第39話 魔の森の主 研究生の生活
短い滞在が終わってイシュモニアに戻りました。
ほぼほぼ成功と言って良い訪問になりましたから労いの言葉をいただきました。
クラリセ師匠はロザリンドに下賜された指輪を喜んでいました。
リュティアは私に下賜されたアーティファクトを見て言いました。
「これについては余り触れない方が良いわ。これはあなたの命を救うアイテムになるかも」
なるたけ目立たないように。リデル教授のお言葉を思い出しますね。
「見た目は地味だけど。実は凄いアイテムよ。あなたのお友達は良い子たちだけど。でも内緒が良いわ。内緒にすればこのマントの凄さは分かり難いと思う」
そんな凄いなんて。そのうち試してみようと思います。
それにしてもそろそろ研究生として本来のお勉強の時間の始まりですね。
私はまずゴルウェン教授にお会いしようと思いました。
「光のスプライト。またはエルフィンね。あなたちょっとレナーティアーを着装してご覧なさい」
ゴルウェン教授の見立ても同じでした。ララノアの素性はこれで確定ですね。
「やっぱり喜んでる。この子が成長したら凄いことになるわね」
ララノアって凄い子だったのね。
「この鎧とララノアちゃんの組み合わせであなたは渡り人になるのね」
え?それって・・・
「リュティアと同じですか?」
「そうよ。時も次元も越えて旅をする旅人ね。私は秘密を守るけど。余り人に知られない方が良いわ。そして基本的なことはリュティアに学ぶと良いわ」
「この子ってそんなチカラがあったんですね」
するとゴルウェン教授は穏やかに微笑みました。
「根本的にはあなた自身の能力よ。その鎧と光のスプライトはそれを大きく増幅する触媒ね」
「そのチカラって・・・」
「重力を操るグラヴィトン。空間を超えるフォトン。時を越えるタキオン。次元を超えるディメンション。4つの魔導が完成すると魔導師は渡り人になる。光のスプライトはその全てに関わるわね。あなたのチカラを安定させてくれるはず」
ララノア。驚きました。考えてみたら幸運の髪飾りのおかげかもしれませんね。
「私自身は渡り人じゃないから。これ以上は理論しか知らないわ。それにしてもこんなに早く二人目の渡り人が現れるなんてね」
私が二人目の渡り人。
「たくさん勉強しなきゃね。いくらララノアがいてレナーティアーを着装しても感覚だけでは“今の今”“ここのここ”に戻れなくなる恐れがあるわ」
「“今の今”“ここのここ”」
「そうよ。頑張ってね」
「ありがとうございます。これからもご指導宜しくお願い致します」
教授はまた微笑みました。
「それは大丈夫よ。いつでも歓迎するわ」
また来ます。絶対。
次は当然リデル教授です。
智慧の砦である大図書館はいつものように静謐でした。
でも教授は直ぐに私を見つけてくれました。
「お!とうとうテイムしたのね。光のスプライトね?」
教授は直ぐにララノアに気づきました。そして私室に案内されました。
「ララノアです。宜しくお願いします」
「微笑む太陽ね。良い名だわ」
ララノアも嬉しそうに光りました。
リデル先生もレナーティアーの着装をリクエストされました。
ララノアが喜んでいるのを見て。
「やっぱり」
え?
「何故か分からないけど親和性があるわね」
その状態で記録映像を撮られました。
「これであなたの姿はほとんど確定したわね。あとはあなたがその姿を如何に使い熟すかね。グラヴィトン。フォトン。タキオン。ディメンション。あなたが自分で探求するのよ。道に迷ったらあなたにはリュティアさんがいるわね」
ゴルウェン教授と同じことを言われました。
「ありがとうございます。これからも宜しくお願い致します」
リデル先生は笑顔で。
「もちろんよ。いつでも来てね」
やったね。
※※※※※※
「だいぶお転婆したから当分お勉強ね」
楽しそうなリュティア。
「はい。リュティアと一緒にいられます」
「嬉しい」
「私も嬉しいです」
美味しい夕食の時間。潮干狩りで採った貝類が山盛りでした。
私が貝を好きな事。ちゃんと覚えてくれてるんですね。
「生牡蠣も美味しいけど。焼き蛤もたまらないですね」
リュティアもにっこりでした。
「そうね。栄養も豊富だし。味も深いわね」
二人でニコニコしながらモリモリ食べました。
お野菜も山ほど食べてデザートのフルーツに。
大好きな柿を見つけました。
「珍しくないですか?今の時期」
「そうね。ストレージが大きいから」
あの森の中で。リュティアのストレージに呆れた事を思い出しました。
森の探索にコテージを持ってくという感覚がメチャクチャですよ。
「どしたの?笑顔が可愛いわ。ララノアちゃんも笑顔ね」
ハチミツとメープルシロップの御馳走に大喜びのララノア。笑顔が可愛いですね。
「リュティアのストレージってどのくらいですか?」
リュティアは小動物みたいに小首を傾げて考えてるの。真面目ね。
「どのくらいかしら?山くらい?」
「ぷっ!何ですかそれ」
「え~真面目に答えたのに~」
むくれた顔も良いんです。得ですね美人さんは。
「ま~た笑ってる~。何か悔しい~。私が負けたってこと?」
どんどん私の壺に嵌まって行くリュティア。楽しい。可愛い。
後で甘えてあげよう。絶対。
※※※※※
「また集まっちゃったね」
マリアの言う通りです。研究生になってもこのグループです。
「パワーバランスからしょうがないのかな?」
ソフィの分析が正しいかも。
攻守のバランスが摂れたソフィ。
防御が堅いマリア。
攻撃に長けたロザリンド。
ネイキッドの実力が高いサアヤ。
そして私。
このグループに入れる研究生が今のところいないんですね。
指導教官はエディスです。
苦手。でも5人の内の一人なんで良かった。目立たないようにしようと思います。
と言っても研究生の指導教官はあんまり干渉しないですけどね。
研究生は一人一人が目標をもって自らを高めていくんです。
なのでその目標を指導教官に提示する必要があるんですね。
例えばロザリンドは当たり前にシルマリルの剣の威力の最大化ですね。
マリアは麒麟と鳳凰の能力の研究。
ソフィはゴーレム研究です。
サアヤは魔導師の迷宮で手に入れた女神ディオーネーのワンドに覚えさせる3つの魔法の探求。
私は光りのスプライト。ララノアの成長の研究です。
研究成果はイシュモニアの財産になります。図書館長のリデル教授が管理します。
私たちのグループは特に良いデータになるだろうと期待されているそうです。
隠しデータもありますし。
例えば私の場合のレナーティアーの性能とその制御ですね。
ロザリンドは逆に不死鳥の防御力という無理難題です。
まぁお給料をいただく以上結構厳しいというのが研究生の実態ですね。
ソフィとマリアはそちら方面は全く有難く思っていないと思いますが課題は課題なのでそれぞれ頑張ると思います。
マリアはA級魔導師になれば結婚相手を自由に選べるというのが大きいですね。
ソフィは主に商会のプライドでしょうか。
さすがのファベルジェ商会も象徴たる商会長の孫娘がA級魔導師となるといろいろな意味でプラスの効果が大きいということです。
私はA級もB級もこだわらないです。
サアヤはどうでしょう。お母さんに安楽に暮らして欲しい彼女はやっぱりA級を望んでいるかも知れません。
良かったのはエディスが案外放任主義だったことですかね。
元々自分の専門である光魔法でも成績が良い人にはあまり干渉しない先生でした。
今回も私たち成績優秀のグループにはあまり厳しくしない方針のようです。
それが私たち全員にとって良かったですね。
※※※※※※
「どうなの?最近は」
御馳走を並べたリュティアが笑顔です。
「どうかなぁ。自分の家があるのは嬉しいけど。寮と変わらないってゆうか」
私は研究生の特権で集合住宅の1室を借りています。自分の家という嬉しさや落ち着きもありますが。
サアヤもロザリンドもご近所ですし。
ちなみにソフィとマリアは一戸建てに住んでいます。
マリアは借りて。ソフィは買ってしまったそうです。
それぞれの家に遊びに行くのも楽しいんですが。
最も広いソフィの家は通いで料理人さんや家政婦さんが来ているので環境は最高に近いですね。
近いと言うのは私の場合はいつでもリュティアのスティングレイに行けるのでやはり快適さではちょっと劣りますね。
それでもロザリンドは結構ソフィの家に入り浸っています。マリアの家にも時々。
まぁ美味しい食事が無料なのは良いですよね。
サアヤも食料はソフィやマリアの家を利用してるんですけど実はリュティアの料理を時々もらっている事が分かりました。
マリアの場合は実家から料理の上手い侍女さんが来ていて家事は万全です。
私は彼女の家のヴァイエラの料理が結構好きです。サアヤと遊びに行くといつも大歓迎されます。
なので私の場合はリュティアの家とソフィとマリアの家を結構利用しているのでまるで寮にいた時と変わらない感覚もあります。リュティアや5人の仲間とお食事してるからですね。
ロザリンドは自分の家にいることが少ないですね。
ソフィもマリアも鷹揚ですし結構寂しがりですからどちらの家もいつも居心地が良いです。
私はスティングレイにお泊りのこともあるので何とも不思議な生活です。
ずっとこのままの生活が続くと良いんですけど。
でも2年したらそれぞれの道に分かれてしまいそうです。
ソフィは今でもそうですがファベルジェ商会の宣伝に引っ張りだこでしょう。
マリアは実家のロワイエ伯爵家の守り神確定ですね。
おそらくヴァイエラの宮廷でも大人気でしょう。
サアヤはお母さんと何処に住むのでしょうか?
私はどうでしょう?
リュティアがイシュモニアにいる限りは私もここにいようと思います。
けれどリュティアはサリナスにもお友達が多いのでそちらに戻るかも知れません。
今の私はサリナスからイシュモニアへの転移も自在です。
なのでどちらに住んでも良いのですが・・・
「お友達もいるし。チハヤはここの今が居心地が良いのね」
「はい」
「人生って難しいわね」
リュティアも難しい表情。可愛いんですけど。
でもここは我慢です。笑ったら負けです。
美味しいお料理に集中しなければ。
冷たくしたラタトゥィユ。
冷製の野菜スープ。
柔らかいローストビーフ。
タマネギたっぷりオリーヴも添えたスズキとヒラメのカルパッチョ。
柿にイチゴにキウイと梨とマンゴスチンなど季節感無視のフルーツ盛り合わせ。
黒豆茶。
幸せです。
「美味しい?」
「んまいです!」
「そう」
リュティア嬉しそう。可愛いですね。ハグしたい。たぶん私の数倍以上の年齢だと思いますけど。あどけない笑顔が良いです。
※※※※※
マリアから集合の連絡がありました。
図書館で出会ったサアヤと一緒に転移するとロザリンドが先に来ていました。
侍女さんが赤い顔をしていたのはそのせいでしょうか?
ソフィもすぐに来て食事をしながら近況報告。
私とサアヤは大図書館の貴重な魔導書をコピーの毎日でした。
私はララノアの事も調べてたんですけどね。
サアヤは女神のワンドに覚えさせる3つの魔法を探しています。
攻撃か防御か治癒か?
何でも3つ覚えるワンド。迷いますね。私なら一つは極大の鑑定魔法が確実ですけど。
サアヤは何を考えているのか全く分かりません。
まさか伝説の大魔法を狙っているのでしょうか?
ロザリンドは相変わらずクラリセ老師と魔剣の威力増大に励んでいるようです。
ソフィはゴーレムの新しい活用法を考えているようです。
例えばグプタの鉱山で働かせるとか。
小型のゴーレムをファベルジェ商会が開発すれば可能ですね。
もっとも有能な魔導師を一人つけてと考えるとちょっと難しそうですけど。
マリアは麒麟と鳳凰の研究で忙しそうです。
ちなみにどちらも雄だったそうで麒麟はペルセウス。鳳凰はアキレウスと超古代の英雄の名前をもらったそうです。
逆にソフィは自分でテイムしたペガサスを
「私のペガサス」
と呼んでいます。
これは思い入れが無いのではなくまだ名づける程のイベントを経験していないと言うことでしょう。
実際彼女の様子を見ていると日に日に溺愛の度合いが強くなっていると感じられます。
たぶん本格的にファベルジェ商会の為に働くようになった時は彼女とペガサスはセットで扱われると思われるのでその際には否応なく固有名詞を与えることになるのでしょう。
まぁいずれにしろ純白のペガサスに跨った美少女のインパクトは素晴らしいです。
普通の忠誠心のある騎士なら
「姫様」
と言って跪いてしまうでしょう。
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