第20話 魔の森の主 成長と希望
5人揃ってのクラリセ教授の授業。
勉強でアタマが疲れてるので身体を動かす授業は嬉しいです。
「ん?何かみんなやる気満々だね。勉強で疲れてると思ったのに」
教授がなんじゃこりゃ?の表情です。
「教授の授業楽しいんです」
マリアがそつの無いお返事。
「ですね。身体動かすの最高です」
いつも最高のロザリンドも力説します。
「たまには私も講義しようかな?実は助言したいことがあったんだ」
教授からのご提案。
「助言?何でしょう?知りたいです。ぜひ伺いたいです」
真面目なサアヤが押します。
「迷宮に入った時に思ったんだけど。みんな防具はそこそこだけど武器はおろそかかな?って」
それはあるかも。
「私知りたいです。魔法抜きでの攻撃方法は欲しいですよ」
優等生のソフィらしいですね。
みんなも教授の周りに集まりました。
「思うにロザリンドは自分のスタイルに合った武器を選べてるんだよね。でも他のみんなはもっと工夫があっても良いよね」
確かに小太刀二刀流のロザリンドは攻守ともに優れてますね。オリハルコンの小太刀は魔法を良く透しますから彼女に杖は要りません。
「私はサアヤのスタイルは見て無いけど教えてくれるかな?」
新しい転入生のサアヤは確かに本気のバトルスタイルを見せてませんね。
「私はこないだのお誕生会で素晴らしい杖を戴いたのでこれを中心に攻撃を考えたいです」
「どれどれ見せてごらん。・・・うん。これは素晴らしいね。主武器は当分これで良いと思うよ。後は接近戦の時の云わば蜂の一刺しみたいな武器があると良いね」
「私も迷っているんです。先生教えて下さい」
素直なサアヤの言葉に教授の顔もほころびます。
「杖は攻守にバランスが良い武器だし実は接近戦もこなせる。けど力の弱い魔導師は一瞬の鋭い攻撃方法があるとなお良いね。私はいざとなると投げても使えるスティレットを薦めておこう」
「スティレット?」
みんな良い反応です。笑顔の教授が教えてくれました。
「小型で薄くてしなやかな細身の短剣だよ。鎧の隙間からも差し込めるし折れにくくて切れ味も良い」
「素晴らしいですね。実物を見れますか?」
サアヤの問に教授はストレージからと思われるんですが手品みたいに美しい短剣を一本取り出しました。
真っ黒で薄くて長さは手の小さなサアヤでも使い易い感じです。
「かっこいい!」
サアヤは気に入ったようです。たぶんソフィとマリアもこれを見て自分たちの短剣をスティレットに替えようか迷っていると思います。
「ちょっと使って見なさい。紙もあるから切れ味も試してごらん」
「はい」
美しいスティレットはサアヤの手の中で自在に動きました。切れ味も上々です。
鞘を右の手首につけて左手で抜いて使うのが良いようです。マリアやソフィが左の腰に短剣を差して左手で抜いているのと似ていますがサアヤとスティレットはもっと連携が良いように見えました。
すると教授が言いました。
「そのスティレットはある迷宮の宝箱から出たものでなかなかの業物なんだよ。でも私は使わないから良かったらあんたにあげるよ」
迷宮の宝箱から出たものなら場合によっては普通の家族が一年いえ十年暮らせる金額のものもあると聞きます。サアヤは喜んでいましたが。
「凄く嬉しいです。でも良いんでしょうか?」
心配ももっともです。でも教授はにっこり笑って言いました。
「元冒険者の私にはそのぐらいしかしてあげられないけどね。気に入ってくれたら嬉しいよ」
「良かったねサアヤ。卒業旅行の迷宮踏破でもきっと役立つわよ」
ソフィも喜んでいました。マリアも笑顔です。
「教授のご厚意ですから素直にお受けになって宜しいと思いますよ」
「そうだよ。これでライバルが強くなったら私は嬉しいな」
ロザリンドはどこまでも男前ですね。
「ありがとうみんな」
サアヤの戦力はこれでより充実しました。魔法は得意。杖術の技もある。接近戦の隠し武器も手に入れたサアヤは強いですね。
その後は様々な武器を教授が見せてくれました。
マッチョな男の人が使うような大きな剣や刀を始め槍や棍棒の類まで見せてもらい教授の演武も拝見できて素晴らしい授業になりました。
もちろん私たちが使うような小型の武器や隠し武器もたくさん見ることができました。
ソフィやマリアは実家が裕福ですから何か思いついたと思います。私も隠し武器はアリだなと思いました。
私は魔法特化で考えていたのでとても触発されました。リュティアにも相談して見ましょう。
※※※※
ある日質問があってリデル教授のいる大図書館に行きました。
朗らかな美少女のリデル教授は大きな本を眺めながらご機嫌でした。
けれど直ぐに私に気づいてくれました。
「御機嫌ようチハヤ」
「御機嫌ようリデル教授」
「今日はどうしたの?」
勘の良い教授は直ぐに質問してくれました。
「教授。ブラックマスターの事って調べられますか?」
「ブラックマスター?そうね。まだ情報が制限されてるんだもんね。ブラックマスターの何が知りたい?」
そこで私は海辺の街エレーで見かけた黒っぽい剣士らしい人のことを話しました。
「その人がブラックマスターじゃないかって?なるほどね」
カード型のWLIDを操作したリデル教授の答えは予想を大きく外れてはいませんでした。
「確かにブラックマスターは1年前にグプタ帝国との契約が満了した後は詳しい消息が無いわね。イシュモニアに来た可能性はあるわ。魔導書か魔導器を買いに来たのかも知れない」
「グプタを去った理由は分かりますか?」
「・・・恐らくで良いなら推測は可能だけど」
「リデル教授の推測なら充分ですよ。教えて下さい」
ここぞと優等生オーラを発揮しました。
「まずグプタが彼を雇ったのは対ヘルヴィティア帝国ね。恐らく武術指南も兼ねてるはずと。で報酬は当然良かったと。グプタは引き留めたらしいけど貯えが充分にあるブラックマスターは目的があって旅に出た。そんな所かな?」
なるほど。さすがね。
「彼の技量はグランドマスター以上とも言われてるから引く手あまただし」
下手するとクラリセ教授と互角以上?恐ろしい人ですね。残念ながら彼の素顔については善いデータが無くてクトネシリカが偶然のこしてくれた画像では特定できませんでした。
「でもね。ブラックマスターについてはある噂があるのよ」
「何ですか?」
当然食いつきました。
「どうも彼はイシュモニアと無関係では無いらしいわ」
びっくりです。
「まぁ確定情報では無いけど。ただ確定情報として二つあるの」
ふむふむ。
「彼はかなり高度の魔導を行使したことがある。まぁ剣士が戦場で無敵って異常だもんね」
それなら魔導師の可能性が高いですね。
「もう一つは彼は何故か子供の人身売買について調べてるらしいの。だからあなたとサアヤちゃんの関わった事件を調べた可能性があるわ。実際グプタに雇われる前に彼はある人身売買の闇ギルドの拠点を潰したらしいの」
えぇ?
「まぁ推測だけど。人身売買の闇ギルドを憎んでる人は多いから。あるいは彼もってことね。彼について知りたいなら地下の書庫に本があるわ」
私はリデル教授に教えられた本を借りました。
教授の推測を大きく超えた情報はみつかりませんでしたけれど。
お祭りの日がやって来ました。
つまりトロニーの日ですね。学生と教授陣。二人のイシュモニアの顔が選ばれる日です。
イシュモニア群島を挙げてのお祭りです。
最大の都市である学園都市にはたくさんの屋台がでました。
聖母教の教会の周りもまさに門前市をなす感じです。
教授たちや学生たちの画像データが出回り気が早い者は既に投票を始めています。
まぁ投票行動の最高潮は締め切りの直前なんですけどね。
高等魔導学院の学生も街に繰り出してお祭り騒ぎです。
私たち優等生グループも寮を出て楽しむことにしました。
こういう時は赤道近くのイシュモニアは快適ですね。
みんな防御力の高いアウターレイヤーは脱いで身軽になっています。
ポカポカと優しい風土ですからお肌の露出が多くても快適です。
ミドルレイヤーもそこそこの防御力がありますが防御魔法を準備しておかなければなりません。
お祭りの浮かれた雰囲気にみんな呑まれていました。
一応未成年なのでお酒は飲めません。
でも周囲の様子が私たちを油断させました。
華やかな衣装をまとった女性たち。
一張羅を着込んだ男たち。
正装を着た男たち。
精一杯着飾った少女たち。
大人に混じって元気に戯れる子供たち。
正装の男の多くは仮面を着け。
女たちは化粧で擬態していました。
そこかしこで酒が振舞われ。
くるくると踊る乙女たち。
博打にナイフ投げに興じる男たち。
さまざまな国のさまざまな時代の美しい音楽が奏でられました。
そして・・・私たちの知らない所で何かが始まっていました。
私たちの味方も。そしていずれ敵対する者達も。
「学院長」
優雅なイフィゲーニアが学院長の執務室に立っていました。
「言いたいことは分かっているよ。イフィゲーニア」
古めかしい重厚な椅子に座ったゾシマ老。時の司は物憂げにエルフの美しい教授を見ていました。
「しかし。今のところは充分に警戒する以外に為すべきことは無いのだ。巨大な力が無自覚に集まってしまったから」
学院長の言葉が静かな執務室に響きました。
ハイエルフの女王国。エルハンサの首都フェアグリンの聖なる城の深奥の間で。聖女王アグラリエルは神官長ハルラスの言葉を聞いていました。
「・・・サリナスの眠れる姫が目覚め異界の巫女を連れ帰りました。
巫女はリヒタルの聖なる儀式で覚醒し魔の森で強大な力を得ました。
身代わりに異界に跳ばされた姫はより強力な存在となって戻りました。
姫と巫女はイシュモニアに匿われ今は安全です。
しかし時の神の導きによりイシュモニアに集った者たちの存在は世界のバランスを崩すでしょう」
目を閉じて神官長の言葉を聞いた聖なる女王は再び問いました。
「浮遊都市に動きはあるか?」
「今のところはございません」
即座の解答に女王も目を見開いて応えました。
「今のところは流れに任せよう。
ただし姫と巫女の安全には陰から配慮するのだ」
「ではティリオンを監視者を使いましょう」
「それで良い」
神官長ハルラスは礼をして深奥の間を辞しました。
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