第17話 魔の森の主 不潔なのはNG
その後も何度かサアヤさんとお出かけしました。
楽しかったですよ。だんだんみんなも帰省から戻って。
事件の話も何度もしました。
犯人グループは“アカツキ”という闇ギルドのグループだと分かりました。
人身売買に違法薬物に賭博に売春などで稼いでいるグループらしいです。
サリナスとヴァイエラの司法組織も動いてくれたので確かな情報ですね。
アカツキは西の大国であるアーネンエルベ共和国に本拠地があるようです。ヘルヴィティア帝国にも大きな支部があるようです。
みんな子供を犠牲にする組織を怒っていました。特にロザリンドは猛烈に。
あのエレーの街にもみんなで行きました。私たちの感覚では終わった事件のつもりでした。後にそれは訂正されるのですが。
そして楽しかったお休みはアッという間に終わりました。
新しい学期の初めの授業はラウラ教授でした。紫がかったプラチナブロンドの豪奢な髪。蒼い瞳の美人です。
たぶん人間だけどエルフの血が混じってるのでは?と言われています。耳は普通です。ややタレ目の優しい笑顔が素敵です。
聖女の称号があり祈りの司と呼ばれています。
教授は教養の科目で歴史や地理や様々な文化を教えてくれます。
ある意味非常識な私たちにとって一番大事な授業です。世界中を旅して来たラウラ教授の授業は面白い授業としてとても人気があります。
この日はラウラ教授の授業が特別にあってしかも授業はこれだけです。
先輩や後輩も詰め掛けて大教室にほぼ全校の学生200人ほどが座っています。
「みなさん楽しい休暇でしたか?」
多くの学生が笑顔で返事をしました。
「みんなそれぞれ故国に帰省したでしょう?だから今日は地理にしましょうね」
これは楽しみ。私にはどこも外国だもん。ボードには大きな地図が展開されました。
「まずこのイシュモニアですね。イシュモニア群島はこの世界で最も大きなキャロウモア大陸の東にあります」
日出ずる島ですね。
「西に行くとヘルヴィティア帝国です。西北は島国のサリナス皇国。サリナスの西にはヴァイエラ神聖王国」
この辺は知ってます。
「サリナスの北にはムイ共和国。ムイは東西に広い国ですね。ヘルヴィティアの西にはムイより巨大なグプタ帝国があります」
サアヤさんの国とロザリンドの国ですね。グプタはかなり温暖な国ですね。ヘルヴィティアとグプタの間にはトリシューラ大山脈がありますね。
「ヴァイエラの西には遊牧民族の国がありますね。カリストとオーラーツェン」
二か国ともヘルヴィティアに圧迫されてる国ですね。何年か前には大きな戦役があって領土を削られたはずです。
「カリストの西には南ポネラ山脈があってその西にはアーネンエルベ共和国とフェダイーン国があります。フェダイーン国の北にはトルキスタン王国がありますね」
比較的安定した国々ですけれどアーネンエルベのように非合法組織の拠点になっている場合があります。
「トルキスタンの東には北ポネラ山脈がありその東にはエフィネラ大山脈があります。その東はムイ共和国になります」
これでキャロウモア大陸の大きな国は網羅されました。
「大きくはないけれど重要な国々がありますね。例えばエフィネラ大山脈と南北ポネラ山脈に囲まれたエルハンサとイスカネル。どちらもエルフの王国です。私たち魔導師にとって重要な国です」
いつか行ってみたい国ですね。
「またキャロウモア大陸の南東には第二の大陸であるレムルス大陸があります。サリナスの真南。私たちのイシュモニア群島からは南西になります。魔族の大陸と言われほとんど交流がありません」
不気味な大陸ですね。イシュモニアとサリナスはそれぞれ魔導と科学の力で魔族の脅威に備えていると学びました。
「またフェダイーンの西にはフェニス連邦があります。交易で得た巨大な経済力を誇る海洋国家です。フェニスの北にはエウカシアという龍と獣人と人間が共存する島国があります」
エウカシアは龍に守られた国とも言われていますね。フェニスとサリナスのみが国交を結んでいるとか。
フェニスは強力な海空の船団を有する国家で度々ヘルヴィティアの侵攻を阻止しているそうです。
「最後に重要な都市国家を。まず先ごろヘルヴィティアの侵攻をうけたリヒタル。トリシューラ大山脈の中にあるドワーフの王国プマプンク。フェダイーンの東部にある商業国家ソグド自由都市。ムイ共和国の東部にある学術都市ソフィア。また唯一の空中都市ンクルティシュゲール」
どこも行ってみたい都市ですね。リュティアに頼めば簡単に行けるかも。ただンクルティシュゲールは入国に一定の資格が必要だとのことです。
「これらの多くの国々と国交を結んでいるのが私たちのイシュモニアですね。なのでイシュモニア出身の魔導師はその点に於いても職に困ることはありません。みなさん良かったですね」
ここで学生たちから笑いやら拍手やらがありました。全員が豊かな階層の子供ばかりではありませんからね。確かにイシュモニアの出身なら安心です。本人も雇う方も。
「先生の目から見てお薦めできない国はありますか?」
もうすぐ卒業らしい先輩から質問がありました。これは全員が興味を持つ良い質問ですね。
「難しい質問ね」
でもラウラ教授は笑顔ですけれど。
「みんなも知っている先の戦役で加害国になったヘルヴィティアはあまりお薦めできないわね。またレムルス大陸は魔人族のエリアなので就職先自体が無いわね。さすがにイシュモニアも正式な国交が無いのよね」
この世界で争いの原因になりそうなヘルヴィティアはもちろんですね。またキャロウモア大陸の国々とほとんど国交が無いレムルスは確かに就職が難しい国ですね。
「国交が薄いという意味ではンクルティシュゲールとエウカシアも魔導師の募集がほとんどありませんね。またエルフの国であるエルハンサとイスカネル。ドワーフの国プマプンクも募集は無いわね。でもイシュモニアから外交官として派遣されている魔導師がいますけどね」
サアヤさんはきちんとメモをとってるみたいね。真面目だからってのもあるでしょうけど。やっぱりお母さんと暮らす国を探してるのかな。
「逆にお薦めと言うかイシュモニアの魔導師が住みやすい国はどこですか?」
やっぱり先輩の質問。これも誰でも知りたいよね。
「これは聞かれると思ったわ。特別な友好国はサリナス。ヴァイエラ。リヒタル。ムイ。フェニスね」
これは予想通り。
「その他でお給料が良いのはアーネンエルベとグプタね。フェニスは超別格として友好国も含めて最も待遇が良いわ」
どこも豊かな国ですね。ちなみにイシュモニア出身の魔導師はイシュモニアかサリナスかあるいはヴァイエラの三国の中から選んで銀行預金をしていることが多いようです。
これはイシュモニアとサリナスとヴァイエラは互いに強い友好関係にあることと軍事的に安定しているのが大きいようですね。同時に信託した財産の運用が手堅いことも理由の一つになっています。
つまり大きく儲かるかは分かりませんが手堅く増やしてくれるのが良いんですね。
冒険者などはこの三国とともにフェニス連邦の銀行も人気があります。フェニスも三国ほどではありませんが軍事的に安定しており信託財産の利回りが良いのが特徴ですね。
「住み易いのはフェダイーン。トルキスタン。ムイかなぁ。自由な国ですね。いろいろ整っているのはやっぱりサリナスとヴァイエラ。もちろんイシュモニアも。逆にアーネンエルベは明らかな先進国ですけど法律はがんじがらめね」
やっぱりリュティアの家があるサリナスは良いんですね。食べ物美味しいし。
「お食事が美味しいのはどこですか?」
これは下級生からね。
「ゆたかな国はお料理も美味しいわね。私の好みではヴァイエラとグプタは特に美味しいわね。サリナスとイシュモニアもお料理が美味しい国よ。リヒタルも以前は素晴らしかったですね。でも何処の国にも美味しいお料理があるわ」
たしかリュティアのお料理は多国籍型って言ってましたね。まぁ私はリュティアと一緒にいるから教えてもらえば良いわね。
その後も人気の高いラウラ教授の講義は活発な質疑応答がありました。
私はお友達の母国にはそれぞれ行ってみたいですね。
※※※※
ある時みんなで連れだってエレーの街にいきました。また美味しい海鮮料理を食べようと言う作戦です。
当然のようにリリアーナさんの店が選択されました。清潔さと学生のお財布にも優しい良心的なお値段。もちろん素晴らしいお料理に魅かれたんです。
その途上での事。
「そういえば」
サアヤさんが言いました。
「ロザリンドって凄い体力よね」
ロザリンドはちょっと考えてから応えました。
「う~ん。ひょっとすると獣人族の血統のおかげかな?」
マリアはびっくりしたようです。
「ほんと?」
「ほんとだよ。おばぁちゃんは評判の美少女だったらしいわ。学者だったおじいちゃんが一目ぼれだったとか」
きゃぁと少女らしい騒ぎになりました。
「ロマンチックだわ。あこがれちゃう」
案外乙女なソフィが優等生らしからぬ発言。
「やっぱり一目ぼれが一番ピュアよね」
サアヤさんの琴線にも触れたようですね。でもどことなく優等生らしい発言。
無事にリリアーナさんのお店に着いたので今日は外のテラス席を選びました。ある程度騒いでも大丈夫だからです。だって女子会ですから。
今日はおなじみの定食にお金持ちのソフィが大盛りの海鮮と特別なデザートを奮発してくれました。
充分の百倍くらいのお小遣いをもらっている上に普通の商会の主を優に超える資産を持つソフィの言葉なので私たちはノルことにしました。
貴族のマリアが平然としているので私たちパンピーも余計に安心して奢ってもらうことができたんです。
そして女子の話は際限なく盛り上がり好みの男の子とか男性とかの話に。
「そう言えばあの時助けてくれたリュトさんって男の子が素敵だったわ」
サアヤの言葉に私はむせそうになりました。だって私は正体を知っているんですから。
「どんな子だったの?」
すかさず突っ込むロザリンド。ショートヘアで王子様みたいなロザリンドもやっぱり女の子ですね。
「緑の髪で旅人の服装だったわ」
「つまり緑の帽子と緑の服?全身緑だったってことね?顔は?」
とソフィが確認。
「顔は良く覚えて無いのよね。でも20人以上を簡単に転移させてギャング組織も一網打尽にしたんでしょ?凄い人であることは確かよね」
サアヤの好みは有能な男子ってことですね。
「チハヤも見たんでしょ?」
マリアの鋭い指摘。
「私もチラ見だから良く覚えて無いのよ。子供たちを助けるのに必死だったし」
私の苦しい言い訳。
「私も会いたかったな。貴族かしら?」
大人しいマリアも興味深々ね。
「学院長の知り合いでしょ?たまたまイシュモニアに滞在してたのかしら?きっと魔導師資格のある旅人ね。名のある人かも。調べられるかも。貴族の可能性もあるわね」
ソフィの分析が鋭いですね。
「アイリス教授は知ってるんじゃないかな?」
サアヤ鋭い!私も同感ですよ。確認して無いけど。
「あぁ在り得るわね。アイリス教授って学院長に強いもんね」
ロザリンドは良く見てるわね。
「問い詰めたら教えてくれるかな?そもそも私たちの大先輩の可能性もあるよね」
マリアは意外と積極的ですね。
「ところでさ。向かいの三軒ばかり離れたところのカフェに座ってる人」
ソフィの言葉で全員がそちらをチラ見しました。
「黒っぽい恰好の男の人ね」
目敏いマリア。
「かっこいいね」
ロザリンドも素早い。確かにかっこいい剣士風の人がいます。業物らしい剣を持ってますね。
「でしょ?」
ソフィは大人っぽい人が好みなのかな。
「高価そうな腕輪してる。WLIDかな?だとしたら魔導師?」
サアヤは目が良いのよね。メガネっ子なのに。ん?視力増強なのかな?それともメガネは防護メガネ?
「だとしたらOBの先輩かも」
ソフィの分析はあたってそう。でも剣士風の人はお茶かコーヒーを飲み終わって行ってしまいました。
私たちもじきに食べ終わってお散歩することに。
目的地は前回と同じ風の丘公園。気持ち良い風が吹くところですからね。
「美味しかった。ソフィごちそうさま」
改めてお礼を言いました。
「気にしないで。定食はワリカンだったし」
照れるソフィ。
「そうよ奢る機会を与えてあげたんだから」
さすがお貴族さまのマリア。
「ひょえ~マリアってグプタのお爺ちゃんたちみたい」
ロザリンドの故郷の文化かしら。
「マイトレーヤ教ね。正しい教えだわ」
ソフィの教えなら間違いありませんね。マイトレーヤ教は誰かにプレゼントする事をプージャと言います。たくさんプージャすると死後に安楽の園に転生できるとか。
「それにしても良いところね。風が気持ちいい!」
ロザリンドの良い笑顔。
サアヤも肩までの髪をなびかせて気持ち良さそう。公園内は若干起伏があるので小高い場所にある四阿に行きました。
海の眺めが素晴らしいです。蒼い海。青い空。吹く風は清く私たちの人生はこうあってほしいと思わされました。
マリアは卒業したらお見合いがあるらしいです。さすがお貴族さま。
そう言えばソフィとマリアは簡略型の杖のWLIDだったのに新しい強力なWLIDを新調していました。
ソフィは美しいチョーカー型。おそらく急所である首を守る意味もあるのでしょう。
一方マリアは目立たない耳飾り型。こちらも大事な頭部を守る意味と左右で機能を補完するなどが考えられますね。
二人ともいわゆるセレブですから自衛は第一の優先順位でしょう。
もっともロザリンドやサアヤだって無事にイシュモニアを卒業すれば重要人物という意味でのVIPではあるんですけどね。
まぁそれぞれいろんな悩みがあるようです。マリアの縁談はその一つ。複雑ですよね。
「ぶっ壊してほしい縁談なら私を呼んでね」
温厚なソフィの過激発言。
「私もノルわよ」
とロザリンド。
「私も」
とサアヤと私も手を挙げました。
みんな過激だなぁ。分からないでも無いけど。まだまだモラトリアムでいたいよね。
政略結婚でイヤな相手に当たったら大変。でもソフィだってマリアほどじゃないけどやっぱり親に決められたりするんじゃないかなぁ。
この点については私とサアヤは大丈夫。ロザリンドもたぶん大丈夫だと思う。ご身分じゃないって良い事もある。
ただイシュモニア出身の魔導師は特別な価値があるから。そうそう無体な無理じいは無いと思うけど。
既にマリアの実家にはマリアを抑えられる人はいないと思うし。イヤなら家出してもやっていける。大騒ぎになるだろうけど。
魔導師の家出はお気楽なの。大事なモノはストレージに入れられるから。まぁ不得意な人もいるけど。
それに世界の何処でもやっていけるから喰うには困らない。
「そう言えば卒業旅行ってどうする?」
話しを変えたのはロザリンド。一番冒険したい人だ。今でも護衛騎士や冒険者としてやっていけるはず。
「みんなで旅行したいよね」
マリアは思い出つくりたい派だ。
「どんな旅行にするか?よね。冒険か美食か文化や文明への見聞か」
旅行大好きのソフィらしい。
「私はみんなに合わせるけどあんまり不潔なところはNG」
清潔なサアヤらしい。
「チハヤは?」
ソフィが聞いてきた。答えに迷うけど。
「・・・美食と文化と温泉かな?そもそも何日くらいの旅行?一週間?一月?」
この世界の一週間は5日。一月は22日。
「最後の想い出だもん。一月はほしいな」
思い出派のマリアは一月以上説。
「私は迷宮攻略したい。二か月でも良いよ」
そう言うと思ったよロザリンド。
「私も二か月で大丈夫」
サアヤも。
「私も大丈夫。迷宮攻略してから遊びに行くなら二か月は妥当ね」
ソフィも。
「私も大丈夫。迷宮攻略は決定?」
私が聞くと全員うなずいた。
「じゃどんな迷宮にするか?よね」
と聞いてみた。
「不潔なのはNG」
潔癖サアヤの答え。
「あのね。アンデッド系のはやだな」
とお嬢様のマリア。
「5層くらいのの簡単なのでボスの宝箱が割と良いの」
計算高いソフィらしいですね。お金持ちほどしっかりしてる。
「私は何でも良いかな」
ロザリンドらしいですね。
「じゃそんな条件で。その後温泉と美食と良い景色ね。ソフィにプランニングしてもらえればと思います」
と私が一瞬仕切りました。
まぁ実は前途多難だったんですけどね。
でもソフィがセッティングってのは全員賛成でした。
お金持ちで旅行が趣味だから適任ですよね。世界の素晴らしい風景を画像データにして売ってるくらいですから。
その後も女子会特有のおしゃべり。
学院に帰る転移の前にふと見ると離れたところでしたけどあのカフェにいた黒っぽい剣士らしい人がいたんですよね。何だったんでしょ。
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