第28話 魔の森の主 迷宮の贈り物
「そろそろ時も満ちて来たようじゃ。お嬢さんたち。今ここでご褒美の品を分けてしまった方が良いと思うぞ。わしは助言できるからのう」
おっしゃる通りです。皆が目で頷きました。ソフィは重要な戦利品を全てテーブルに並べました。
そしてまず5冊あるヴァルキュリアの魔導書を1冊ずつそれぞれの前に配りました。
「それはヴァルキュリアの魔導書じゃな。それは最大で一度に3人のヴァルキュリアを召喚できる。一度での有効時間は1ダルつまり1日じゃな。一度召喚すると1ダルの休養が必要じゃ。つまり上手くすると毎日1体のヴァルキュリアに己を守らせることができる。怪我や病気なのに治癒が使えない場合に特にお薦めじゃな」
なるほど。この魔導書だけでもこの迷宮を探索する意味はあるのですね。
「アインヘリヤルは?」
さすが物知りのサアヤ。
「アインヘリヤルは各ヴァルキュリアが2体召喚できる。ヴァルキュリアよりは少し弱い。有効時間はヴァルキュリアと同じじゃ」
「ご説明ありがとうございます老師。これ以外は一つずつのご褒美です。まず腕輪が5個」
ソフィは5個の腕輪を前に置いた。
グリフォンの腕輪。
巨猿の腕輪。
イドの腕輪。
ブリアレオスの腕輪。
真祖の腕輪。
「その腕輪は次に来た時の鍵となる。全員が一つずつ持つが良い。
グリフォンの腕輪を持つ者は全種の魔法防御を発動できる。
巨猿の腕輪を持つ者は最大の治癒魔法を発動できる。
イドの腕輪を持つ者は上級の空間魔法を行使できる。つまりハイ・ストレージとかなり長距離の転移魔法じゃな。
ブリアレオスの腕輪を持つ者は高度な重力魔法を行使できる。敵対する者を打倒すのに十分なチカラじゃな。
真祖の腕輪は真祖と会話ができる。
お嬢さんたちはこれも一つずつ持つのが善かろう」
私たちはそっと目を見かわしました。そして発言したのがソフィでした。
「皆に異存が無ければ私はチハヤに最初に選んで欲しいと思います」
「異議なし」
ロザリンド始め他の仲間は私が選ぶので問題無いと言ってくれました。ボス戦含め頑張った甲斐がありました。
「では私は真祖の腕輪を」
これに驚いたのがサアヤです。
「ちょっと待って。真祖の腕輪は真祖の召喚ではなくて真祖と会話するだけですよね?」
「お嬢さんのおっしゃる通りじゃ。あくまでも会話だけ。その意味では何の助けにもならん」
「チハヤそれでも良いの?」
「善いの。私は伯爵とお話ししたい」
ロザリンドは意外と普通でしたがやっぱりサアヤやソフィは驚きを隠せませんでした。貴族のマリアは平静でしたが所謂社交的な反応かも知れません。
「なるほど。それではサアヤが次に選んで下さい」
ソフィが場を仕切りました。それに異議を唱えたのがサアヤです。
「いえ。いっそ全てのご褒美の説明をもらってチハヤさんから二つずつ選ぶのが善いと思います」
「確かに効果が重複したらもったいないからね」
ロザリンドもサアヤに賛成のようです。
ソフィも少し考えマリアと目で会話してから決めました。
「では他の宝物もご説明いただきましょう。
まず隠し小部屋から出た短剣。
グリフォンの部屋からは白い宝玉のペンダント。
巨猿の部屋からは小型の鏡。
イドの部屋からは短い杖。
ブリアレオスの部屋からはティアラ。
真祖の部屋からは髪飾り。
そして智天使の祈祷書」
にっこりと微笑んだ大魔導師は応えました。
「なかなか良い選択だぞ。たしかに効果は実質的に重複しておる。
まず短剣は魔剣シルマリル。抜けば自分の得意な属性の剣となる。バスタードソードじゃ。
宝玉のペンダントはガーディアンエンジェルのペンダント。一日に10回。致命の攻撃を防ぐのじゃ。
鏡は賢者の鏡。呪い攻撃魔法状態異常魔法などを反射する。
短い杖は女神ディオーネーのワンド。どんな魔法でも3つ覚えてくれる。
ティアラは魅惑のティアラ。どんな神獣でも3体テイムできる。
髪飾りは幸運の髪飾り。最も運の良い結果を導く。
祈祷書はご指摘の通り。智天使ケルビムの祈祷書じゃ。ヴァルキュリアの魔導書の智天使バージョンじゃな。ただしアインヘリヤルは呼んではくれないが。智天使は強いぞ。
どれも素晴らしいじゃろう?」
全員が老師の説明に満足しました。そして欲しいものもある程度決まったようです。
「素晴らしいご説明でした。ではチハヤからお願いします」
ソフィから振られました。
「一つは先ほどお願いした真祖の腕輪。もう一つは皆さんに異議がなければ幸運の髪飾りをお願いします」
みんな意外だったようですが異議はありませんでした。どちらもはっきりした利点が見当たらない宝物ですからね。
「ではサアヤ。選んで下さい」
ソフィはサアヤを指名しました。
「私はイドの腕輪と女神のワンドを。皆さんの異議が無ければ」
この答えもちょっと意外だったかも知れません。ある意味お金持ちのソフィやマリアには無意味な宝物ですね。代替品が買えるからです。
もちろん異議はありませんでした。
「次はロザリンド。お願いします」
「私は異議が無ければグリフォンの腕輪とガーディアンエンジェルのペンダントが欲しいな。あとできればみんなはいらないだろうからシルマリルの剣が欲しい」
これも全員異議がありませんでした。私は欲しいものが手に入るので他はどうでも良かったとも言えるのですがペンダントはロザリンドに使って欲しいと思っていました。
「次はマリア。お願いします」
やはりソフィは自分を最後にするようですね。たぶん何でも買える経済力があるからが一つ。二つ目は自分はパーティーの開催者だから。と言うことでしょう。
「私は・・・欲しいモノが残って不思議だけれど。巨猿の腕輪と賢者の鏡を希望します。異議が無ければね」
もちろん誰も異議がありません。巨猿の腕輪の治癒魔法は誰かに貸しても善い。マリアは賢者の鏡があれば自分は安泰ですから満足でしょう。マリアの家族にも満足な選択だと思いました。
そこでソフィは言いました。
「では私は残ったブリアレオスの腕輪と智天使の祈祷書を戴きます。そして皆に異議が無ければ魅惑のティアラはマリアに進呈したいですね。それがこのパーティーの意義だと思います」
これには全員の拍手がありました。
「素晴らしいな。みんな仲良しで善いことじゃ。わしも満足じゃよ。この深奥の部屋の前で醜い争奪戦を起こして全滅したパーティーもあったがのう」
大魔導師もご満足のようでした。私たちも素晴らしい宝物を得て満足でした。
「ではお嬢さんたち。あまり長居させては申し訳ない。この後はなにか質問があれば答えるが?」
老師からのお言葉です。私たちもそれに甘えました。
「黒騎士さんとはまた会えるでしょうか?できればお礼をしたいのです」
ソフィから妥当なお言葉。
「黒騎士はここに2回目じゃからのう。またここにも来ると思うが。わしは何となくじゃが大きな運命が動いて彼とお嬢さんたちが共闘するような気がするな」
なるほど。
「ここには老師を護る者はおりますか?」
まるで自分が老師の守護者になりそうな勢いでロザリンドが問いました。
老師は優しく笑って。
「シャンブロウ」
と呼びました。
すると何とも美しく妖艶な女性が現れました。
明らかな空間転移魔法ですね。
その長く艶やかな髪は多くの魔導力を含んでおり彼女が侮れない戦士であることを示していました。
ただあまりにも・・・何というか・・・色っぽかったので私たちは引いてしまいましたけれど。
緩やかな衣装に身を包んでいても恐らくは身体つきだって色っぽいものであったのは間違いありません。
それに身動きするだけで良い香りが漂いその手の知識が豊富なマリアやソフィはちょっとジト目になっていました。
「シャンブロウはわしの伴侶のようなものじゃ。言葉は話せんがな」
すると心話が突然聞こえました。
『老師。お戯れですか?お客様が困惑しておられます』
見るとシャンブロウさんはにっこり笑顔でこちらを見ていました。
『ずいぶんお若くて大層美しい方ですね』
・・・これだからロザリンドは下級生にもてるのよね。女の子に。
「フォッフォッフォッ。褒めていただいて恐縮じゃな」
老師も上機嫌です。
「あの老師。私教えて戴きたい事があるんです。結構深刻なことが」
私はレナーティアーというあのアーティファクトについて教えて貰おうと思いました。
「何じゃな?何でも聞くが良い」
みんな訳知り顔で興味深々でした。
「このアーティファクトなんですけど。ここから外れなくて」
私は右手の小指を見せました。
「何か不思議な魔力はそれじゃったか。ふむふむ・・・」
大魔導師は私の小指のアーティファクトを興味深そうにじっと見つめました。
「どうでしょうか?」
「これは・・・うかつな事は言えんな。お主はイシュモニアのゾシマ老にも見せたんじゃろう?」
「はい。おっしゃる通りです。学院長に見せました」
「何と言っておった?」
「鑑定阻害らしくて良く分からないと」
「ふうむ。・・・わしはそれを鑑定できる者を知っておるが・・・わしの能力を少しだけ超えておるのは認めねばなるまい」
「鑑定できる者がいる?という事ですか?さすが大魔導師さま。お教え下さい」
「うむ。恐らくエルハンサの聖女王。アグラリエルなら可能じゃと思う」
「エルハンサの聖女王陛下!」
ソフィの反応にも驚きましたがマリアも艶やかな目を見開き可愛らしい唇を開けていました。
「知ってるの?」
私の問いに頷いたソフィ。
「アグラリエル陛下を知るとは凄いのぉ。めったに会えん方じゃが・・・あるいはお嬢さんならチャンスがあるやも知れん」
「是非に会いたいです。できればリュティアも一緒に」
私はリュティアの指のアーティファクトの件もあるので一緒に会いたいと思いました。すると。
「リュティア?イシュモニアのリュティアか?今はサリナスにおると言うが」
大魔導師が反応したのに驚きました。私は手短に今はリュティアもイシュモニアに戻り教授職を拝命していることを話しました。ついでに私がリュティアの保護下にあることも。
すると老師は。
「異界の巫女姫とはお嬢さんじゃったか。こりゃ奇遇じゃのう。これは運命が紡がれておるやも知れんのぉ」
と思っても見なかった反応を示しました。
みんなにとっても驚きの連続だったようです。
後で聞いたことですがさすがのソフィもアグラリエル陛下にはお会いした事は無いとのこと。マリアも世界の王族でも会える人は少ないと言ってました。
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