第32話 魔の森の主 レナーティアーの能力
疾い!まず飛翔に全く負担がありません。
魔力消費ほぼゼロ。重力系の飛翔みたいで速くて自由自在。
転移も短距離の戦闘用なら消費魔力ほぼゼロ。思った所にピョンピョン跳べます。
空間支配は圧倒的に強いです。
防御も完璧です。
クトネシリカや伯爵が保証した通り。
あんなに強力に感じたヴァルキュリアやケルビムの攻撃が全く透りません。
武力も凄い!
リュティアのクレセントムーンを参考にしたんでしょうか?
かっこいい輝く弓が顕現して強力な私の聖魔法や光魔法。あるいは闇魔法の矢を一度に5本ずつ放てます。もちろん追尾型です。
めっちゃ強い!
ケルビム10体ヴァルキュリア10体は雑魚でした。
まさに鎧袖一触。
これなら愛の司エディスに勝てそうです。
少しくらいスカートが短くてもOKです。
・・・と思うことにしました。
※※※※
「どうじゃった?巫女姫」
戻るとシャンブロウさんがお茶を入れていました。
老師はのんびりと寛いでいました。
「素晴らしい性能でした」
お茶を受け取りながら応えました。
「どのくらい?」
大魔導師の問は単純でしたが・・・
「たぶんの話ですがケルビム30体ヴァルキュリア30体でも無傷で勝てるでしょう。あとこれはご本人もいるので聞いてみたいんですが真祖30人にも勝てると思います」
『忖度なしに言って真祖50人でも今の巫女姫には勝てないでしょう』
伯爵の言葉はもっと重いものでした。
「それは凄まじいのう。巫女姫は今のご自分の状況が分かるかな?」
老師は優しく問いかけて下さいました。
「私思うんですけど。これっていわゆる軍事力レベルのモノですか?」
シャラザール老師はふんわりと微笑んでくれました。自分の力に恐怖する私を慰めるように。
「どうやら分かっておられるようじゃな。はっきり言ってわしや黒騎士だって今のお嬢さんに対抗するのはかなり困難じゃ」
大変なことになってしまいました。
レナーティアーという力がそれ程のものだったなんて。
「つまり身を護ることをこれまで以上に考えないとなりませんね」
「そういう事じゃ。お主が例えばあの闇ギルドに取り込まれたら。寒気がするわい。例えばお嬢さんの好むような美少年で誘惑するとか」
大魔導師はしみじみと仰いました。シャンブロウさんも心なしか少し緊張しているように見えました。
私はリュティア以上の存在が現れるとは思えませんから黙っていました。
「私。修行はあと1日だけにしてリュティアと相談しようと思います」
私も覚悟が必要なことが分かってきました。
ここは今の私の命を与えてくれたリュティアと相談しなければなりません。
「それがええとわしも思うぞ。他にも相談したい人はおるじゃろう」
クラリセ老師とかアイリスとかリデル先生とかイフィゲーニアとかゴルウェン教授とかですね。
「とりあえず今日は心の整理のためにも良く寝ることじゃ。明日はケルビム50体ヴァルキュリア50体と10本くらい対戦し納得できたら帰るが良い」
何から何まで面倒見の良い大魔導師様なのでした。
※※※※
「リュティア!」
懐かしい場所はいつもリュティアの腕の中でした。
いつも通り優しいリュティア。
「修行は上手くいったのね?」
リュティアのあの花のような香りでフラッとなりそうでした。
艶やかな唇からの美しい声には伝説の魔物のような破壊力がありました。
「はい」
「良かった。予定より少し早かったから安心してたけど」
優しい笑顔を見て胸が苦しくなりました。
吐息まで甘い香りで私は温かいパンケーキの上のバターのように溶けてしまいそうでした。私も思春期なんでしょうか?
「はい」
「どうしたの?大人しいわね」
抱きしめるリュティアの腕があたる場所が火照ってしまいます。
「リュティア」
「はい?」
「私大人しく無かったですか?」
私の変な質問にも賢く美しいリュティアは真剣に考えてくれました。
「そんな事ないわ。私の言葉が足りなかったわね」
「違うんです」
「どういう事?」
「リュティアは私が変わってしまったら・・・私を見捨てますか?」
うふふ。とリュティアは微笑みました。
「あなたが変わる?それは在り得ないわ。それにどんなに変わったように見えても私はあなたを見つけるわ。例え世界最大の都市に隠れていても」
リュティアはいつも自信たっぷりでした。
「では今。変わった私をお見せします」
そして私は小さく唱えました。
着装せよ。レナーティアー。
リュティアはいつものように微笑んで私を見ていました。
「可愛いわ。いつものように」
私は恥ずかしい気持ちを忘れていました。
「私強くなってしまいました」
それでもリュティアは微笑んで。応えました。
「確かにその力を使い熟せれば。でも」
私は次の瞬間リュティアの強力な拘束魔法と重力魔法に捕らえられていました。
まるで死せる魔導師に捕らわれた籠の中のテュティリアのように。
「どうして?」
リュティアはほんの3セクほど私を拘束した後に解放してくれました。
でも私は強大なパワーが屈服させられた驚きで動けませんでした。
その時。
『あー!悔しい!龍機神なら絶対負けないのに!』
レナーティアーの心話が大音量で響きました。
「なぁるほど。クトネシリカと伯爵がレナーティアーの莫大なリソースを活用してできたのがその戦闘形態ね」
リュティアも分析を終えたようでした。
「あなたやクトネシリカがなぜレナーティアーの本来の形態を選ばなかったのかは分からないけど。でもその選択は正解だと思う」
リュティアには勝てないのに?やっぱりリュティアが強過ぎるんでしょうか?
「あなたが私に拘束されたのはあなたが弱いからじゃないわ。まずここが狭いこととあなたに私への敵意が無いことが理由よ」
狭いこと?
「そう。可愛い巫女姫がその戦闘形態の莫大な出力をコントロールするには広い空間が必要なの。少なくとも今はね」
まだ良く分かりません。でも私がリュティアやリュティアの飛行艇に遠慮しているのは本当かも知れません。
「文明の進歩と同じよ。扱う情報量とエネルギー量は増大する。それはより簡単に。より精密に。より安全な方向に進歩する」
それなら試しに外に出て見ましょう。と思う間もなく。
リュティアは私の今の戦闘形態をも含む強制転移を発動させました。
そこは海の上でした。
「ほら。ここならなんの気兼ねもいらないわ。思いっきりやってご覧なさい。私が強いのは知ってるでしょ?」
確かに。
まず私はリュティアを無視して空間機動を開始しました。
飛翔。
急加速。
急減速。
ランダムな素早い転移。
連続転移。
魔導師の迷宮で試した時の自信が蘇りました。
「凄いわね。私はここではあなたを捕らえることはできないわ」
リュティアは殆ど動かずに多重防御を展開していました。
「今度は攻撃してご覧なさい」
私は光りの弓を顕現して最大出力の魔法を発動しようとしましたが・・・
たしかに相手がリュティアでは何ともパワーが上がりません。
「やっぱり私じゃだめ?それならこれでは?」
何とリュティアはあのリュトに姿を変えていました。
緑の髪。緑の衣装の旅人に。
「どうした?僕が相手でも本気は出せないかい?サアヤなら出来たかもね。彼女はとても才能があるから」
その言葉は私をカッとさせました。その言葉の真の意図の通りに。
今度は少し強い魔法が撃てました。
するとリュトはエディスに姿を変えました。
「所詮あなたでは私の防御は貫けないわ」
空を舞う美しいエディスに私はやっとかなり高出力の魔法を撃つことができました。
そこでエディスはリュティアに姿を戻し私はハッとしました。
「今度のはなかなか良かったわ。あなたが何故エディスに攻撃的なのか良くは分からないけど。何か怒りの感情に似たモノがあなたの魔法を強くしているのは確かね」
リュティアの言う通りでした。
「でもそれは良いことだわ。歴史上の最もおぞましい事件は怒りの感情も無しに為された軍事行動によって起こされているもの。怒りの感情も無く他者を攻撃するのは良いことでは無いのよ」
もうすっかり頭が冷めてしまいました。まるで授業中のように。リュティア教授の特別授業ですね。
「では今度は防御して。どんどん出力を上げるから頑張ってね」
美しいリュティアは恐ろしい重力魔法グラヴィトンを発動しました。
どんどん強くなるリュティアの魔法。けれど今度は私の機動や転移を妨げることはできませんでした。私はリュティアが造りだした全てのマイクロブラックホールを無効化することができました。
「今度は雷魔法行くよ」
言葉通り巨大な雷雲が呼ばれ無数の強烈な稲妻放電が私を襲いましたが何ともありませんでした。
私のライバル。サアヤの得意な魔法で私が落ちるはずがありません。
そこでリュティアは初めてクレセントムーンを取り出しました。
美しい長弓が顕現して。巨大な光の矢が番えられました。
エディスの得意な光魔法のようです。
かなりの高出力でした。平地であれば地形が変わるほどに。けれど私の絶対防御を破ることは叶いませんでした。
「凄いわ。あなたがその形態を使い熟したら。国を亡ぼすこともできるかも」
私はそれを望んでいませんでしたが。それに私が暴走したらリュティアがきっと止めてくれるでしょう。
何度も防御と攻撃を繰り返してリュティアはレナーティアーの能力を測りました。
それはリュティアさえも認める強大なものでした。
クトネシリカはマイスターのリュティアに大層褒められました。
また私は修行の成果でフィジカルボディが1ランク強化されていること。その為にレナーティアーの出力制御が安定していることを褒められました。
いずれにしても私はこの特別授業でエディスの防御を貫く自信ができました。これで次は完全勝利できますね。
その時の私はそれで満足でした。
そして私は夜の食事の後にリュティアに伝えました。
「リュティア。大魔導師様に教えて戴いたんですけど」
「なぁに?」
「このレネーティアーとあなたのアーティファクト。エルハンサの聖女王陛下なら鑑定できるだろうって」
「うん。なるほどね。アグラリエル陛下か。それは有り得るわね。・・・一緒に行こうか?」
「はい。一緒に行きましょう」
「あなたが迷宮から戻ったらね」
「はい」
そしてリュティアは少し考え。
「・・・こうなると。私たちが魔の森に行ったのは正解だったわね」
とつぶやきました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます