第29話 魔の森の主 卒業試験
「あのホビットめが」
アグラリエル聖女王は厳しい言葉を発しました。
聖女王の姪であるファロスリエンはおずおずと聞きました。
「御存じなのですか?」
「うむ。その前にティリオンよ。大儀であった。下がって良いぞ」
御下命により監視者たるティリオンは御前から転移しました。
そして聖女王は愛する姪に大魔導師との関係を説明しました。
しばらくの後。侍従長ソールロッドは御前に呼ばれました。
既に話は終わり聖女王とその姪は侍女たちが用意した極上のお茶を嗜んでいました。
「ソールロッド。後で大臣と将軍と3人でこのデータを見るが良い。あのホビットめは少女たちにとんでもないアーティファクトクラスの宝物を授けおったのじゃ」
ソールロッドは静かに次の言葉を待ちました。
「その中には異界の巫女姫もおった。彼女は眠り姫とともに我が城へ来るであろう。他の少女たちは分からんが。しかしヴァイエラの伯爵令嬢やファベルジュ商会の令嬢もおるのだ」
そこでソールロッドは正しい質問を得ました。
「如何致しますか?」
「ふむ」
思案顔の聖女王はやがて応えました。
「最上の歓待を。そしてもしも訪れたら何としても眠り姫とわらわに個人的な面会時間を確保せよ」
※※※※※※
「それで」
ゾシマ老は言葉を続けました。
「アグラリエル陛下はお怒りだった?」
愛の司エディスは応えました。
「お怒りか否かはわかりません。けれど少女たちが大きなチカラを手に入れてしまったことを憂いておられるようでした。何しろ陛下が眠り姫と呼んでおられる方の安全を強く希望されておられますから。今のままではあの事件が無かったとしても闇ギルドからは注目の的でしょう」
数の司イフィゲーニアは言いました。
「いずれにしても様式の司に言わずに済ますことはできますまい」
時の司たる学院長は応えました。
「無論だね。いやはやこの事件の遠因はゴルウェン教授にあるのか?」
真実の司アイリスは厳しく指摘しました。
「元々はあなたがリュティアを魔の森に行かせたことでしょう?」
時の司は大きく両手を広げてアピールしました。
「いやはやだよ。本当に」
数の司は笑い。愛の司は無表情で。真実の司は厳しい表情でした。
「それで卒業試験と称号の授与はどうする?」
※※※※※※
「最高だわ」
「ほんとね」
「やっぱりソフィに任せて成功だったわ」
気候も良く食事も素晴らしいヴァイエラの春。花々は香り。美味しい海鮮は山のよう。ファベルジェの別荘の設備はもちろん完璧で。優秀な使用人はその高額な給料に相応しいサービスを提供してくれました。
首都アーバー・ロウの博物館や美術館を楽しみ。大図書館に圧倒され(もちろん魔導科学以外の分野ですが)。
たっぷりと怠惰と勉学を堪能しました。
当然のようにソフィの祖父であるシャルル・グスタフの配慮と卒業旅行の成功を祝って最高のスタッフが派遣されていました。
まぁその本当の価値はソフィとマリアにしか分からないようなレベルでしたけれど。
マリアはファベルジェの財力に驚いていました。
5人の少女は大魔導師シャラザールに学んだことを元に呪いの防具や装備について調べました。
「どんな装備なのかしらね。レナーティアーは」
サアヤは思案顔で真剣に考えていました。長いまつげが如何にも清純な少女ですね。
でも問題はロザリンドです。
「呪いの装備は恐いね。装備したら解除できなかったり。体力や魔力を吸い取ったり」
何でこの人は美少女顔で女子を誘惑するんでしょう?(してませんけどね)鼻の形が良いんです。唇が美しいんです。お友達なのにソフィがドキドキしています。マリアは完全に疑似恋愛のおかずにしてますよね。
私は誘惑されませんから。(してない)私はリュティア一筋だし。(誰も聞いて無い?)
しかしロザリンドって罪ですね。冒険者になったら女子が集まっちゃいます。
まぁ品行方正な私も迷宮踏破でずいぶん乱暴になりましたよ。まぁ毎晩女子会してたら耳年増にもなりますし。そもそも超美少年に見えない事も無い美少女のロザリンドが悪いとも言えますけどね。しかも本人に自覚が無いですし。
ともかく少しばかり世間ずれするのもしょうがないですよね。寮と言えば女の園ですし。これも成長ですか?
それはそうと。
レナーティアーについてはエルハンサの女王陛下を頼みの綱としておいて。
一般に知られる呪いの装備の恐い事恐い事。
魔導力を吸う。生命力を吸う。記憶を吸う。何てのは序の口。
人格変容。別人格への変異。人間未満のモノへ変異。魔獣に変異。下級のアンデッドへ変異。などなど。
最悪は身体が溶けちゃうとか。ヒィ!自分に治癒魔法をかけられないとか。そもそも聖魔法系は受け付けない。発動もできないとか。
オカルト的なオドロオドロした話もこれでもかと出て来ました。
凛々しい超美少年のようなロザリンドを見ていると私でも。
「私がレナーティアーの呪いで化け物に変異したら。きっと私を殺して下さい」
と口走ってしまいそうです。
ご本人は食べると寝るまさに肉体派で。エッチな話題になる頃には寝てるんですけどね。
艶やかな瞳で美少女たちの心をつかんでおきながら清純派って何ですか?魔物?
まぁ勉強のし過ぎで疲れたので私もこんな感じですが。
でも卒業試験はばっちりですね。
迷宮踏破で得たチートなアーティファクトの効果も入れれば私たちのチームは全員B級以上の称号持ちで決まりでしょう。
リュティアには勝てないにしてもエディス辺りには勝てるんじゃ無いか?と慎重な私でも思ってしまう高揚感があります。
この高揚感全能感が何時まで続くのか自分でも見ものですよ。
サアヤは大人の?話になると耳が聞こえなくなる便利なスキルの持ち主で。
そもそも田舎育ちで牛や豚の種つけや出産を子供の頃から見て来たらしいので。
脳から乙女の私と違います。
そもそもリュティアに憧れている人ですから。記憶の中のリュトに想いを移してほしいところです。
最も私も策を弄してトロニーの投票を誘導してますから。
彼女にはあんまり強く言えませんけどね。
マリアは真正のお嬢様。
高貴な血統の生まれながらの勝ち組ですね。
ところが実は女性が多い高等魔導学院で女の園の女子寮に入ったものですから弾けちゃったんですね。
まぁ元々貴族社会は政略結婚の横行する世界ですから。
身体は子供でも脳は何でも知っています。
それに自分自身も卒業時の成績次第では即結婚も有り得るわけですから。
ある程度は仕方がありません。
超美少年モドキがいる美少女チームに入れられて。学院では真面目ですけど寮では悪い先輩後輩もいますし。
それでもトップクラスの成績で迷宮でもずいぶん頼りになりました。
トロニーの結果を誘導してマリアをやや目立たなくしてあげたのは。
やっぱり最初にできた友達だからなのでした。
リュティアを目立たなくしたのはちょっと違う理由ですけど。
そしてソフィです。
何と言っても世界の三指に入る強大なコンツェルンの御令嬢で。これこそ正真正銘の勝ち組です。
ある意味王族よりも自由で権力もある。頭が悪くて我が強ければ好きに生きられたかもですが。
幸いにして賢くて美しく性格も善くて創業一族のアイドルに。
真面目な彼女も魔導学院の女子寮という魔窟でそれでも全力でアイデンティティを守って生きてきたんですけど。
でもBクラスの迷宮の踏破をアレンジメントして。メチャメチャ苦労したと思います。
多少は弾けちゃってもしょうがありません。
美しいロザリンドばかりで無くかっこいい黒騎士さまに出会ってバランスをとっているのが救いですね。ご本人だって普通に美少女なのにね。
この楽しい仲間たちと何時まで一緒にいられるでしょうか?
そう思いながら最後の休暇を楽しみました。
※※※※※※
懐かしいリュティアの移動式別荘と言うか飛行艇スティングレイと言うか。
挨拶もそこそこに。しなやかなリュティアの身体にしがみついた私を彼女は優しく扱ってくれました。
ともかく古巣に戻った日です。とりあえず旅の報告とリュティアのWLIDクレセントムーンの返却とお礼です。
けれどリュティアからは。
「クレセントムーン。役に立った?」
と。
「もちろんですよ」
と言ってその活躍を話しました。
「クレセントムーン。さすがね。でもあなたのクトネシリカだってその内に実力発揮するわよ」
とのこと。
そして疑問であった事。なぜ魔導力やマナの量は顕著に増えたのに気は増えないのか?という疑問に対しては。
「気はフィジカルボディの問題だからよ。筋肉が急に増えないのと一緒。急に駆けっこが速くならないのと一緒」
と分かり易い解説を戴きました。
「あなたの舞いの技術が向上して夜の魔法力循環によって身体が少しずつ強化され。今とは別の次元の強さをあなたが得た時。つまりフィジカルボディが1ランク上の状態になった時。気は大きく向上するわ。約束する」
向上の可能性が見えてうれしくなりました。そして。
「そしてそれとは別の意味でも次元の違う強さをあなたは得るでしょう。今はその準備が為されています」
ちょっと意味が分からないところがありますが。夜寝る前のクトネシリカや伯爵との会話の際にでも聞いてみましょう。
そしてどうせ後からクレセントムーンのデータを調べるからでしょう。リュティアは素敵な御馳走を用意していてくれました。
イシュモニアの海産物を中心に。私の好きな新鮮な果物がたっぷり。いつもながら最高です。
明日からの卒業試験が楽しみです。万全な状態で言い訳はできませんね。
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