第13話 魔の森の主  迷宮



次の光の曜日には舞の授業の特別講義になりました。

つまり簡単なFクラスの迷宮の探索です。クラリセ教授の引率で1日かけて行うことになりました。

オープンフィールドの魔の森と違い講義に選ばれたFクラスの虫の迷宮はクローズフィールドです。

やだなぁ。

虫嫌いだし。クローズフィールドはあの遺跡を思い出します。

う~ゾワゾワする。

でもロザリンドはもちろん。ソフィもマリアもやる気満々。私はやる気が無いのを悟られないようにするのが大変。

そもそもイシュモニア高等魔導学院の卒業生は普通は迷宮探索をしません。

マリアのような貴族の子女は一族の守り手になります。

ソフィのようなお金持ちの家の子は何かの時の切り札として大切にされるでしょう。

ロザリンドのような学者の家の子は研究者になることが多いですし宮廷に入って上級魔導師として勤める道もあります。

迷宮探索する冒険者になるのは極少数の変わり者です。

だからリュティアが危険な任務を与えられた時に同席していた3人の魔導師たちは直ぐには賛成しなかったのです。

子供が迷い込まないためだけの簡単な柵がある虫の迷宮。

実は迷宮とは名ばかりで内部は迷うことが無いそうです。

学院の学生が最初に一回だけ行ってみるのがここ。

危険な魔物もいないとされています。

それに私たちの実力は既に一般のB級の魔導師に劣らないはずです。

しかも今回はクラリセ教授の付き添いあり。

恐いワケがありません。

「何かチハヤは消極的?」

教授は騙せません。でも引きつった笑顔で誤魔化しました。

「まぁ気楽に行くさ」

ですね。ですよね。でもね。

「どんな魔物が出るんでしたっけ?」

マリアはやや慎重。

「カマキリ。オニヤンマ。オオスズメバチ。ジョロウグモ。タガメ。ヘイタイアリなどの魔物でしたっけ?」

ソフィの下調べは完璧ですけど。しかしキモいのばっかし。

「飛ぶのがいるんですね」

マリア鋭い!

「しかし魔導師ならば対処できるはずじゃな」

教授は余裕ですね。

「えーと。ロザリンドは火の魔法。マリアは風魔法。チハヤは光魔法。私は氷結魔法が得意ですから隙は無いはずです」

ソフィの分析が入ります。ソフィは水魔法の上位の氷結魔法が得意ですから頼りになります。ちなみにクラリセ教授は治癒の聖魔法と毒の闇魔法と武術家らしい構成ですね。治癒魔法は私たちも使えるので充分以上ですけど。

「各員の装備チェックも大丈夫だね?」

これが大変だったのよね。

私たち魔導師あるいは魔導師の卵は防御系はそこそこ決まってます。

上から帽子とローブまたはマントとショートブーツ。これ必携ね。対物理と対魔法の防御力があって天候や気温に関する変化にも対応できます。

しなやかで手触りも良いしメッチャ快適なんです。もちろんベースレイヤーやミドルレイヤーもそれらに対応してます。

マリアは薄い緑色のフード付きマント。膝丈のスカートと上着も同系色です。ソフィは薄い水色の帽子とローブ。同系色のミニスカートと上着。ロザリンドはピンク系のフード付きのミドル丈のマント。同系色の折り返しのある短いパンツにチュニック。

問題は武器類です。魔導師は杖が基本ですけど短剣や短刀を副装備サブウェポンに使うスタイルも多いです。特に迷宮探索の場合には。

ソフィとマリアは杖と短剣のベーシックな武装を選びました。長短相補う良い選択です。ちなみに二人のWLIDは杖です。これは魔導師として標準的ですね。

ロザリンドの武装はちょっと違います。小刀の二刀流です。小刀と言ってもコガタナでは無くショウトウですね。WLIDは腕輪です。

でわたしはWLIDがクトネシリカ。ネックレスですね。武装は杖です。私の場合は魔法防御が優れているので短い武装はいらないです。杖もあくまで補助武器です。学院の標準品です。材質は魔法の伝導が良いミスリル製です。

私たち魔導師(の卵)が物理領域では弱いかと言うとそうでもありません。

例えばSクラス魔導師のイフィゲーニアは全く同じ防具と武具を装備してもBクラスの冒険者と魔法抜きで戦って勝てます。

相応しい装備をすると魔法攻撃抜きでもAクラスの冒険者より強いかも知れません。レベルの差は時に相性を超えるのです。

つまり相応しい装備をしている今の私たちはこのFランクの迷宮に出てくる魔物に傷つけられる可能性はかなり低いでしょう。

そしてクラリセ師匠の武装はミスリルのワイヤーを細かく編み込んだ指無しのグローブです。武装の主たる素材は高難度の迷宮に出現する上位ドラゴンの革です。サブウェポンにはアダマンタイト製の短弓を背中にしょっていました。WLIDは私たちには分かりませんでした。

まぁさすがに実力が桁違いですからFランクの迷宮なんて目じゃない総合戦闘力ですね。

ともあれ私たちは迷宮の入り口でもう一度装備のチェックを行いました。



迷宮の中は草原が半分。森林が半分という感じ。

第1層の魔物はヘイタイアリだけでした。私たちと身長が変わらないので気味悪いんですけどね。

「キャァ」

マリアが跳び下がってヘイタイアリの攻撃を避けました。すんなり伸びた脚が膝までのスカートからのぞきます。

「ハッ!」

ロザリンドの炎の魔法刀が頭部と胸部のつなぎ目を見事に断ちました。

そこそこ堅いんですけど魔法には弱く魔法剣にはもっと弱い感じでした。

ロザリンドの炎の二刀流なら無双できそうです。

急に現れたヘイタイアリの魔物はマリアの風魔法で両断されました。

次の魔物はソフィの氷結魔法のアイスジャベリンで串刺しになりました。

みんなの魔法や武術が強くて私の出番はありません。師匠は頷いていました。

第2層ではカマキリとジョロウグモの魔物が出現しました。

どちらも私たちの2倍ほどの大きさで迫力があります。

自然に中央にロザリンド。左右にマリアとソフィが杖を構える陣形になりました。

ただヘイタイアリと較べるとやや柔らかくて刃物には弱い感じです。

ジョロウグモの糸攻撃が厄介でしたがマリアが風魔法で吹き飛ばすのが有効でした。

カマキリは武術の達人という感じでした。けれど気の流れを察知する修練を積んだ私たちには強敵とは言えませんでした。

私は防御の魔法を適宜使いました。

第2層から第3層に至る中継点に着いて少し休憩しました。クラリセ教授に問われました。

「どうする?ここで今日は帰るか?」

この迷宮は第3層までです。今までの様子なら完遂できそうです。

「私は最後まで行ってみたいです」

さすがロザリンド。

「私も賛成です」

冷静なソフィ。

「私はみんなに合わせます」

マリアも自信があるようです。

私は黙っていました。けれど師匠は何故か頷いていました。



第3層はオオスズメバチとオニヤンマそしてタガメがいる階層です。

Fクラスの迷宮とは言え強敵です。3種とも飛ぶ魔物だからです。

強さそのものはFクラス相応なのですが雑木林のフィールドなので難易度は高いのです。さすが最下層ですね。

私は自分には隠蔽魔法を駆使しました。防御と治癒に特化するためです。そしてはじめから防御魔法を全開で使いました。

大きな顎をガチガチさせて向かってくるオオスズメバチの魔物は迫力満点です。

「恐い!」

「でも大丈夫よ。シールドが張ってある」

マリアとロザリンドの反応は予想通り。

「凄く戦い易いのはチハヤに攻撃がいかないからだわ」

さすがソフィ。ここで私から提案します。

「マリアにも隠蔽魔法かけましょうか?」

私のシールドの中で3人が相談します。敵の攻撃がソフィとロザリンドのみに集まれば連携はもっと楽になるはずです。

オオスズメバチはスピードと毒針が取り柄です。大きさだって私の3倍以上。オニヤンマは最高のスピードとホバリング能力があります。しかも大きさは馬なみ。タガメの魔物はとにかく大きくて見た感じではゾウくらいあります。しかもグロテスクです。私は一番苦手です。

「スピードのあるオオスズメバチとオニヤンマの魔物に対抗するにはもう一人隠蔽された方が良いですね」

みんなの結論は私の予想と同じでした。ちなみに師匠はご自分に強い隠蔽魔法をかけて笑っていました。



第3階層はたしかに強い魔物が出るのですが出現確率は低いので防御をしっかりすれば対応は可能です。

私は自分とマリアに隠蔽魔法をかけてソフィとロザリンドには防御魔法を張っていました。

索敵魔法はマリアが担当しソフィとロザリンドが攻撃担当でした。マリアも結構攻撃します。

私は黒子っていうの?良いポジションですね。

最終階層も師匠は見る専門でした。

安定して討伐できていましたから。

この迷宮の魔物は群れでくることがありません。それもFクラスの証です。

私が苦手なのはタガメの魔物ですが皆は速度もあって大きいオニヤンマの魔物が難しい感じでした。


ちょっとだけ苦戦したのが最下層のボス戦でした。

この迷宮はボス部屋はこの一か所だけです。

それだけに皆ビビッていました。いくらFクラスの迷宮だってボス部屋は強いはずですから。

ただ・・・クラリセ師匠はリラックスしていました。

生物的というか・・・有機的なデザインの扉を開けると・・・

既に巨大なタガメのボスがこんにちわしてました。

Eクラス以上の迷宮の場合はボスにはお供がいるらしいんですけど。この迷宮はボスだけ。楽勝?って一瞬思いました。

ところが・・・堅いんです。

堅くて硬い。

ダメージを与えられない。ダメージが小さい。自動修復もしくは回復もあるようで全然弱りません。

しかも敵の攻撃が重いんです。防御魔法を使う私には分かりました。

これには驚きました。

ただボス部屋なのに自由に出ることができます。つまり強いと思ったら逃げれば良いんです。Fクラスらしい仕様ですね。

マリアは自分の攻撃を諦めて補助魔法に専念していました。

魔法威力増大やロザリンドの身体能力増大です。

あまりにも効かないので私から心話で提案しました。

『了解!』

3人の返信がありました。

さぁ!ここから反撃です。


まずソフィの氷結魔法でタガメの大きな脚の付け根の関節を凍らせます。

そこにマリアの魔法で威力増強したロザリンドの炎熱斬撃魔法で一本ずつ切り落としました。

脚が無くなったタガメはただの大きな的です。

さすがの自動修復も大きな脚の復元は時間がかかります。

回復するまでに大きな威力でやや柔らかい腹部に強烈な魔法と斬撃で総攻撃しました。

私も内緒で光魔法で攻撃しました。

爆裂的な衝撃により腹部が破壊され堅い頭部への攻撃も通るようになりました。

それでヲワリでした。私の内緒の作戦成功です。

大きな魔石を胸部から得ることができました。

「やったね」

クラリセ師匠もとい教授もご機嫌でした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る