第43話 魔の森の主 お誕生日の約束
ともかくクラリセ師匠の評価が良かったのは自信につながりました。
なのでそれからしばらくはリュティアと一緒にレナーティアーの制御実験と訓練です。
ララノアのスキルで私の能力が全体的に底上げされているからでしょうか?
さすがのリュティアもかなり厳しいようです。
でも勿論ネイキッドでは最初は全然敵いませんでした。
リュティアの強さがやっと本当に分かって来た感じです。それと同時に私は慢心していましたがエディスやイフィゲーニアたちSクラス魔導師の強さをやっとリアルに想定する事ができました。
もしもリュティアとクレセントムーンがあの異世界のアーティファクトのパワーを解放して自由に使えるようになったら。
私はレナーティアーの能力を使っても全然相手にならないでしょう。
ネイキッドで例えばエディスを圧倒できるような強さを得ないうちはSクラスで強くなったとは言えないんです。
リュティアとの模擬戦でまだまだ先が長いのを実感しました。
けれどもネイキッドの強さが向上したおかげでレナーティアーの出力制御もより安定したようです。
以前と異なり狭い場所での制御にも自信がついてきました。
リュティアといろいろ実験して分かったのですが私が防御とか攻撃とか限定しての場合はネイキッドで行っても修行の効果があるみたいです。
防御の場合はリュティアにある程度は手加減してもらうのが条件ですね。
また空間機動に関してはリュティアに本気でやってもらっても大丈夫みたいです。
私もかなり進歩したみたいですね。たぶんレナーティアーを着装しての訓練のおかげで目が慣れて勘も良くなったようです。
そういった条件が分かってきたのでレナーティアーでの機動テストとは別にネイキッドでの訓練を行うようになってきました。
ただこれも分かって来たのですがリュティアもだんだん慣れて上達しているようで始めの頃より手強くなってきました。
それも私の訓練には良い事なんですけれど。
いずれにしてもレナーティアーの制御は精度が向上しており私がレナーティアーの全力を使い熟すことが次第に可能になってきました。
※※※※※※
グプタ帝国の首都アウランガバード。恐らく世界最大の巨大な都市だ。
冒険者ギルドの本部はここにある。
グランド・ギルドマスターのシメオン・ドニ・ポアソンは評議員会議を招集した。
冒険者ギルドの最高意思決定機関である。
サブマスターのニールス・アーベルが口を開いた。
「では“谷の迷宮”氾濫に関する評価を開始しよう」
「界隈ではかなり話題になっているようだな」
ドワーフ系の錬金学者ヨーゼフ・リーヴィルは興味深々のようだ。
「まず画像を見よう」
エルフ系の魔導師エルノール・ヘルマンは大鏡を起動した。
※※※※※※
ある日サアヤから連絡がありました。
「チハヤ覚えてる?」
?・・・!
「お誕生日!」
「良くできました」
「海王の月の8日だった?忘れてた・・・」
「もう明後日ですよ。でもあなたの衣装は決まってるし別に用意もいらないけど」
???
「衣装?」
「レナーティアーに決まってるでしょ」
げ。
「あなたが言ったのよ。イシュモニアの天使がフェニスの姫の誕生日を祝うって」
言いました。
学院長の許可を・・・
「ゾシマ老の許可はもらったわ。もう私たちAクラスだし。一種の親善大使ね。フェニスと仲良くするのは良い事だわ。イシュモニアは島国だもん」
「そう言えばあなたはイシュモニアに永住するの?」
サアヤは驚いたように眼鏡の奥の輝く瞳をこちらに向けました。
「永住?それは分からないけどAクラスの賢者だって研究生には変わらないし。でも母も呼ぼうかと思ってるの」
やっぱりお母さまと暮らすのね。
「母は看護師だからイシュモニアでも職があるし。暖かくて母の身体にも良いし。食べ物も豊かだし」
「良いかも」
私たちはAクラスには認定されたけど研究生の身分は変わらないし。かと言ってお給料も増えたし。大財閥のソフィや由緒正しい伯爵家のマリアと違って庶民のサアヤがお母さまを呼び寄せるのは自然かも知れない。
何よりイシュモニアにいれば安全であることは確かですから。まぁサアヤも長距離転移が自在なのでいつでも会えるのは同じなんですけどね。
「じゃ明日行く?フェニスに?」
「そうね。お誕生会はフェニスで行うらしいわ。まぁあんな事件があれば安易に母国を出ないよね。首都のキアノスにお越し下さいって招待状が来てるわ」
クトネシリカが調べた限りではノース議長の支持基盤は安泰らしいですね。当分はマリアンヌちゃんがフェニスのお姫様という事になるでしょう。
私たちは1日図書館で過ごすことにした。
勉強することはいっぱいあるので。例えばゴルウェン教授のおっしゃった“ここのここ”“今の今”を感覚でも理論でも知らなければならないのですから。
※※※※※
サアヤに導かれてフェニスの首都キアノスには簡単に着きました。
正五角形のキアノス城を中心に幾何学的に道路が配された美しい街でした。
私は普段の聖女の衣装にハイディングのマントを着てサアヤに従いました。
お城の人々は全く私に気づかずサアヤはマリアンヌちゃん母子のところに通されました。
マリアンヌちゃんは少しだけ大きくなって変わらずに可愛い良い子でした。
お母様もお元気そうで若々しい外見は以前の通りでした。
始め二人は私に気づかず寂しそうでしたがマリアンヌちゃんの視線は何度か私を捉えていました。
ハイディングのマントを脱ぐと二人とも笑顔が輝くのが見えました。
特にマリアンヌちゃんはあの時のように駆け寄ってきました。
「天使様。私のお誕生日に来て下さったのね。嬉しいです」
ぱっちりのお目々もぽっちゃりの唇も小さなお手々も美しい金髪も大聖堂の壁画の天使さまのようでした。
髪はカチューシャでまとめられ賢そうなおでこが見えました。輝く菫色の瞳も美しく将来はお婿候補を選ぶのが大変だろうなと思われました。
フリルいっぱいの可愛らしいドレスが良くお似合いです。
お母様も若々しくて笑顔が可愛らしいです。さすがマリアンヌちゃんのお母様ですね。
この母子は視線が強くて。二人に笑顔でガン見されると何だか恥ずかしいです。
ロザリンドほどじゃありませんけど鈍感力のあるサアヤも眩しそうにしていました。
とりあえずリュティア監修で私が作ったネックレスをお誕生祝いにプレゼント。
実は呪い反射の強力なものです。
サアヤは事前にサイズを調べていたらしく赤い靴をプレゼントしていました。
疲れずに歩ける魔法が付与されていたのがサアヤらしいですね。
お母様とマリアンヌちゃんと3人で遊んでいるとお父様とお付きの人々も来ました。
何かサアヤと打ち合わせしていましたが私は興味ありません。
マリアンヌちゃんはなかなか賢くてチェスもとても上手でした。
良い手を指した時に負けてあげると恥ずかしそうでした。
美味しいお食事を戴いて。一夜明けるとお誕生日です。
とても清潔なお部屋が用意されていました。
マリアンヌちゃんは珍しく強引に私と同室する権利を確保。お母様は笑顔でした。
私は良いんですけど。お父様は何かをこらえていらっしゃいました。
※※※※※※
翌朝はサアヤが起こしに来ました。
マリアンヌちゃんも同時に起床。
お付きの侍女の方々に連れて行かれました。
朝食はサアヤと二人で。
いかにも高価なものと分かる素晴らしい贅沢な朝食でした。
朝食の席で言われました。
今日の演出を。
げげ。マジですか?
リュティアの言葉。
「生きていて
元気で
幸せなら
人生はそれで充分。
他の事は所詮おまけのようなモノ」
そして。
「地位とか
名誉とか
職業とか
功績とか
成績とか
お金とか
全てゴミ」
だから。
マリアンヌちゃんのお誕生日に多少のパフォーマンスくらい。
私の幸せのために。
式典は盛大でした。
議長閣下のご家族を中心に。
とゆうか。
マリアンヌちゃんの御一家を中心に円形広場に雛壇が作られ。
数万のフェニス国民が集まり。
この日はどんな商いも無税だとか。
それどころか広場の飲み食いは全て無料。
広場の外の商店街や並んだ屋台も大サービス価格で。
昼間っから花火が上がり。
フェニスを守る聖騎士たち。
魔導師たち。
芸術家や高官も招待され。
特別な料金で雇われたタレントたちが芸や技を披露し。
国の内外から集められた花々や果物が無料で配られました。
私はヒトもエルフもドワーフもノームも獣人も平等に栄えることができるフェニスを少し好きになりました。
税金は大きな土地と大きな商いにしかかかりませんし。
農民や漁民や牧畜民や職人たちは皆幸せそうでした。
いくつかある迷宮は魔石や魔晶の産地として国家管理。
貴重な金属や資源の採掘される鉱山も国家管理。
学校は無料で食堂も安価。
医療も常に最先端のものが安価に受けられるフェニス。
空軍はヴェイエラやサリナスに劣りますが世界最強の海軍を有し。
イシュモニアともサリナスともヴァイエラとも強い友好関係を保ち。
豊かで安全で可能性に満ちて幸せな国民のいるフェニス。
魔導科学はもちろんですが科学技術にも国家の資材を投入してトップクラス。
なかなか素晴らしい国です。
何より良いのはいろいろな意味で貧しい人でも幸せに生きることができること。
もしも私が魔導師でなければ。
この国に住むのも良いと思われるのでした。
そんな幸せな人たちの楽しい式典のなか。
突然。気象改変の魔導により雲が出てきました。
音楽も花火も止んで静まった会場の上空に突如明るい光が。
眩しい光の中に24枚の羽根を持った天使がいました。
黄金の杖を持った輝ける天使は静かにマリアンヌちゃんの前に降り。
細く美しい黄金の杖をマリアンヌちゃんに授けたのでした。
そしてひときわ眩しく輝くと。
するすると天に帰ってしまいました。
一瞬で空は晴れ。
音楽と花火が再び始まりましたが。
群衆の視線は一点に集まっていました。
可愛らしい笑顔で杖を掲げるマリアンヌちゃんに。
爆発的に起こった拍手が鳴り響きました。
※※※※※
その夜。
朝まで焚かれる篝火の中。
着飾った婦人たち。
笑顔で踊る少女たち。
あるいは語り。
あるいは呑み。
あるいは賭け事に興じる紳士たち。
その喧騒を遠くに聞いて。
フェニスの城の尖塔の一つにマリアンヌちゃんとご両親とサアヤと私がいました。
「天候改変の大魔法お疲れ様」
「あなたこそ幻惑魔法お疲れ様でした」
「お二人とも見事でしたよ」
「お姉ちゃん。天使さまありがとうございました」
名残は惜しいのですが。
ハイディングのマントを羽織りました。
「ではまた来年。お会いしましょう」
如才ないサアヤが連絡係で良かった。
「お姉ちゃん。天使様。またね~」
超長距離転移でソフィの家に跳びました。
「おかえりなさい」
「早く映像を見せて」
「二人ともお疲れ様」
「食べ物も飲み物もたっぷりありますよ」
女子会の始まりです。
※※※※※
タイサンボクの花の下のベンチで読書していると。
「だ~れだ?」
ハイディングのマント着てるのに。
「アイリス?」
「あたり~」
アイリスが可愛らしい小柄な身体を翻して私の隣に座りました。
可憐な笑顔が切なくて。リュティアと違う良い香りがしました。この人Sクラス魔導師で教授なのに。真実の司なのに。
「何読んでるの?『理論物理学概論』。いよいよあなたも渡り人になるの?」
勘の良い人。ハイディングのマントが効かないし。危険なヒトね。
思わず笑みがこぼれてしまった。
「あら。何笑ってるの?可愛い人は得よね?笑顔で剣聖に勝てるわ」
こんな可愛い人にそんな事言われてもね。
くすぐったくて思わず。
「重力魔法グラヴィトン。時間を超えるタキオン。空間を超えるフォトン。次元を超えるディメンション。
もし間違えば今の今。ここのここに戻れなくなります。
私魔導師の修行もですけど研究生として勉強も頑張らなければ」
話してしまいました。
「そうね。大変な重荷なのね。でももっと気軽になってね。
100年後で良いのよ。それは。
あなたにはたくさんの時間があるのだから」
眉をひそめて小首を傾げるアイリスを見ていると切なくて。
抱きしめてしまいそうでした。
「それよりまず教授を目指して。
司になって。
そしたら一緒に学院にいられるわ」
愛らしいアイリスの誘惑は真祖の魅了以上の魔力がありました。
まず教授。それも良いかも。
「肩の力が抜けたわね。良かった。
せっかく可愛いんだから人生を楽しんでね」
そう言うと私の頬に軽くキスして笑顔でバイバイして行きました。
アイリス。
リュティアの教え子だった人。
たぶんリュティアに魅了された人。
愛しいのは何故?
哀しいのは何故?
私も思春期なのでしょうか?
※※※※※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます