第36話 魔の森の主  イシュモニアの天使




安心して眠っていると。

「チハヤ!起きて」

とサアヤの声が。

「なあに?」

「聴覚増幅して」

また厄介ごとかな?と・・・何か声が聞こえます。悪い予感。

「お母様。お父様。女神様。助けて下さい」

幼い女の子の声です。

どうやら向かいの大きなホテルの部屋から聞こえるようです。

直ぐにレナーティアーを着装。ヴァルキュリアとアインヘリヤルを連れて転移しました。サアヤも一緒です。

「きゃ!だれ?・・・天使さま・・・」

「しー。静かにして。出してあげるから」

「あそこに私のサコッシュがあるの。とって下さい」

彼女に届かない箪笥の上にサコッシュがありました。

回収してから一気に私たちの部屋に転移しました。

だっこした少女というか子供というか・・・が良い匂いだったので安心しました。

酷い扱いでは無かったようです。

「天使さま。助けてくれたの?」

「もう大丈夫よ。あなたのお名前とお父様とお母様のお名前を教えて?」

幼女は少し姿勢を正しました。可愛い。

「私の名前はマリアンヌ・ノース。父はフェニス連邦会議議長エランドル・ノース。母はマドレーヌ・ノースです」

大物でした。ちょっとボウッとしてしまいました。

「どうする?犯人捕まえる?」

サアヤの心配。

「やめよ。私たちちょっと目立ってるし」

「だよね。私たち部外者だもんね」

これがマリアやソフィの関係者ならともかく。フェニスの議長は大物だけどお付き合いはありません。

「マリアンヌ。お父様は何処にいるか分かる?」

「アントワに立派なホテルがあるの。ヴァイエラの」

どこかな?アントワはカリストの海岸にある都市ですね。ヴァイエラのホテルとはヴァイエラの企業のホテルでしょう。

「まずアントワに跳びましょう」

サアヤの言う通りね。

「じゃ。行くよ」

クトネシリカにナヴィゲートしてもらいました。

ヴァイエラの立派なホテルは何処かな?ロイヤルホテルかな?何処?

「あ!もうお父様に連絡できそう」

マリアンヌちゃんがWLDを操作してる。子供でもお金持ちは持ってるのね。魔導師じゃ無いからWLIDじゃないですけど。

通信などには充分役に立つ感じ。

案内されて飛翔したら直ぐに着きました。

立派なホテルだわ。ソフィの商会のほどでは無いですけど。

玄関からロビーに入ると渋い大人の男性と美人の女性がいました。

「マリアンヌ!」

「お父様!お母様!」

感動の再会です。

山ほどいるお付きの人に捕まりました。

「お二人がお嬢様を助けてくれたんですね?」

「そですけど」

サアヤに任せてレナーティアーから普段の姿に変身。少し驚かれました。

「まずはこちらへ。せめてものおもてなしをさせて下さい」

立派な部屋に通されました。

フカフカのソファ。猫脚の美しいテーブル。

供されたお茶も香りが善くて美味しい。

ぼんやりしてるとサアヤが自己紹介してくれたみたいです。早くお部屋で寝たい。

すると。3人プラスお付きの大勢が入って来ました。

「お姉ちゃん。あれ?天使さまは?」

可愛い。なのでレナーティアーを着装してあげました。お付きの人たちの前ではやりたく無かったけど。

「あ!天使さま」

「あなたが助けてくれたのは本当なのですね。どうもありがとうございました」

「大事な娘を助けて戴いて感謝の言葉もございません」

お父様は冷静だけどお母様はウルウルしている。マリアンヌちゃんの金髪はお母さま譲り。菫色の瞳はお父様に似ていることが分かりました。

3人と一緒にまた人が増えてしまいました。めんどくさいですね。だから大物は。

なのでまた普段の姿に。

「あ!お姉ちゃんが天使さまだったのね・・・」

マリアンヌちゃんが納得してくれました。

「あ!そのお姿を見てはいけなかったでしょうか?」

さすが強国のトップは察する力がありますね。

「今回は大勢の方々に見られてしまいました。できればご内聞に願います」

と見せた事は本意では無かったとさりげなく言っておきました。

「天使さまのことは秘密なのね?」

マリアンヌちゃんも察しが良い。さすがね。

「そうよ。あなたを助ける為に特別だったの。分かるわね?」

「はい。絶対に秘密です」

可愛い。ちょろい。賢い。

「私からもお願いしておきます。身分証明はこちらです」

サアヤが念を押してくれた。でも無理かもね。イシュモニアのパスポートがあっても。フェニスに対してどのくらいの権威があるか。

「イシュモニアの方でしたか。できるだけ漏れないように努力します」

結構正直だ。娘の恩人だからかな。これならある程度信用できるかも。

「私たちまだ研究生ですから細かいことは学院長とお話しして下さい」

イシュモニアの研究生なら下手な王族なみの権威があるはずですけど。

「これはこれは。イシュモニアの方々はみな若々しく美しいのでひょっとすると教授の方かな?と思いました」

「教授なら普通のホテルには泊まりませんから。お嬢様をお助けすることもできなかったでしょう」

サアヤがさりげ無く特別な幸運だったことを強調してくれました。

「分かりました。緘口令を敷きましょう。今夜はもう遅いのでお泊まり下さい。お話は明日致しましょう」

ちょっと強引。これだから大物は。でも眠いから良いか。

サアヤと別の部屋に案内された。広くて立派な部屋。5人は泊まれそう。

大きなベッドにダイブして寝ました。

ヴァルキュリア一人を警護につけました。



「お姉ちゃん。朝ですよ」

可愛い声で起こされた。

「チハヤ。大丈夫?」

サアヤもいるのね。しょがないので起きることにしました。

「おはよ。元気ね」

「お姉ちゃん」

可愛い。すっかり懐かれちゃった。

クリーンの魔法で身ぎれいにしました。

「お姉ちゃん。良い匂い」

可愛い。魅了のスキルかな?

「起きたら朝食ね。行きましょう」

サアヤが現実に戻してくれました。



立派なダイニングでご夫妻が待っていました。

「おはようございます」

「おはようございます」

「良く休まれましたか?」

「はい。おかげさまで」

素晴らしいベッドでした。

「お姉ちゃん。好きなもの食べてね」

「失礼ながらお好みが分からなかったのでビュッフェ形式にさせて戴きました」

「じゃぁ遠慮なく戴きます」

卵料理。スクランブルエッグ。サニーサイドアップ。オムレツ。ヴァイエラ風卵焼き。温泉卵。

野菜料理。ラタトゥィユ。野菜スープ。海鮮マリネとサラダ。天ぷら。

肉料理。ベーコン。ソーセージ。ハンバーグ。ローストビーフ。

海鮮料理。蒸した魚。焼いた貝。炒めたエビ。炒めたカニ。

穀物系。各種のパン。パンケーキ。御粥。バターライス。サフランライス。

デザート各種。果物各種。

飲み物各種。

ソフィの商会のホテルには負けるけど素晴らしいです。

さすがヴァイエラ資本のホテルですね。

マリアンヌちゃんと楽しく選んで楽しく食べました。

特に卵料理と野菜料理が好みに合いました。

サアヤがいろいろやってくれたようで私は気楽でした。

犯人たちはサアヤに知らされたカリストの部隊が急行したようですがもぬけの殻だったようです。

しかし残留物から様々な事が分かったそうです。

マリアンヌちゃんにはトイレにまで護衛がつくようになったそうです。

昨晩はいなかった賢そうな女性の護衛が二人ついています。

外国のホテルなんで油断したんでしょうか?助けて良かった。

そして私たちが泊まったホテルのいろいろなどは処理してくれたようです。

まぁ料金は前払いでしたけど。



食後のコーヒーも終わりマリアンヌちゃんとお母様が席を外されると議長が話しかけてきました。

「これでゆっくりお話ができますね。本当に今回はありがとうございました」

とんでもない。簡単なお仕事でした。

「とりあえずイシュモニアには連絡してお二人の重要性は確認させていただきました」

どうもどうも。

「最近の最高成績での卒業生とか。素晴らしいですね」

いやどうもどうも。

「今後お二人に関してフェニスはできる限りバックアップさせて戴きます。なんでもおっしゃって下さい。これは少なくとも私が議長の間は有効と考えて戴いて大丈夫です」

ほえ?

「とりあえずはサアヤさんとお話ししました。その結果のお伝えです」

とても良い条件かも。

「ちなみにこちらに不都合は全くありません。良いお話しで学院長にも連絡を回してあります。ソフィとマリアにも」

サアヤが付けたしました。良いわね。ボウっと黙っていたんで議長さんはちょっと心配したみたい。

「あと何かご不満があれば・・・」

「あぁ。今のところありません」

今後に含みを持たせました。

「こちらとの連絡に関してはサアヤさんにお伝えしてあります。それと・・・」

来た?

「あなたの天使のお姿ですが・・・」

ほら来た!

「あれはイシュモニアで作られているものですか?」

「チハヤのあの姿に関しては詮索禁止です!」

サアヤが怒ってる。でも想定内ですけどね。

「もちろん助けて戴いてこの上なく感謝しています。しかし詳細は分かりませんがお若い方が個人で運用するにはちょっと強大過ぎるのでは?と思った次第です」

まぁ当たり前の疑問かな?

「その全てを含めて詮索禁止です」

サアヤは正しいけど。

「こうしましょう。マリアンヌちゃんが希望する限り毎年お誕生日のパーティに参加しましょう」

「え?」

「イシュモニアの天使はフェニスとの友好の証としてその守護するマリアンヌちゃんのお誕生日を祝福する。と言うことです」

サアヤが固まっちゃいました。

「つまりイシュモニアとフェニスの友好が前提。でもあくまで私の好意が基礎にある個人的な関係という事です」

議長もほっと息をしました。

「分かりました。最上でギリギリの解決ですね」

「これがギリギリの決着です」

私も申し上げました。




「チハヤ。どういう事だったの?」

立派なホテルから解放されてサアヤが言ってきました。

「教えてあげたの」

「何を?」

「あれが私の個人的なもので量産はできないと言う事よ」

「そういう意味だったのね」

サアヤがやっと落ち着きました。

「あなたも行くのよ」

「え?」

「お誕生会よ。あなた連絡係でしょ?」

そう。毎年行くんですよ。私とサアヤ。二人で。

私は何もしない。フェニスには絶対敵対しない。フェニスもイシュモニアとの友好を守る。

「分かったわ。これからも宜しくね」

議長はいつまで議長でいられるか分からないけど。マリアンヌちゃんが生きている限りはイシュモニアとフェニスの友好は守られる。

その使者としてイシュモニアの天使とイシュモニア出身の賢者が彼女の誕生日を祝う。

そういう事。

たぶん問題は無い。はずです。

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