第4話 やっと会えた

 土曜日。岡田君の現在を知っているという人に会いに、桃ちゃんの実家にお邪魔していた。手土産を彼女のお母さんに渡した後、彼女にある部屋に案内された。

「ここに岡田君っていう人の現在を知っている人がいるので、どうぞ」

 そう言って桃ちゃんがドアを開けた。そこには。

「えっ!」

 岡田君がいた。高校生の時より大人になっているけれど、雰囲気はそのままだった。

「お、おかだくん?」

「はい」

 彼の言葉はとげとげしかったけれど、ずっと探していた彼にやっと会えて嬉しくなった私は思わず泣いてしまった。

「どうぞ」

 桃ちゃんがティッシュを差し出してくれた。それにお礼を言って受け取っていたら、彼女が私の背中を押した。

「しばらく私も母さんもこの部屋に近づかないから。ちゃんと話し合ってよね」

 そう言って私を部屋に入れた後ドアを閉めた。


「……」

「……」

「……」

「……」

 気まずい。久しぶりに会えたのに、私は泣いてしまったし岡田君はこちらを見もしない。でも、せっかく会えたのだから今できる最善のことをしようと決めた私は口を開いた。

「岡田君、久しぶり。高校生の時はごめんなさい」

「何が?」

 返事が返ってきた。すごい怒りがこもっているけれど。

「連絡するって言ったのに結局連絡できなくて。言い訳みたいな本当の事なんだけど、あの後紙を池に落としちゃって。追いかけたけどもう帰ってたし、他の人に聞いたけど、みんな連絡先も家も知らないって言うし。先生は、個人情報だから教えられないって。高校卒業後もずっと探してたの。大学に入ってたくさんの大学のSNS見たり、同じ大学の人に写真見せて知らないか聞いたりしたの。でも収穫なくて。ずっと謝りたかった。ごめんなさい」

「……。あのさ、写真―」

「あ、勝手に見せてごめん。嫌だった? そこまで頭回らなくて、ごめん!」

「いや、そうじゃなくて。いつの?」

「3年の文化祭の時のです」

「持ってたの?」

「うん。お守り代わりというか、いつか会えるかもって希望をもって持ち歩いてました」

「会いたかったの?」

「うん。ずっと好きだった。会って謝りたかったし、好きって言いたかった」

 そう言った私はまた泣いてしまった。桃ちゃん、ティッシュくれてありがとう、と思いながら涙を拭いた。

「上柿さんは先輩に告白して振られたんじゃないの?」

「えっ、知ってたの?」

「うん。すごい広まってたから、そうなんだって」

「まじか。あれ、嘘だよ。告白するわけないもん、ずっと岡田君が好きだったから。岡田君って噂とか興味ないのかなって思って耳にしないと思って訂正してませんでした」

「そう。ま、僕はそれで気持ちに蓋したけどね」

「えっ?」

「僕も好きだったよ。でもイケメン先輩に振られたって聞いて、上柿さんが好きになるのはああいう人なのかって。でも好きで元気になってほしかったから元気づけようとしてたけど」

「あ。その噂が広まった頃から急に態度変わったのってそういうことだったの?」

「そうだよ」

「って、ちょっと待って。私のこと好きだったの?」

「うん。卒業式の時連絡先聞かれて諦めなくて良いんだって思ってたけど、連絡来なくて。どうでもよくなったのか、とか、最悪のこと考えて罰ゲームだったのかな、とか。悲しくて悔しくて。大学も必要最低限しか行かなかった」

「え、そんなことない! 聞きたくて聞いたの。そこは誤解しないで」

「ん、分かった」

「今は何してるの?」

「ゲーム配信で稼いでいる。就職したくなくて」

「待って。めっちゃ人生変えてるじゃん。本当にごめんなさい」

 そう言って私は土下座した。そうしたら、岡田君が私のそばに跪いた。

「土下座しないで。大好きなゲームが毎日できて、それで生きていけるくらい稼いでいるから。それなりに幸せだよ」

 そうは言っても。私がちゃんと紙を持っていたらこうならなかった。楽しい大学生活を送れたのかもしれない、就職だってゲーム会社とかゲーム関係の職に就けたのかもしれない。そうしたら、それなりの幸せではなくて、すごい幸せになったのかもしれない。そう思ったら謝らずにはいられなかった。

「もういいよ。大学生になったばかりの頃はそれなりに荒れてたけど。ゲームあったし大丈夫。それにこの前妹から上柿さんがどれだけ後悔しているか聞いたし。ずっと探していることも聞いた。ずっと探してくれてありがとう。昔の事ちゃんと教えてくれてありがとう」

 そう言って彼は私の涙をぬぐってくれた。


 しばらくして落ち着いた私は、岡田君にこう言った。

「人生変えた責任を取らせてください。これから岡田君を幸せにします。あなたに好きな人ができるまで、または恋人ができるまで。私にできることは何でもします。お申し付けください」

「気にしなくていいのに。というか気にしてほしくない。罪悪感あるんだろうけど、感じてほしくない」

「どうして?」

「罪悪感で僕のそばにいてほしくない。僕のそばにいたいからそばにいてほしい。願わくば今の僕を知って僕を好きになってほしい。僕はまだ上柿さんが好きだから」

「あんなひどいことしたのに?」

「うん。ずっと忘れられなかった。僕が高校時代文化祭も体育祭も参加して楽しい思い出たくさん作れたのは君のおかげだし。最初は嫌いになろうとしたけど、上柿さんのこと考えるたびに、やっぱり好きだなって思った。そう簡単に初恋は忘れられないんです」

「ありがとう、ありがとう。岡田君がいいよ、って言ってくれるならそばにいたい。私も好き。初恋は簡単に忘れられないって本当だね」

 そう言ったら岡田君が私を抱きしめてくれた。彼を抱きしめ返したら、彼がこう言った。

「付き合って」

 私はまた泣いてしまったので彼の腕の中で何度も首を縦に振ったのだった。

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