第16話 魔の森の主 救助
「え?」
何?声?
「何?」
「分かったわ!あの船ね」
確かに海岸線のかなり先にちょっとした船が浮かんでました。エレーの街に物資の補給に寄ったんでしょうか?何かの声も微かに聞こえます。
「おかしいわ。あなたも聴力増強してみて」
サアヤさんに言われて私も感覚増強してみました。
「助けを求めてる?」
「そうよね。私行きたい。あなたどうする?」
少し考えましたがサアヤさんだけ行かせる選択肢はありませんでした。でも学生だし。最低限の予防線を張らなきゃ。
「あなたも隠蔽魔法使えるよね?強めに張って行きましょう」
そしてリュティアに緊急の通信。クトネシリカ任せですけどね。これで恐らく危険は最小限になったはずでした。
「分かったわ。行くわよ」
「うん」
そして転移。身体能力を強化。強い隠蔽魔法。サアヤさんとは心話で会話。
『恐らく下よね?』
『行きましょう』
階段を駆け下りました。私の隠蔽魔法は音を完全に殺せませんでした。もっと頑張らなきゃ。
かなりしっかりした造りの半動力式の帆船のようですね。
風が吹くときは帆船。風が無い時は動力船という船です。この時代ではかなり普及しています。
甲板より2層下。助けを求める声が少しはっきりと聞こえます。途中の扉の鍵は簡単に開きました。急がなきゃ。
『あと一つ下ね』
『うん』
走る。最下層?何か湿っぽい。
『ここね』
鉄の扉。見張りが二人。昏睡魔法を!
上手く効きました。
『もう大丈夫ね』
その時後ろから・・・
『手伝うよ』
男の子の心話。
『誰?』
サアヤさん気が立ってます。
『早まらないで。それより助けよう』
解錠の魔法。中には子供が20人くらい。姿を見せた男の子が声をかけます。緑の髪の男の子。
「もう大丈夫だよ。今助けるから。転移するから集まって」
子供たちが集まります。え?20人一緒に?いえ私たちも一緒だわ。隠蔽してるのに?
「さぁ。ここで良い」
あっと言う間に学院の中でした。
「僕は後始末に行ってくる。僕はリュト。学院長のお友達だから安心して」
男の子はまた消えてしまいました。
隠蔽魔法を解いて子供たちを宥めようとすると。
「サアヤ。チハヤ。二人はこっちよ」
アイリス教授でした。
「子供たちは任せて」
エディス教授もいました。
アイリスに連れられてゾシマ老の部屋へ。
「ようこそ。サアヤ。チハヤ。お疲れ様」
ゾシマ老はにこやかでした。
「今日はあなたは怒る役でしょ」
アイリスに突っ込まれたゾシマ老。
「こりゃ手厳しい。私に厳しいのは君くらいだよアイリス」
笑って躱そうとするけれど。
「話を逸らさないの」
あくまで厳しいアイリス。でも怒った顔ではありません。
「やれやれ。二人はお手柄だったと思うけど。でもねサアヤとチハヤに言っておくけど。危ない事は学生だけではダメだよ。今度はリュトに頼めて良かった」
肩をちょっとすくめた学院長は苦笑いでした。
「あの子供たちはプロの人身売買組織に捕まってたのよ。後始末は私たち大人に任せてね。魔導師ギルドのネットワークで何とかできるから」
プロの組織。私たち運が良かったかも。アイリスに言われて分かりました。
「ごめんなさい」
上手いタイミングで謝ったつもりです。
そこにエディスとイフィゲーニアも登場。
「子供たちはそれぞれの出身地の魔導師ギルドがいったん引き取ることになりました。だから安心して」
とエディス。
「二人とも運が良かったね。もう分かったでしょ。敵に強い魔導師がいたら大変だったわ」
イフィゲーニアの言葉で二人とも下を向いてしまいました。
でもサアヤさんは直ぐに顔をあげて。
「リュトさんって誰ですか?お礼を言わなきゃ」
ゾシマ老はちょっと複雑な顔をして。
「今日のところは僕から伝えておくよ」
「人身売買組織って?」
私だって学んでます。そういう組織がいろいろあるのは知ってます。でも備える為にも相手が誰なのか知りたいと思いました。
「調べが確定したら教えてあげよう」
ゾシマ老は言いにくそうでした。
「親がいない子供もいたんですね」
サアヤさんがぽつんと。
「良く分かったね。両親がちゃんとしてたら返す。そうでなければ魔導師ギルドが育てる。ちゃんと適性をみてね」
良かった。安心ですね。
「さぁ。今日はそれぞれ自室で反省よ。次の時はどうするか?レポートにまとめてね」
緩い罰をアイリスに宣言されました。怒った風情の表情の人はいませんでしたし。アイリスは口元が緩んでましたし。でも反省はしましたよ。
サアヤさんも凹んだ様子はありませんでした。
二人でもう一度謝って部屋をでました。
「あの人に直接お礼言いたかったわね」
やっぱり。
「うん」
「でも凄かったね。20人以上を一気に転移したんだから」
「うん」
「さすが学院長の知り合いね」
「うん。それより組織が気になるわね」
私は後々の事を考えてるつもりでした。この時は。
「確かに。チハヤは心配?」
やっと敬称略になりました。
「ううん。私は平気だけど。むしろ・・・」
「やっつけたい?」
げげ。
「サアヤ鋭いわね」
「それは分かるわよ」
サアヤさん得意そう。
「私も同じだもん。私卒業したらギルドに勤めようかな」
その方が悪い人をやっつけるには良いかも。
「チハヤはどうするの?」
「・・・私は決まってないわ。でも弱い人を助けるのは好き。特に子供は助けたい」
「だよね。分かるよ」
ホントにどうなっちゃうんだろう。私は何になれば良いんだろう。
それにしても。ここまでの流れで分かりました。攫われた子供ばかりでは無かったことを。世界の悲しい現実です。でもそのまま受け入れるつもりはありません。
リュティアの飛行艇に転移。
居間に行くとリュティアが座っていました。
「連絡くれてありがとう。良かったね無事で」
リュティアはわりと平静でした。
「ご飯食べる?」
「うん」
「良かった~用意しといて」
リュティアはいそいそとキッチンに行きました。
私はある質問を用意しました。
「すっごい」
「でしょ」
得意そうなリュティア。
確かに美味しそうなお料理。いつもだけど。
「いただきま~す」
「リュトって誰?」
「え?わかんない」
「私は知ってる」
「げげふ。驚いた」
全然下手な演技。
「答えて」
「あら。困ったわ」
「クトネシリカに連絡頼んだのはリュティアだけ。そして助けに来たのはリュトさんってゆう男の子。メチャクチャな空間魔法の遣い手」
「え?バレちゃった?てへ」
やっぱり。
「あの時見たの一瞬だけ」
リュティアはきょとんとしました。
「私が聖魔法使った時」
それで気づいたみたい。リュティアがボロボロになってこちらの世界に戻ったときです。忘れるわけはありません。
「観~た~な~」
「ふざけないでください」
ちょっと怒ったふりをしました。
「しょうが無いなぁ」
座ったままリュトくんに変身。へんしん?幻惑魔法じゃ無かったのね。緑の髪に緑の衣服ね。
「旅人のリュトだよ。助けた人の姿をあの連中にみせないとね。ただでさえイシュモニアが疑われる状況だったから。恨みを買うのは僕だけで充分。組織に狙われるのは旅人ギルドの『緑のリュト』だけ」
やっぱり。ちょっとドキドキしました。私はリュティアが好きですけど。でも逆に旅人ギルドは大丈夫なのでしょうか?
「安心して。旅人ギルドは本拠地も支部も無いし主な構成員の多くは謎だから犯罪ギルドや闇ギルドでも攻撃するのは難しい。それにプロなら旅人のギルドに手を出してはならない事を知ってる」
それでもいろんな疑問はありましたが。
「さぁ食べようよ」
またいつものリュティアに戻りました。
変身するとわ。何ですかね。しかも男の子?まぁ女傑みたいな人に変身されても困るんですけど。
「女子だけで旅すると危ない場所もあるんだよ。この世界には」
言い訳みたいなセリフ。私もリュトくんと旅することがあるのでしょうか?
お食事は・・・美味しかったですよ。調理法を教わって・・・何となく誤魔化されて。
ズルいのはメッチャ美味しいベリー類が山盛りだったこと。お腹がいっぱいになって眠くなったのは絶対リュティアの催眠魔法です。絶対。
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