第30話 魔の森の主 次の試練へ
卒業試験はこの世界の1ウィルつまり5ダルつまり5日つまり1週間的な単位で行われます。
初日と二日目は筆記試験。
三日目は論文試験。
四日目は実技試験。
最終日は面接のみ。
どれも気が抜けません。
が。迷宮の試練に較べたらそれほどの困難とも思えません。
筆記試験は魔導師として子供たちに教えられるか否か。
論文試験は魔導師として王族などに見識ある助言ができるか否か。
実技試験は魔導師として困難を排除できるか否か。
面接は全く予測がつきません。
とりあえず頑張るだけです。
そう思っていました。
けれど物事は私の知らないところで静かに進んでいたのです。
※※※※※※
いよいよ卒業試験が開始されます。
私たちは事前に一度集合して申し合わせをしました。
それは実技試験についてです。
筆記試験と論文試験はWLIDの持ち込みは禁止です。
それはやはりできるだけ素の能力を学園は確認したいからです。
当たり前ですね。
けれど実技試験は基本的には何でも持ち込みありです。
おそらく研究生の先輩が相手だと思います。
私たちにはかなり強敵のAクラス魔導師の先輩が担当だと思います。
つまり教授になるか否かの瀬戸際の能力を先輩もテストされるわけです。
問題なのは大魔導師の迷宮で得たアーティファクトクラスの魔道具の数々です。
これを持って行くか否か。
チハヤは持って行ってOKと言う考えでした。
ロザリンドはちょっとチート過ぎるんじゃないか?という意見。
マリアはあまり実力を見せる必要が無いので持って行かない派。
ソフィもあまり高い評価で卒業して目立ちたく無いという意見でした。
私は試験は短期戦なのでどちらでも良いと思いました。
結局多数派の意見で持って行かないことが決められました。
もちろん卒業試験は個人戦ですからグループの取り決めを破って持って行くことも可能です。
何のペナルティもありません。
けれど私は私たちのグループに関しては取り決めを破る人はいないだろうと思いました。
とにかく私は持っていかないつもりです。
私は恐らくソフィやマリアと並んで筆記試験と論文試験では確実に上位に入る自信がありました。
だから実技も素の実力で優秀な成績を残したいと思いました。
それは私が密かに狙っている結果を出すためのいわば布石のようなものでした。
※※※※※※
やはりヴァイエラの別荘で最後の追い込みの勉強をしたのは正解でした。
御祖父様の御配慮のおかげで完璧な勉強ができましたから。
なので私たちのグループは私。サアヤ。マリアが筆記試験を揃ってほぼ満点で通過しました。
チハヤも相当な高得点でさすが我がライバルだと思いました。
ロザリンドはグループ内ではともかくかなりの高得点でありこれもさすがと思われました。
このグループにいて本当に良かった。
私は学園生活の幸運を実感していました。
この経験は私にとって大きな財産になるでしょう。
※※※※※※
やっと論文試験が終わりました。
これは幼少時から高位高官と接する機会があった私が有利でついでソフィが有利だと思っていました。
論文試験の点数はその予想の通りで私とソフィに次いでサアヤそしてチハヤもなかなか高得点でした。
私の学業に於いてのライバルであるサアヤの高得点はさすがでしたね。
美しい横顔のロザリンド。
武闘派の彼女がなかなかの点数だったのは立派です。
共に研鑽を積んだ意味はありました。
彼女の不運はグループの他のメンバーが抜群だったことです。
そしてとうとう最後の実技試験の日になってしまいました。
結果はどうあれ全力で挑むつもりです。
※※※※※※
いよいよ待ちに待った実技試験。
誰が相手でも押して通るのみです。
予め私たちのグループは同じ試験官が担当すると告げられていました。
順番は私。マリア。ソフィ。サアヤ。最後がチハヤとのこと。
申し訳ありませんが先鋒の私が試験官をボコしてしまうので学院側の予定は修正されるでしょう。
実技試験の会場として用意された第1闘技場にはイフィゲーニア。アイリス。クラリセ。リュティアと学院長が席についていました。
そこに私の相手として入場したのは・・・
※※※※※※
「お疲れ様エディス」
学院長はかなり消耗していたエデイス教授を愛の司をねぎらった。
「凄かったわ。子供たちの実力にも驚いたけど。あの猛攻を無傷で凌いだのは素晴らしかったわ」
様式の司リュティアはそういって特級のポーションを差し出した。
「ありがとうリュティア」
エディスは首筋の汗をぬぐってリュティアを見つめポーションを美味しそうに飲んだ。
「確かに彼女たちも素晴らしかったわ。でも結果はどうなるの?」
真実の司アイリスは少しだけ結果を心配していた。
「その事ですけど私に少し考えがあります」
学院に困難がある時。常に正しい答えを導いてきた数の司イフィゲーニアは自信たっぷりだった。
「面白そうだね。聴こうじゃないか?」
舞の司クラリセは興味深々の様子で促した。
※※※※※※
「チハヤ!こっちだよ」
卒業試験が終わってみんなで集まりました。
もう気分はさっぱりしたもんです。
あとは全員の卒業成績を待つばかり。
みんな神妙な面持ちで成績が言い渡される面接室。つまり院長室に行きました。
それぞれの複雑な想いを胸に。
部屋には学院長。
副学院長で数の司イフィゲーニア。
真実の司アイリス。
舞の司クラリセ。
そして。実技試験の試験官。愛の司エディス。
正直エディスがあんな手練れだったなんて驚きました。
・・・と言うか。自分の実力に少々がっかりしました。
様式の司リュティアがいるのはなぜでしょう。
私は彼女を失望させたのでは?と内心恐れていました。
「さて。まずは実技試験の結果から聞こうか?」
口火を切ったのは時の司。学院長ゾシマ。
「では早速始めさせていただきます」
受けたのはエディス。
「まず私が試験官を務めた理由から言いましょうか?今年の最優秀グループである皆さんの全力に応えられる人材は極めて限られるわ。研究生レベルではちょっと無理かも?と言うのが私たちの一致した評価でした」
まずは納得できるところから始まりましたね。
「まずマリア。筆記の成績は極めて優秀です。人柄も素晴らしい。リーダーにも優れた補佐にも極めて優れたメンバーにもなれる貴重な存在です。では魔法の実力はどうでしょうか?この優等生グループの中にあって誰にも見劣りしない逸材です」
納得の評価です。
「攻撃は風系統が卓越していますが他の系統が苦手とも言えません。実は空間や闇や無属性など多彩な引出しを持っています。防御も素晴らしい。私はAダッシュの魔導師で良いと思います。称号は賢女」
凄い評価ですね。
「次はソフィ。こちらも筆記系は極めて優秀。人柄も何処へ出しても恥ずかしくない逸材です。もしも我がイシュモニアに残ってくれるなら私なら外交官に推薦します」
まぁ妥当ですよね。実力はもっと上ですけど。
「攻撃は氷結を中心においた万能型。防御もばっちり。ファベルジェ商会が手放すはずがありません。逆に彼女を生んだイシュモニアの誇りと言って良い。この子もAダッシュ魔導師ですね。賢女です」
「そして老師も高く評価しているロザリンド。筆記系は問題なく優秀です。マリアやソフィには及びませんが。人柄も舞の司が推薦する通り。弱きを助け強きを挫く。英雄の気概があります。卒業後にも大いに伸びる人」
クラリセ教授の秘蔵弟子ですね。
「攻撃は炎熱系を中心に万能型で多彩。防御も充分な能力で世界の何処でもやっていけるでしょう。かなり上位の治癒魔法も使います。こちらはAダッシュの聖騎士です」
素晴らしいですね。
「次にサアヤ。勉学も実技もオールマイティです。人柄も立派。公開すれば各国からオファーが殺到するでしょう」
的を射ていますね。
「総合的に高い水準で優れています。Aダッシュ魔導師は順当です。称号は賢者」
シンプルに優れた人。正解ですね。
「最後にチハヤ。攻撃系は光と闇が素晴らしいです。でも最も高出力なのは聖魔法ですね。あとは雷系も優秀です。防御は完璧。私でも抜けません。魔法薬作りも非常に優秀。治癒系魔法も素晴らしい」
まぁ事実かも。でも今の私はエディスの防御を抜けませんでした。
「空間と時間の魔法は伸び代も含めて優秀。無属性も良いですね。重力魔法も充分に実戦レベル。ただ全体的には若干偏りもあります。相応しいのは聖女ですね。Aダッシュ級魔導師で良いでしょう」
全員Aダッシュ。これは?
そこでイフィゲーニアの補足が入りました。
「全員Aダッシュ。素晴らしい成績おめでとう。ただこれは意味があります。そのまま卒業するならB級魔導師ということです。それでも立派です。でも学院に2年残って研究生をするならA級魔導師を保証できます。みなさんならば」
何と。研究生。これは思っても見なかった展開です。
アイリスが言葉を添えました。
「時間はあります。良く考えて決めて下さい。研究生は図書館の本を年間100冊までコピーできます。お給料も出ます。今のお小遣い程度ではありません。イシュモニアの永久パスポートも貰えます。そのまま教授になる道もあります。外交官になる道も」
もしも司と呼ばれる実力を身に着けたら。堂々と学院の教授にもなれますね。
でも今はまだ少し中途半端です。A級魔導師目指して頑張るのも良いですね。
そう言えば。私は伯爵に教えて戴いたんですけど。
リュティアはSクラス魔導師。大賢者でした。何と迷宮の大魔導師と同格の人だったんですね。
攻撃魔法全般を使わないでの実力です。凄いですね。
まだまだ私は精進の余地があると言う事です。
私の心は決まっていますが皆はどうでしょうか?
※※※※※※
「あの子たち。なぜ迷宮で得たモノを使わなかったかね?」
舞の司が疑問を呈した。
「彼女たちなりにネイキッドに近い実力を測って欲しかったのでは?」
数の司が応えた。
「エディスが出ると知らなかったから。と言うのもあるでしょう。明らかに悔しそうな者もいましたから」
時の司も応えた。
「老師の目から見てどうでしょう。本当の全力ならエディスの防御を貫けたでしょうか?」
真実の司が問うた。
「あの後迷宮に行ってみたんだ。シャラザールの説明では素の能力を大きく底上げできるアーティファクトは少ないんだよ。可能性があったのはシルマリルの剣を得たロザリンドかな?」
舞の司が予測した。
「確かにアーティファクト込みの威力ならロザリンドには抜かれた可能性がありますね」
愛の司が自ら答えた。
「リュティア。君の意見は?」
時の司が問うた。
様式の司は軽く皆を見まわした。
「私の巫女姫は問題無く学院に残るでしょう。それを見て他の4人も決断すると思います。そしてちょっと提案なのですが。確かあのティアラを彼女たちは入手していますよね?」
「それは間違い無いぞ。シャラザールにも確認した」
舞の司が答えた。
「それならば彼女たちは神獣の迷宮に挑むべきですね」
様式の司の言葉に皆は納得した。
その真意を疑いながら。
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