女子のズボンを下げました
丸焦ししゃも
女子のズボンを下げました
小学生の頃は、本当に色んなものが流行っていた。
ドッジボールにフットボール。
テレビゲームにカードゲーム。
漫画にアニメ。
沢山の娯楽があったわけだが、私のクラスではとりわけ流行っているものがあった。
それは男子同士でやるいたずら。
“ズボン下げ”といういたずらはご存知だろうか?
男同士で体操服のズボンを下げるといういたずらだ。
これだけ聞くとつまらなそうに聞こえるかもしれないが、実際は非常に白熱するいたずらである!
背後を取られないように警戒し、見られてもいいようなパンツを履く。
男子は、このいたずらを機にブリーフからトランクス派に移行する
そして加減を知らない馬鹿はパンツまで下げてくる!
教室でポロンと晒した暁には、少なくても一週間は同級生の笑いのネタにされてしまうのだ。
当然、当時の私もそうならないように常に警戒して行動していた。
スパイ映画さながらに、背中を壁につけて廊下を移動したりするのだ。
そんな風に自分のズボンを守りながらも、視線は常に同級生の隙を探す。
油断をしているやつはいないか。
背中を見せているやつはいないか。
また、攻撃終わりを狙うと言った高等テクニックを用いたりもしていた。
某週間少年漫画の某ハンター試験みたいに“狩るもの”と“狩られるもの”の攻防が繰り広げられていたのである。
――小学五年生のある日、私は間違いなくハンターだった。
ちなみに現在はとっくに大人になってしまった私だが、その漫画の連載再開をずっと待ち望んでいる。
※※※
そんな同級生の隙を虎視眈々と狙っていたある日、大チャンスが到来した。
私は窓際のカーテンの内側で、後ろを向いておしゃべりをしている二人のクラスメイトを見つけてしまったのだ。
学校の窓際のカーテンといったらほとんどの人が、長くて風になびいているようなものを想像すると思う。
長いカーテンで上半身が隠れていて、誰かはよく分からなかった。
もうね、馬鹿めと思いましたよ!
サッカーで言うなら、キーパーを抜いてボールを蹴るだけの状態。
テニスで言うなら、ロブが上がってスマッシュを打つだけの状態。
ポケモンで言うなら、HPがミリ残りでモンスターボールを投げるだけの状態。
そう、私は完全に勝利を確信したのである!
「うりゃー!」
私は、そのカーテンの内側の一人のズボンを思いっきり下げた!
もちろん攻撃終わりの隙を狙うヤツの警戒は怠らずにだ!
「きゃーーーー!」
教室に女子の声が響き渡ってしまった。
その後のことはよく覚えてない。
覚えているのは、ズボンを下げた女子の名前が渡辺さんだったということ。
次の日の私のあだ名がハンターではなく“勇者”になったということ。
職員室で「女子のズボンを下げました」と供述させられたということ。
そして、渡辺さんのパンツは肌色だったということだけだ。
馬鹿は完全に私だった。
加減を知らない馬鹿も私だった。
この件がきっかけとなり、暗黒の小学校時代を過ごすことになってしまったのは容易に想像できるだろう。
※※※
この話にはほんの少しだけ続きがある。
小学校を卒業してからは完全に渡辺さんと疎遠になった私だが、二十歳を過ぎてから友人の結婚式で再会することになった。
当時は致命傷だった話も、大人になるとただの笑い話になる。
私と渡辺さんのその話も、ただの笑い話として大いに盛り上がった。
……結婚式の帰り際、渡辺さんは私にこんなことを言ってきた。
「もっとお話したいから、今度食事にでもいかない?」
「えっ、大丈夫っす」
私はそう即答してしまった!
渡辺さんの真意は全く分からないが、チキンハートな私は彼女の提案をあっさり断ってしまったのだ。
暗黒の小学校時代を過ごしたせいで、普通に話すことはできても圧倒的に異性に慣れていなかった。
いや、今考えると普通に話せていたかも怪しい!
創作なら「その後、渡辺さんと付き合うことになりました。めでたしめでたし」できっと終わるのだろう。
だが、現実は絶対にそうならないのだ。
今思えば、恋愛とかは抜きにして、ズボン下げの謝罪をできた最後のチャンスだったかもしれないのに……。
もう何年も前の話だが、今でもたまにそのことを思い出すときがある。
誰か当時の私のことをぶん殴ってくれ。
女子のズボンを下げました 丸焦ししゃも @sisyamoA
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