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予定時間になっても貢士からのアクセスはなかった。
「いったん撤収しましょう」
ゼロの声に信哉はモニターを見つめたままうなずいた。
「何かあったな」
「もう一人も昨夜“シティ”に入ってから活発に移動している」
信哉はためらうことなく寺岡の番号に直接電話をかけた。
寺岡は戸惑い気味の声で電話に出た。
「ノブさんですか? もう、東京に戻られました?」
信哉の胸に苦い思いがせりあがってくる。
「テラオカ、お前いまどこにいる?」
寺岡が沈黙する。
「言えねえよな」
静かだがいつになく怒気をはらんだ声に、そばで聞いていたゼロは息が苦しくなった。こんな話し方をする信哉は見たことがない。
ゼロは小声で伝える。
「藤崎さんは、たぶん苫小牧のストラクチャシステムに向かっている」
了解、と答えるように信哉は黙って片手をあげた。
「なあ、テラオカ」
「あ、はい……」
「もう一度会うからな。コージも一緒にだ」
「ノブさん……」
「ただし会うのは昔のままのお前と、だ」
「昔の、まま」
「そうだよ。また一緒にファミレスから逃げ出そうや」
そのとき、怒声としかいいようのない女の声が割って入った。
「あんたほんと! なんなのこれ! いい加減にしてよ!」
碧だった。信哉はそのまま通話を終了する。
そして、自分の横顔をじっと見つめていたらしいゼロに向き直った。
「というわけでコージの連れは無事だけどお願いが増えちゃった」
ゼロは、さっきの胸苦しさとは打って変わって、自分がどこか笑い出したいような気分になっていることに気づく。
「メンバーに連絡を取ります」
「メンバー?」
「ええ」と言いながら彼女は自分のシステムに向かう。
「あのストラクチャシステムの管制室に入ります」
「ゼロ、あんた――」
「ストラクチャシステムを最初にハックしたのは私たちです」
モニターを見つめたまま表情も変えずに言う彼女に、信哉は唖然とする。
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