第38話 魔の森の主  エルハンサのティン・エレン城


「ごめんね狭くて」

「いえいえ。そんな事無いですよ」

そうよそうよ。リュティアのお料理付きだもん。不満があるワケ無いわ。

エルハンサの首都ガル・エアインにある女王陛下の居城ティン・エレン城へはリュティアのスティングレイで行くことになりました。

武装の無い空飛ぶ機械。平和外交にぴったりです。

ロザリンドはゆったりとした椅子に座った途端に寝ました。さすが武芸者。武辺者かな?

サアヤはまるで自宅にいるように本を読みながらお茶してます。

如才ないのはやっぱりソフィとマリア。大人ですね。

麒麟に鳳凰。ペガサスに不死鳥。みんなのテイムした神獣たちは別室で寛いでいます。

神獣は能力が高くなるとリュティアのグリーンジプシーやラストローズのように形態変化できるようになるそうです。

そうなると小形に変化できるので旅行も楽ですね。

一方私の光のスプライト。ララノアちゃんは小さいから場所をとらなくて良いですね。まだ幼体だそうですし。

そう言えばゴルウェン教授にララノアを見せるのを忘れてました。

まぁあの人は淡泊な性格だし神獣のお世話で忙しいから後でも大丈夫ですけど。

そんなところも好きです。そう言えばアイリスも愛情はある人だけど淡泊な人です。リュティアも優しいけど淡泊ですね。

どうも私は温和で淡泊な人が好きらしいです。

最近は私は心理学に興味があります。ヒトのココロとは何なのか?ちょっと集中して勉強してみようと思っています。


リュティアの文明学によると人間と言う存在をサイエンスのレヴェルで言えば。

①生物としての存在

②社会的な存在

③自立したココロを有する存在

と言う三重の存在だそうです。サイエンスとしては。

①は医学や人類学が扱い。

②は社会学や歴史学が扱い。

③は心理学や哲学が扱うそうです。

また魔導科学で言えばヒトは。

aフィジカルボディ

bヴァイタルボディ

cアストラルボディ

の三重存在であるそうです。

これらはa→b→cと高次元になります。

例えばヒトの病を本当に治すには物質的存在であるaだけでなく。生命体であるbや高次元の精神体であるcを癒すことが重要と学びました。

ヒトの不思議を解明すれば私は私自身の事をもっと理解できるようになるでしょう。

そうなる為に勉学は欠かせませんね。優秀な友人たちの存在も助けになってくれるでしょう。




※※※




目覚めたファロスリエンはハイエルフの織った極上の野生の絹の衣装を纏った。

薄く軽く魔法の力を織り込んだ衣装には大きな防御力がある。しかも軽々と彼女の大きな魔導力を透した。

風の魔法力をはらんだファロスリエンは滑るように聖女王の居室に向かった。


ハイエルフにしか織れない複雑な古代の模様の豪奢な衣装をまとった聖なる女王はその歴史に相応しい威厳をもって謁見の間で遠来の客人を待ち受けた。

傍らに侍するファロスリエンは巨大な魔導力の接近を感じていた。

美しい少女の姿に明敏な知性を隠したリュティアは5人の研究生を連れて複雑な文様を織り込まれた深紅の絨毯をゆるやかに歩んだ。

ハイエルフの聖なる女王は6人の客人がそれぞれ優れた魔導師である事を理解した。

そして旧知の眠り姫に声をかけた。



※※※



「ほほほ。愉快じゃのう」

聖女王陛下に喜んでいただいて光栄です。

「ララノアちゃんは大層可愛らしいですね」

「まさにな。しかし光のスプライトとは珍しいの」

ララノアはハイエルフのお二人にも受けが良いようです。

「この子は珍しいんですか?」

「うむ。珍しいぞ。わらわも子供の頃に一度見ただけじゃ」

希少種だったんですね。

「しかし眠り姫も異界の巫女姫も面白いアーティファクトを入手したものよな」

「それが私たちにはなかなか分かりません。教えて戴けると幸甚です」

如才なくリュティアが水を向けます。

優越感をくすぐられた聖女王陛下はにっこりと微笑んで教えてくれました。

「まず巫女姫のレナーティアーは基本的には攻守に優れた魔法の鎧のようなモノじゃな。しかし今は巫女姫のWLIDとその腕輪によって管理されておる」

なるほど。私の知ってる通りですね。

「眠り姫のアーティファクト。ゴーガはもっとシンプルな機能じゃな。汎用の防御専用の鎧じゃ。元々はヒトを対象として作られたモノでは無いな」

リュティアは今でも強すぎるくらいですから防御専用でも大変な戦力アップですね。

でも恐らくリュティアはクレセントムーンがゴーガをコントロールするまで使わないと思いますが。ヒト向けでは無いということはシェイプシフター用なのかも知れませんね。でも汎用とはどういう事でしょう?

「汎用とはある程度使う対象を選ばないということですか?」

リュティアもそこを聞きたいようです。

「そうじゃ。この世界のある程度知性ある生命体も使えるが。異界の様々な生命体が使えるように作ってある。世界の数学的基本定数にあまり左右されない面もあるな」

なるほど。ハイエルフの国が魔導科学とともに数学にも優れているのを思い出しました。

「それにしても。巫女姫の鎧とそこの聖騎士どのの剣は見てみたいものよの」

げげ。

「ご覧になりますか?」

「良ければ見てみたいのう」

それじゃご覧に入れなきゃ。



「うむ。なかなか素晴らしい剣じゃな。伸び代が大きいのが凄いのう」

白く輝くバスタードソードを美しい少女剣士が振るうのを陛下は興味深そうに見つめていました。さすがのロザリンドも舞の技を披露するので真剣でした。

「良いものを見せてもらったゆえ後ほど褒美を遣わそう」

「ありがたき幸せ」

やっとしゃべれましたね。ロザリンド。

「巫女姫の鎧も素晴らしいぞ。美しいというか・・・可愛いのう」

それで気づいたんですけど。どこかで見た事がある人でした。美しい聖女王陛下。有名人だからでしょうか?

「しかしなかなか強力なものじゃな。弓も大層美しいな。眠り姫のクレセントムーンにも似ておるのう」

やっぱり鋭いですね。

「そなたも大儀であった。褒美を遣わそう」

「ありがとうございます」

二人でご挨拶するとご機嫌のようでした。



※※※※



深奥の間に移った女王とファロスリエンはそれぞれ座り心地の良い椅子に腰を降ろした。

「そなたはどう見た?ファロスリエン」

問われた女王の姪は少し考えて答えた。

「まず眠り姫ですが少なくとも当分の間は異界のアーティファクトを使用しないでしょう。次に少女騎士の剣は最も攻撃的で今後大きな成長の可能性がありましょう。また巫女姫の魔導の鎧は最もバランスがとれており伸び代もありますが防御第一に機能が配分されております。そして重要なのは巫女姫は基本的には研究者気質であり冒険的な性格ではありませんから能動的に現状の世界を変更することは無いでしょう。他の少女たちのアーティファクトはそれぞれ強力ですがファベルジェ商会の娘や伯爵令嬢はそれぞれの実家がコントロールするでしょう。賢者の卵は巫女姫と同様な研究者気質で世界の現状変更には消極的でしょう」

聖なる女王はゆったりと頷いた。

「良く見た。最も留意すべきは現状では聖騎士じゃろう。監視者を使って今後も情報を集めるべきじゃな。また彼女には状態異常を防ぐアーティファクトを下賜しよう。

彼女が悪意ある勢力に取り込まれるのを防ぐためじゃ。

巫女姫の場合要注意はむしろララノアの存在じゃな。彼女たちはララノアの本質を良く分かっておらん。おそらく眠り姫はある程度理解しているはずじゃがな」

「巫女姫には何を下賜されるおつもりか伺っても宜しいでしょうか?」

女王は繊細でバランスのとれた美しい人差し指を顎にあてた。

「それよ。・・・ふむ。ハイディングじゃろうな。普段も使えるハイディングのマントを遣わそう」

「理由を伺っても?」

「ファロスリエンは気づいたか?彼女はあの鎧のスカートの長さを気にしておった。たぶんレナーティアーを余り使いたくないんじゃろう。普段の彼女の姿を隠せるマントで彼女の受動的な防御力を上げてやろうと思うのじゃ。何しろ彼女は眠り姫のかこい人じゃからな」

聖なる女王はクスクスと笑った。

ファロスリエンもにっこりと微笑んだ。

「確かに彼女はあまり表で積極的に活躍する性質ではないようですね。良く分かりました」

聖女王はゆったりと微笑むと極上のお茶を楽しんだ。



※※※※



お城では素晴らしいお部屋が用意されていました。

リュティアだけ別部屋で。

私たちは希望して一緒の部屋にしていただきました。

エルハンサ聖王国はかなり特別な国です。

そもそも人口の殆どはハイエルフですし。

首都のガル・エアインは他国の首都と全く違います。

私たちもリュティアのスティングレイで来た時に他国のような幹線道路や様々な施設や建造物が全く無いので驚きました。

いわゆるランドマークは聖女王のお住まいであるティン・エレン城しかありません。

また建造物の類は小さくて全て森の陰に隠れています。

石で造られた建造物はティン・エレン城しか無いのです。上空から見えるのもここだけです。

お城の外観は石でというか花崗岩や大理石で造られているんですが内側はハイエルフの好みに合わせて木で造られています。

お部屋は居心地の良い木造で殆どの調度品はハイエルフの名工が作った木製品です。

なので内部は超高級ホテルと見た目はあまり変わらないですね。

「良いところじゃん」

と単純なロザリンド。

「そうね。食べ物美味しいし。お部屋も清潔だし」

マリアの指摘通りです。

「ハイエルフってお肉もお魚も食べるのね」

確かに。ソフィの言う通りです。私もハイエルフは菜食主義かと思ってました。

でもそう言えば学院のエルフやハイエルフの教授たちで菜食主義の話は聞いたことがありませんね。

イフィゲーニアも魚もお肉も食べてます。エルフは菜食と言うのが単なる先入観である事が分かりますね。

「それにしても不思議な街ね。役所の機能はお城にあるとして図書館とか博物館は何処にあるのかしら?」

各国の文化や文明に興味があるサアヤの問題提起は面白いですね。

「確かハイエルフも読書家は多いはずよ」

ですね。リュティアもエルフ系の血統に連なるはずですけど本は大好きですし。どこかに本屋さんや図書館がありそうですね。

「今回は物見遊山はできそうに無いわ。また改めて訪れたいわね」

マリアの言う通り。次は普通に旅行がしたいですね。



※※※



リュティアと聖女王陛下の内密の面談がありました。

その後全員が呼ばれて私とロザリンドに御下賜が為されました。

「ロザリンド聖騎士来よ」

ロザリンドが静々と滑らかに御前に進みました。

「そなたにはこの指輪を与えよう。これは状態異常から身を護ってくれる。これからも一層精進しイシュモニアとエルハンサの友好に尽くしてくれる事を願う」

「ははっ。有難き幸せに存じます」

美しいファロスリエン殿下から指輪を受け取ってめっちゃ感激して耳が赤くなってる。ロザリンド。単純なヤツ。

「次に巫女姫にして聖女チハヤ来よ」

私も大人しく素晴らしい文様の描かれた絨毯を歩きました。

「そなたにはこのマントを与えよう。これはあのレナーティアーを纏っていない時には必ず使うが良い。ハイディングのマントじゃ」

地味なダークグレーのフード付きマントです。ハイディングのマント?使ってみなきゃね。

「有難き幸せに存じます」

ファロスリエン殿下が御下賜される時にそっとささやきました。

「これは存在の気配さえも断つマントです」

凄いかも知れない。嬉しい。しっかりアイコンタクトして受けた。

「また全員にエルハンサに入国自由のパスを与える。時には遊びに来るが良い。少なくとも良い空気。良い水。安全な食事は保証しよう」

素晴らしいですね。また訪れても良いと思いました。それより今はマントの性能を確かめたいですけど。



※※※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る