第51話 魔の森の主  再び魔の森へ



そんなコツコツ真面目なサリナスの人々の虎の子の戦闘機は極めて優秀でした。

デザインも繊細で美しくサリナスらしさに溢れていました。

小型高性能戦闘機のシルフィと双璧を為すと言われるヴァイパー中型戦闘機は双発でより高性能と言われています。

こちらはテツインダストリーと並ぶサリナスの巨大企業アズマ財団の製造とのことです。

今回は詳細を見学できませんでしたが次の機会を待ちましょう。

きっと真面目で洗練された美しい機体でしょう。

いずれにしても生産性よりも職人の工夫と努力が顕著なサリナスの主力戦闘機を見たのは大きな収穫でした。

迷宮が氾濫してもイシュモニアの魔導師を頼った事が無いのも当然ですね。

まぁサリナスだって優秀な魔導師がいるそうですけど。




※※※※



チハヤの勉強は急速に進んだようです。

私もたくさんの学びがありました。

マリアはチハヤとの旅をとても楽しんだようですが私その気持ちが良く分かりました。

子供のように素直で確かにそれだけ若いんですけど。本当に知識の吸収力が桁外れですね。

おかげで私も以前と比べられないほど学びが深くなりました。

もうそろそろイシュモニアに戻っても良さそうです。

チハヤは以前にサリナスの皇室の方々と多少の関係があったそうですが今回はそれを利用する気は無さそうです。

ツナミや地震やサイクロンなど自然の災害が多いサリナスです。

その為だと思いますがサリナスの国民はほとんど人を騙したりしません。

だからでしょうか?サリナスでは皇家と国民の絆が深いように感じます。

恐らく今回以上に深くサリナスを調べるのは難しいでしょう。

また私たちが知っても意味がない事もあります。

例えば様々な儀礼などはサリナス人ではない私たちには無用の知識です。

ゆえに私たちは最短で最大の成果をあげたと言えるでしょう。

謎の国だったサリナスをかなり理解することができました。

そろそろ帰国しても良いでしょう。

最後に皆へのお土産を買うことにしましょう。

今回は食材などが中心になりそうですね。

東の商都ムサに立ち寄りました。



※※※※※




小さな国だったのに結構時間がかかりました。

でもサリナスという国について私なりに分かったことがあります。

歴史に学んで国柄を大切にして来た国は安定しているということです。

安定しているという事は教育が上手くいっているとか治安が良いとか。物価が安定してるとか国民の収入が良いとか。

災害があっても復興が早いとか国防能力が高いとかですね。

サリナスも皇女の誘拐未遂事件があったので小規模の奇襲的な軍事行動に対する警戒が厚くなったようですけど。一般的な意味では防衛能力の高い国なんですよね。

なので全体的には非常に安定した国と言えるのです。

サリナス国民であれば豊かに暮らせる。安心できる。これは良いことですね。

イシュモニアは魔導師ギルドの総本山で極めて強力に守られているのであまり感じませんでしたがヘルヴィティアとサリナスを見た今では分かることもあります。

つまり非常に強力な軍事的なパワーがあるから誰も手を出さないし同様に強いサリナスやヴァイエラと親しい同盟国だから手を出す意味も無い国だということですね。

攻めたら損害が大きすぎるからです。あの軍事偏重のヘルヴィティアでもサリナスやヴァイエラを狙っているのにイシュモニアは狙っていません。

その代わりというかイシュモニアの場合いわゆる統治は非常に緩いんです。

税金も特別なお金持ちにならない限り安いですし。

いわゆる公共のインフラなどもみんなで話し合ってなるべく民間で行っていますし。

イシュモニアは統治が緩くて国民の自活が大事だったんですね。

医療は魔導師の力がありますし。教育水準も高くて無料。

国家の防衛は極めて強力。

国民に干渉しない。その代わりに細かいことは国民たちの自活に任せる。

今考えれば面白い統治体系ですね。

リュティアが言っていること。

生きていること。

元気な事。

その2点は国が保証する。

けれども。

幸せになること。

その最後の1点は国民に委ねる。

それがイシュモニア。



※※※



みんな元気でした。

たぶん誰も私たちを心配してはいなかったと思いますが。

でも考えてみるとヘルヴィティアへの旅よりも望んだ結果が得られなかった可能性は高かったとも言えます。

同盟国なのに秘密のヴェールに閉ざされた国。

サリナス。

面白い旅でした。

でもソフィのお陰でかなりその深奥に迫ることができました。

お土産も上出来でしたね。

お酒も食材も良かったです。

リュティアが私に用意してくれたコケモモやサルナシがサリナスの産物だったことも分かりました。

楽しかった。

サアヤもロザリンドもマリアも笑顔で私たちを迎えてくれました。

ジュヌヴィエーヴも。

背の高い新しい友人はその実力を発揮していたようです。

学問はサアヤに並び。

実技はロザリンドに迫る。

前評判の通りの実力だったようです。

「元気そうで良かったチハヤ」

ロザリンドは相変わらず男前ですね。

「待ってましたよ」

マリアの笑顔も変わらず。

「もうすぐチハヤのお誕生日ですね」

サアヤは覚えていてくれたんですね。

「チハヤ先輩。契約なさるんでしょ?」

ジュヌヴィエーヴも笑顔でした。そうです。私とうとうあの龍と契約します。

魔の森の龍と。黄金のドラゴンロード。ファヴニールと。

「伝説の龍王が守護者になったらまた実力に差がついちゃうな」

ロザリンドの全力と私の全力。どうでしょうか?負けるつもりはありませんけど。

それにファヴニールはロザリンドの不死鳥のようにテイムするわけではありませんし。

「私たちも見学できるのかしら?」

ジュヌヴィエーヴの疑問ももっともですが。儀式はリュティアが行ってくれると思います。



「リュティア」

「チハヤ。戻ったのね」

お土産を配るのはソフィに任せて。私はリュティアの懐かしい飛行艇に戻りました。

いつものように私はリュティアの腕の中に。リュティアは優しくハグしてくれました。

「契約の儀式。うまくできるかな?」

リュティアは花のような香りの中で笑顔でした。

「心配いらないわ。それより立会人は誰になるのかしら?」

「私のお友達は5人とも行くと思う」

リュティアは少しだけ考えました。

「教授たちは誰を連れて行けば良いかしら」

「リュティアは誰が良いと思う?」

「儀式をちゃんと見れる人としてゴルウェン教授はいた方が良いと思う。他はあなたが一番好きな人を連れて行けば良いわ」

「・・・アイリスかな?」

リュティアはにっこりと花が咲くように笑いました。

「そうね。あなた達は似ているし。親和性が高いから良いと思うな」

そう言われるだろうと思いました。

私は安心して休むことができました。



※※※※※


一夜明けるとソフィからメールが届いていました。

『お疲れ様。

元気回復した?

リュティアさんのお料理でエナジー満タンかな?

お昼の後にロザリンドがジュヌヴィエーヴと演武を見せてくれるらしいわ。

あなたも行くわよね?

夜は私の家で集まるわ』

面白そう。

夜の集りもだけど演武も楽しそう。

ジュヌヴィエーヴがどれだけヤルのか?楽しみ。

「チハヤ起きた?ご飯食べる?」

リュティアの声です。

「今行きます」

美味しい朝食が待っていました。



※※※



何日かぶりに勉強部屋を訪れてから学院に行きました。

クリーンの魔法で部屋を綺麗にしてから魔砲についてまとめたノートのコピーと古代の魔砲の書籍をリュックに入れました。

ララノアをカチューシャに乗せて学院に行くとちょうどマリアとソフィに出会いました。

「チハヤ!」

「マリア。ソフィごきげんよう」

「師匠のところでしょ?一緒に行きましょう」

私たちはクラリセ老師の教えに従ってなるべく転移も飛翔も使わず歩いていましたから勿論同意です。

「リュティア教授と儀式の話はしたの?」

旅行中は全くその話をしなかったのでソフィが少し心配そうに聞いてきました。

「もちろん。みんなで行くことになったわ。教授はゴルウェンさんとアイリスを呼ぶことにしたの」

マリアが少し笑って応えました。

「やっぱり。ゴルウェンさんは確実だと思ったけど。最後の一人はアイリスさんだと思ったわ」

「私はリデルさんかと思った。あなた本の虫だし。仲良しだもんね。まぁ言われるとアイリスさんで納得だけど」

ソフィの予想も惜しかったですね。

クラリセ師匠の道場に着くとサアヤもロザリンドもいました。

「ごきげんよう。ロザリンド。サアヤ。ジュヌヴィエーヴは?」

マリアの問にロザリンドが応えました。

「ごきげんよう。みんな。期待の新星は奥で準備してるわ。きっとソフィとチハヤはびっくりするかも」

「ソフィとチハヤの感想が楽しみね」

サアヤも笑顔でした。

そこへクラリセ老師と話題の新人が現れました。

「ごきげんよう。みんな」

「みんな揃ったね。待たせても悪いから始めようか」

舞の道着をきちんと着込んだロザリンドとジュヌヴィエーヴが中央の演武ゾーンに立ちました。

審判役はサアヤです。

「準備は良いですか?では。始め!」





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