第35話 魔の森の主  暗殺者



それにしても。みんなそれぞれ神獣を得てこの森の滞在はちょうど良い感じです。

それぞれの可愛い子と遊んでいますね。

マリアは鳳凰と麒麟。

ソフィはペガサス。

ロザリンドは不死鳥。

食べ物も飲み水もあって気候の良い神獣の森はそれぞれのお相手と慣れるのに好適な場所です。

実際に神獣とのマッチングの報告例が最も多いのも神獣の森なんです。

残るはマリアの1枠と私とサアヤですが。

マリアは1枠空けておこうと考え始めているようです。

理由は簡単で暴龍や玄武などの災害級の神獣が出た時に使うという賢明な考えのようです。災害級の神獣でもテイムしてしまえば問題ありませんからね。

しかも大きな戦力が得られるのが良いですね。

いかにもマリアらしい合理的な考えです。


一方サアヤはあまりテイムにこだわっていないようです。

今日じゃなくて良い。今じゃなくて良いという考えですね。

まだ私たちは若いのでこれも賢いですよね。

神獣の森で見つからなければ。あるいはテイムできなければ今回は諦めても良いという考えです。


となると問題は私です。

どうしようかちょっと迷っているところです。

今はむしろレナーティアーの慣熟を優先すべきかもしれません。

そう考えてレナーティアーを着装して談笑している皆を上空から見ていました。

すると。

何かイヤな予感がして降りて行くと何か雲のようなモノが急速にロザリンドに近づいているのを感じました。

すぐに転移して彼女の後ろにまわって怪しい雲をマントで打ち払いました。

そして雲の後に来た鋭いモノを掴みました。

「何?」

さすがに気づいたロザリンド。

目が良いサアヤが指摘します。

「チハヤさんの足元!」

見ると10本の鋭い針が落ちています。毒針らしく何かの液体で光っています。

右手に掴んだ針は特別に長く太いものでした。同じようにテラテラと光っています。

既に全員臨戦態勢。

「11回の連続攻撃!」

マリアが叫びました。

ロザリンドのペンダントの効果を封じる為に10回の致命傷の後に必殺の一撃を与える予定だったんですね。

「各自のヴァルキュリアを1体ずつ出して守りましょう」

ソフィの指示で5体のヴァルキュリアと10体のアインヘリヤルが私たちの全周囲を守ります。

「あそこ!」

ロザリンドの後方の延長線上に敵を見つけました。

私は直ぐに転移して拘束しました。

ハイディングの能力に長けた3人の暗殺者でした。

でもレナーティアーを纏った私には例え光学迷彩でも効きません。

厳しく拘束し重力魔法で固定しました。

空間閉鎖し転移も使わせません。

レナーティアーの万能さに驚きました。普通は2つの魔法でも大変なはずなのに簡単に5つ6つの魔法を多重展開できるんです。

みなが次々に転移して来ました。

「チハヤが拘束してくれたわ」

「どうしよう?」

「魔導師ギルドに引き渡すのが良いわね」

「賛成」

皆の意見は一致したようです。

昏睡の魔法で念のため無力化しました。



結局カリスト共和国の首都。セント・エレナの魔導師ギルドまで運ぶことになりました。

私一人でも大丈夫だと思ったのですが長距離転移ができるサアヤが一緒に来てくれることになりました。

「久しぶりね。二人って」

そう言うとサアヤも。

「私もそう思ってたの。あの頃と大分変ってしまったわね。二人とも」

同じような事を考えていたんですね。

「でも私よりあなたの方がずっと変わってしまったわ」

そうかしら?

「私はまだまだ自信の無いあの頃と同じよ」

するとサアヤは笑顔で。

「そんな事無い。あなたは素晴らしいわ。あなたの友人でいることは私の誇りだもん」

そう勇気付けてくれました。


セント・エレナの街は整然とした幾何学的な街でした。清潔と安全に配慮されて適度に緑が配置され清々しい空気に満ちていました。

穏やかな乾いた風が吹いて何処からか花の香りが漂ってきました。

魔導師ギルドは大きな立派な建物でした。

ソフィが商会の回線で申告してくれたので昏倒した犯人たちの引き渡しは問題無く行われました。私は何となく因縁の闇カルトが犯人では?と思いました。

とりあえず手続きは簡単に終わりました。イシュモニアにも連絡は届くでしょう。


「私の国の街に似ているわ」

サアヤはこの街を気に入ったようです。

「少し休んで行きましょうか?」

水を向けると。

「良いわね。私あなたとお話ししたかったし」

と食いついてきました。

正直で素直で率直なサアヤと一緒にいるとまるで私は自分自身を伝説のレヴェニア姫のような権謀術数の人のように感じてしまいます。

「みんなも小休止みたいだし。少し休んで行っても大丈夫ね」

「そうね。私あなたにお礼言わなきゃ」

とサアヤは不思議な事を言いました。

「何?」

「あなたという目標がいたから私賢者になれたんだもの」

「え?意味がちょっと・・・」

「私は聖魔法が不得意だったの。もしあのままだったら賢者の称号はとれなかったわ。でも幸いにグループに飛びぬけた聖魔法の遣い手がいたのね」

なるほど。

「だから今日は私が奢るわ」

「それは無いわよ・・・悪いわ」

何で気前が良いの?

「実はね。私ずっと賢者を狙ってたの。あの時はとぼけてごめんなさい。賢者は特別給があるのよ」

普通の家の子だから頑張ったのね。分かる。お金持ちの子たちと付き合うのはそれなりに大変だもん。

「でも聖女も特別給あるんだよ?」

「そう。それは良かった。早く独立できると良いね」

何か勘違いしてるけど。独立する気なんか無いし。

「それより何食べる?」

サアヤの故郷に似ているって言ってたけど。確かに海に面しているし。農業や酪農も盛んだし。似てるのかな?気温はムイより暖かいと思うけど。

「一緒にお店選ぼうよ」

「そうだよね?二人とも初めてだし」

定食みたいなのがあると良いけど。

お財布に優しくて美味しいの。

地産地消なら栄養もあると思うし。

繁華街までハイディングして飛翔して見られないように裏路地に降りました。

食べ物屋さん多い感じ。

ピッツァとかケバブもある。ハンバーガーも。そういうのでも良いかも。

前の攻略の後。ソフィのアレンジメントでヴァイエラで休暇とったから舌は肥えてる感じ。

ヴァイエラはグプタと並んで美食で有名なのです。

私は山海の珍味を楽しんだ記憶がまだあるからあんまり食にはこだわらないです。

その後も世界の美食を大魔導師様のところに持ち込んで修行しましたし。

でもムイに里帰りしていたサアヤは貪欲にお店を選んでいる。

楽で良い。

もう子供の頃の記憶でしか無いけど故郷は文明的に遅れたところだったから。

その生まれ育ちのためか私はあんまり美食に執着はありません。

でも今の保護者がリュティアだからたぶん口はメチャクチャ奢っています。

リュティアいわく。

「幸せな人生に欠かせないもの

美食

読書

音楽」

だそうな。

リュティアによればどれも貧乏でも叶えられるものだという事です。

例えば世界のどの国にも漁業権の発生しない海岸があって美味しいものが山のようにあります。

例えば世界のどの国にも図書館があります。もし図書館が無くても自分の心の中のストーリーは消される事がありません。

例えば世界のどこでも自分のアタマの中に鳴る音楽を止められることは無いとも。

まぁ巨大なハイストレージに膨大な食べ物や本を貯め込んだ人の言うことですけど。


またリュティアは。

「人生は

生きていて

元気で

幸せなら

後はどうでも良い事」

とも言っていました。

生きる事。元気でいる事。

その2点に完璧を期する魔導師だからこそ幸せでいる事に貪欲なのかも知れません。


そうすると真面目にお店を選んでいるサアヤは実は人生の達人なのかも。

と考えていると。

「ここにしましょう」

と声がしました。

近寄ると共通語で“定食の店 ルキアーノ”と書いてあります。

「いろんなものが食べられてお値段もリーズナブルよ。客層を見るとお味も大丈夫そう」

なるほど。女性も多くてお味も良さそうですね。

店内は混んでいましたけど窓際に二人席が空いていました。


活気のある店内でメニューを見るていると。

「一人ずつ頼みます?それともいろいろとってシェアします?」

何じゃこやつ。デート慣れしてる?と一瞬思いましたが。

「シェアしましょう」

と言っておきました。すると。

「チハヤってデート慣れしてる?」

と逆に言われてしまいました。恐らくサアヤはお目当ての人がいるのかも。あ!私もいましたね。リュティアが。

注文はサアヤに任せてぼんやりしていました。

最初は生ハムのような肉の切り身がのったサラダ。

次はお魚の塩焼き。これは脂がのって良いお味でした。香草が効いてました。

次はお野菜の煮物。ラタトゥィユにちょっと似ていました。美味しかったです。土地のお野菜だから?甘味があって。

次はお肉。大きな骨付きのあばら肉のローストでした。

香辛料の塩梅が良く素晴らしい御馳走でした。

次に果物の盛り合わせ。

最後にチーズと紅茶。

もうお腹一杯です。

もう眠い。お相手がサアヤでなくて悪い男だったら大変ですね。



でも結局は泊まることになってしまいました。

程よいホテルを見つけて。

女同士なので二人で一部屋です。

私はお風呂に入ってすぐに寝ました。

あ!念のためヴァルキュリアを一人呼んでおきました。

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