第23話 魔の森の主 魔導師の迷宮
最後の授業も無事に終わり私たちは急いで旅行の準備をしました。
予定の期間は40日。それぞれストレージの魔法やアイテムを最大限に活用しなければなりません。
最終試験への勉強もするつもりでしたからその準備も。
衣装と防具。武器類。特別な魔法のアイテムや魔導書。食料。寝具。etc.etc.etc.
私にはリュティアから特別なプレゼントがありました。
出発は学院の寮からです。
私たちだけでの冒険旅行は少しだけ不安もありました。けれどソフィもマリアも使役獣などは連れずに行きます。私もリュティアの守護をしているグリーンジプシーやラストローズを連れずに行きました。
勇敢なロザリンド。賢いサアヤ。優秀なソフィ。高貴なマリア。そして私。
きっと大丈夫だと思います。私たちにはそれぞれ有能なWLIDを着けて行きますし。
迷宮攻略にはソフィが用意した2体の強力なゴーレムもいます。恐らくソフィの御祖父のファベルジェ商会の特製だと思いますがアダマンタイトとミスリルを主とした合金製の素晴らしいゴーレムでした。
何と無属性のはずのゴーレムに闇属性の巨大な魔晶を組み込み魔法攻撃無効インヴァリッドの防壁を展開できる優れものです。
恐らく商会の総帥でいらっしゃる御祖父様が手配させたのでしょう。艶消しのブラックに塗装され商会の本気が伝わってきました。
それはそうでしょう。如何に巨大なファベルジェ商会といえども総帥の孫娘のソフィに対する愛情は別格なのでしょうから。
ですから私たちには恐れるものは無いとも思っていました。例えBクラスの迷宮でも。
その時は。
※※※※※
「豪華過ぎます」
みんな大喜び。ソフィの計画にぬかりはありませんでした。
私たちはまずファベルジェ商会の有する大型飛行戦艦ベガルティでフェダイーン内の自由貿易都市であるソグドに飛びました。
空の旅も快適でした。個室こそ無かったのですがゆったりしたシートの柔らかいクッションに埋もれてのんびりと地上の景色を満喫できました。
ソグド自由都市にはファベルジェ商会の大きな建物があります。その中の超豪華ホテルに泊まりました。
食事はすべて豪華なバイキングで私たちが魔導師の卵でなかったら太ってしまうところでした。
たっぷりの食事と良い睡眠で私たちは魔力もマナも気も満タンです。
バイキングの余りは全て地元で消費されるそうですから心も痛みませんでした。
商会のビルのポータルからはトルキスタンに設置された仮設ポータルに転移できます。すると商会が準備してくれた仮設の宿泊施設があり目的の『魔導師の迷宮』も目の前でした。
どうやら今回の旅行はソフィの実家のファベルジェ商会が全面的にバックアップしてくれるようです。
トルキスタンの砂漠に設置された宿泊施設には短期の滞在に必要なものは全て整っていました。
特に寝室とお風呂と食事には満足できました。
ロザリンドが思わず声を上げたのも当然です。
もっとも迷宮に入ったら攻略するまで野宿のような生活になるでしょうけれど。
1日だけ休んで次の朝。
みんなは揃って早起きできました。
旅行のための必需品などを宿泊施設に預けて迷宮攻略の必需品を補充しました。
朝食を食べて万全な状態で迷宮に向かいました。
宿泊施設の北には砂漠の中にポツンと岩山がありました。その麓には巨大な岩の神殿のようなものがあって迷宮への入り口になっていました。
いかにも昔の大魔導師が建造した神殿らしい風格がありました。
建築は数千年前とも言われるリヒタルの典雅な様式にも似ていました。
ソフィは厳かに2体のゴーレムを召喚しました。
黒い艶消しのゴーレムはとても頼もしく見えました。
ソフィはゴーレムに命じて美しい大理石の扉を開けさせました。
「行くわよ」
「OK!」
全員の答えが響いて私たち5人と2体のパーティは魔導師の迷宮攻略を開始しました。
※※※※※
魔導師の迷宮の第1層は宮殿のような迷宮でした。
壮麗な柱と高い天井。まさに空間魔導を存分に使った設えでした。
出てくる魔物は飛翔系でした。
鳥型の中でも鷲や梟や隼などの猛禽類系。大型の蝙蝠系。巨大な蝶や蜻蛉などの昆虫系です。
少数ですが亜竜系のワイバーン型もいました。
せっかくのゴーレムも飛翔系にはあまり効果がありません。初日から肩透かしでした。
ただ物理攻撃や魔法攻撃から私たちを守るという面では大いに働いてくれました。
この階層ではサアヤが雷系の魔法で猛烈に攻撃していました。
ロザリンドも炎系の魔法と魔法剣での攻撃。マリアは風魔法の系統を駆使していました。
ソフィはゴーレム操作の習熟。私は専ら回復と防御に専念しました。
隠し部屋が一つあり宝箱にはアーティファクトらしい短剣がありました。
獲物はとりあえずソフィが用意した専用のストレージに格納しました。攻略後に分ける手はずです。
最初の食事はボス部屋らしい大きな扉の前で摂りました。
魔物が顕れないセフティゾーンがあったからです。
なかなか美味な串焼き料理と野菜サラダ。新鮮な柑橘系の果物とお茶が饗されました。
ソフィの用意した食事にみんな満足しました。
満腹して少し休んでボス部屋に突入です。
見たことも無い真っ黒な木材に見える巨大な扉は古代風の彫刻があって威圧感満載でしたが私たちはめげません。
2体のゴーレムを先頭に開いた扉を通りました。
薄明るい部屋の中には巨大な純白のグリフォンが座っていました。
神秘的な知性を湛えたグリフォンの瞳は皆を順番に見つめました。
雄大な翼。
猛々しい嘴。
強力な四肢。
禍々しい爪。
濡れたように光る羽毛。
恐ろしく美しい魔獣。
それが私たちの相手でした。
バタンと大きな音がして後ろの扉が閉じると戦闘開始のようでした。
やはりBクラスの迷宮は侮れないボスを用意していました。
2体のゴーレムは凄まじい物理攻撃を防ぐのでやっとでした。
幸いにもグリフォンは魔法攻撃を行いませんでした。
けれどもそれは攻略の難易度を下げる要素ではありませんでした。
私たちのチームで最も素早く動けるロザリンドも暴風のようなグリフォンの攻撃に追従するのがやっとでした。
強大なパワーと圧倒的なスピード。
そして象を超える体格。それに相応しい体重。
恐るべき敵でした。
しかしサアヤの雷魔法で徐々に弱らせ最後は積極的に動いたマリアの風魔法で見事にKO。
必死に防御した甲斐がありました。
倒れたグリフォンにマリアが近づきその見事な嘴に触れると巨大な身体は輝く腕輪に変わりました。
グリフォンが守っていた宝箱には純白の宝玉が飾られたペンダントがありました。
玉座の陰には第2階層への転移魔法陣がありました。
とりあえず全員で転移してその日は休息することにしました。
この階層は森林でした。
高い空と巨大な樹林。
さすが魔術師の迷宮と言われるだけあり空間感覚を無視した構造になっています。
ソフィの用意したテントは大きくて興奮した5人の少女には十分なスペースがありました。
食事は私が用意しました。
時間停止のストレージから出した料理は出来立ての香りがしました。
野菜たっぷりのスープ。
トマトのサラダ。玉ねぎのドレッシングで。
ラムの骨付き焼肉。ニンニクとハチミツのソースで。
梅干しのおむすび。上等な海苔で。
スクランブルエッグのサンドイッチ。ほんのり岩塩を利かして。
柔らかい干し柿。
葡萄のジュース。紫と白。
みんな楽しんでくれました。
たっぷり食べて。しっかりおしゃべり。女子会ですから。
そしてぐっすり眠りました。
ゴーレムが警戒担当。安心でした。
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