬。そう、競馬です。このあと向かうは競馬場なので、先祖の答えを聞いておくのだ。予想は誰かとしたほうが楽しいと私は思う。先祖が五番とスピを放った(気がした)。残りのワンカップをぐびりと飲み干し、さいならと帰路につく。

 帰路の途中で、最近気に入っている発泡酒を補給する。飲み心地のライトさが心地良い。天気が良いと酒も旨い。

 競馬場に辿り着く。今時馬券はネットで買えるし、賭け事目当てであれば現地へ向かう必要性はない。だが私は競馬場の雰囲気が日曜らしくて好きなのだ。皆さんも偏見無くして行ってみてください。レジャースポットだから。大人のピクニック。それに天気が良いと酒も旨い。プラカップのビールを買う。大人に許される特権。それって酒だ。馬だ。馬が駆けて酒を煽る。最高。私が心で賭けた馬は途中から失速して負けた。ご先祖が教えてくれた馬は二着に終わった。

 競馬場を後にする。デパ地下で惣菜を買い、スーパーで酒を買った。外はもう暗い。テレビではちびまる子ちゃん。グラスに氷を山盛り入れ、甲類焼酎をソーダで割る。家での一杯目をぐいっと飲み干し、惣菜を開ける。完璧だ。ご機嫌でカレーを仕込む。肉と芋を煮込んでいる間に風呂を済ませる。ハイボールに切り替え、炭水化物を欲してきたころ、仕上がったカレーを注ぐ。カレーは飲み物だから注ぐのかな。って、酔っ払ってきた。てへ。テレビではタレントたちが座り、ああだこうだと賑やかだ。見るでもなく眺めながら、手元でスマホをいじる。仕事関係の連絡も今日は来なかった。完璧だ。腰の痛みが酒の薬理作用で緩和している。明日に備えて早めに寝床へ。ぬくぬくしながらうとうとする。知ってる先祖の顔を大ざっぱに思い浮かべてみた。先祖たちの顔はハイボールにまみれた。眠気が私を呼びにきて、私は夢に溺れた。

 と、これが私の昨日の日曜日である。完璧。と自分を褒めてみる。電車に揺られながら朝これをせっせと打ち込んでいる。酒のことばかり書いてしまっているな。帰って酒が飲みたい。長生きしよう。ご先祖様、今日もおはよう。

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