第26話 魔の森の主  迷宮の大魔導師


お腹の準備ができると少し休んで探検に出発です。

美しくまた荘厳な古代の神殿を模したような階層です。白い大理石のような素材でできていますが実はほぼ破壊不能です。

最初の敵はヴァルキュリア。

5体の美しい戦の女神たちでした。

「この神殿を汚す者は誰か?」

女性の声で朗々と問われました。

「汚すのではありません。私たちは神殿の深奥を探求しています」

如何にも高貴なマリアの答えは説得力がありました。

「そうか。高貴な探求者よ。では試練を受けよ」

やはり問答無用みたいです。

私たちは堅牢な壁を背にして2-2-3のフォーメーションをとりました。

ヴァルキュリアたちは無限に湧き出る投げ槍で攻撃してきます。

物理と魔法の両面の防壁を張って始めは攻撃を受けました。

何度か激しい攻撃を受けて物理の防壁イージスと魔法反射のリフレクトを組み合わせると防げることが分かりました。

エネルギー障壁や魔法吸収のドレインなどは効果が弱いのです。

投げ槍の効果が薄い事を知るとヴァルキュリアたちは魔法攻撃に替えてきました。

投げ槍を構えて魔法陣を呼び出し激しい雷の攻撃を行ってきました。

今度は魔法無効のインヴァリッドが有効でした。

闇の最上級魔法は私とサアヤが担当し3人とゴーレム2体が攻撃役です。

案外ゴーレムの物理で殴る攻撃は有効だったのですがなかなか地上に降りてきません。

しかし物理に弱点がある事が分かったのでマリアの最上級の風刃魔法とロザリンドの最上級炎熱魔法でどうやら仕留める事ができました。

美しい女神たちは5冊の魔導書に姿を変えました。

みんなヘトヘトでしたが何とか回収して小休止。

次の部屋に進みました。



次の部屋は壁全体が発光していました。

眩しいのでみんな眼球防御のプロテクターを装着。

かっこいい仮面の美少女チームの出来上がりです。

しばらく歩くと敵の軍勢が現れました。

10対20枚の輝く羽根を有する美しい5体の天使たちでした。

「幼い少女たち。なぜこの神域を侵すのか?」

声と心話を同時に使われて頭がクラクラしました。

「私たちは自らの学びの為にここに来ました。どうか道を開けて下さい」

さすがファベルジェ商会の秘蔵っ子。ソフィ良い事を言いますね。でも。

「良き心構えなり。されば試練を受けよ」

まぁそうですよね。

激しく発光する天使たちの攻撃は容赦ない光の最大魔法攻撃でした。

無数の光の矢をゴーレム2体とみんなの魔法防御で持ちこたえます。

ここは私と借り物のクレセントムーンの出番です。

伯爵を倒した時と真逆の闇の極大魔法を黒い矢にしてクレセントムーンにつがえました。

「天にまします我らの神よ。

あなたの下僕を攻撃することを許したまえ。

ダークネスアロー!」

胸部を貫かれた天使は次々に光りの塵になって消え去りました。

最後の天使が消えると1冊の祈祷書が残されました。

「今度は1冊だったわね」

さすが計算高いソフィ。



もうヘトヘトで限界が近かったのですが祈祷書を回収して進みました。

すると今度こそと思われる巨大な扉が現れました。

私たちはとりあえず魔法薬を飲んで回復。

その時でした。



「娘たち。良く頑張った」

「沢山獲物を集めてくれてありがとうね」

「でもここまでだ」

「面白かったよ。でもイシュモニアの優等生を5人も集められるのはありがたいね」

「全ての獲物を渡して降参してくれたら痛い思いをしなくてすむよ」

何処に隠れてたんだか。如何にも悪人の雰囲気満々の人たちが登場しました。

隠蔽魔法が凄い人がいる。

どうしよう。



※※※



侍従長のソールロッドは女王の居室の前でノックした。

「誰?」

「侍従長です」

「お入りなさい」

女王の声にソールロッドは扉を開き御前に進んだ。

「何用か?」

美しき女王アグラリエルは傍らの姪ファロスリエンに目をやった。

「監視者ティリオンより連絡が参りました。本人も控えておりますが?」

「巫女姫の件ね?本人に直接聞きたいわ。ここに転移することを許します」

その言葉が終わらぬ時に一人の人間が転移した。

厚いヴェールに顔を隠したティリオンは応えた。

「お呼びとあらば」

女王は満足げに微笑むと答えた。

「ソールロッドご苦労であった。退室して良い。ファロスリエンは残って話を聞くのじゃ」

速やかに退室した侍従長を見やると女王は大きな鏡を呼び出して監視者に言った。

「ここにあなたが見た全てを映しなさい」

「心得ました」

魔法の鏡には巨大な神殿の大扉の前ですくんだ少女たちを映しました。

そして凶悪な賊たちの姿を。

「危ない状況ね・・・」




その時でした。私も彼女たちを助けに入らねばならないか?と思ったのですが。

「出て来たな。とうとう」

暗黒のプレートアーマーを身に纏った戦士が現れたのです。

「アカツキの最悪のメンバーが5人か。悪く無いな」

どうやら少女たちを狙う輩をマークしていたようでした。

「何者だ?」

「ブラックマスターとか呼ばれていい気になっている騎士さんね」

「ブラックナイトか。以前に我々に煮え湯を飲ませてくれた奴」

「これはむしろ良い機会だ。少女たちは手土産。奴の首は記念に戴いておこう」

「油断するなよ」

悪党5人は完全に戦闘モードになりました。

しかし黒騎士は。

「笑える。もう勝ったつもりか?」

余裕の表情です。そして。

「お嬢ちゃんたち。悪いが防御だけしておいてくれ。後は俺が片付ける」

と巫女姫たちの味方宣言です。

まぁ普通なら実は黒騎士も悪の手先で・・・と言うシナリオもあるのですが。

何故かそうは思えませんでした。

アカツキの最悪メンバーとやらの殺気もただものではありません。

少女たちは言われた通り物理と魔法の完全防御態勢になったようです。

私も手出しする必要が無くなり安心しました。

そこで恐るべき強さの光が突然輝きました。


私のWLIDの安定作動限界を超えた光量でしたので詳細は映っていません。

しかし黒騎士が魔法以外の方法で非常に強い光を発したのは間違いありません。

5人の賊は一人が転移で逃げましたが4人は一瞬でブラックマスターに打ち倒されていました。

気絶した4人は完全に捕縛されてどこかへ転移で連行されました。

これで姫たちの安全は守られました。

ちなみに少女たちは天使との闘いで眼球を保護していたままでしたので全く無傷でした。



「眠り姫ほどでは無いが鮮やかな手並みだったわね」

女王は率直な感想をのべました。

「さすがブラックマスター。あなたはその後もモニターしたのね?」

ファロスリエン様からの御下問でした。

「もちろんモニターしております。ご覧になりますか?」

お二人は頷いておっしゃいました。

「もちろんです。拝見しましょう」


※※※


「一人逃がしてしまったか。まぁそれでもお嬢さんたちを守れて良かった」

フルアーマーの騎士さんは少し笑ったように感じました。

「一つだけ教えて下さい。あなたは誰かの依頼でここに来たのですか?」

私はそれだけは知りたかったのです。

「いや違う。これは自分に課した義務なのだ。むしろ囮に使ったようで申し訳ない。いつか借りは返そう。では良い旅を」

そう言って黒騎士どのは賊を連れて転移して行きました。

みんなホッと安心しました。そしてあまり見ない男性にちょっとドキドキしていました。

また疲れてしまったのでそこでお茶にすることにしました。

最後の試練に備えるために。


「魔法だけかな?魔道具も使ってるよね?」

そこがみんなの疑問でした。

「あの強烈な光は魔道具ですら無い軍用の道具というか一種の武器かも」

ソフィは世界の軍の情報にかなり通じているのです。大商会の娘ですから。

「あれは便利だね。特に対人戦には使える」

ロザリンドは冒険者の過酷な生活を考えているようでした。

「転移や隠蔽は魔法かなぁ?」

マリアは興味があるようです。もうすぐ伯爵家に戻るからですね。

「いずれにせよ一瞬で4人を気絶させるのは凄いですね」

サアヤの指摘はもっともです。リュティアの魔法にも負けない電光石火の技でしたね。

「みんな運が良かったね。眼球防御していて」

「それでも良く見えませんでしたね」

「確かに。凄い技を見るチャンスだったのに」

私が水を向けるとサアヤとロザリンドが応えました。

「でもとうとう最後ね」

「そうね。お茶が終わったら行きましょう」

そうですね。とうとう来ました。

最後の扉の前に。ちょっと余分なお客様がありましたけど。




何だかおっかなびっくりで。あの騎士さんがいなかったらもっとだったと思いますが。

と言うかこんなイシュモニアから離れた所で悪い人たちに捕まったら最悪だったでしょう。

それはともかく神殿の扉を開けてもすぐにボスがいるわけでは無いのでした。

しばらく道なりに進むとまた美しい装飾を施した扉がありました。

その上には古代語が彫ってありました。

たぶん『知識の前の赤子』と書いてあったと思います。

つまり膨大な知識の前では人は赤子の如き者だという意味だと思います。

全く今の私たちそのものですね。

そしてゴーレムは大きすぎて入れません。

一旦専用のストレージに格納してみんなで入りました。



中は天井こそ高く無いのですが大きな部屋でした。

そしてあの古代語の通り。大きな本棚が並んでいて書物がぎっしりでした。

さすが魔導師の迷宮ですね。

そっと奥に入ると何だか小さな御爺さんが座り心地の良さそうな椅子に埋もれていました。

どうやらおやすみのようです。

みんなで近寄り少し待ちました。

お目覚めをです。

でも待ちきれない人もいます。

ロザリンドが近づこうとしたのを制してソフィが眠るお爺さんに歩み寄りそっと腕に触れました。

「こんにちわ」

お爺さんはちょっと身じろぎしてからゆっくり目を開けました。

「ううん。・・・お嬢さんたち。良く来たな」

「あなたが迷宮のマスターですか?」

マリアもそっと尋ねました。

「そうじゃ。我が名は大魔導師シャラザール。ここが私の迷宮の深奥である。無傷で来たのか?素晴らしいことだ」

自分で大魔導師って・・・しかも小さな御爺さんが。


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