第3話 どこにいるの?

 やってしまった。過去の自分を恨みたい。


 卒業式の後、岡田君が帰る姿が廊下から見えたので慌てて追いかけて連絡先をもらった。その後1分も経たないうちに、絶望を味わっていた。彼の連絡先が書かれた紙を池に落としてしまったのだ。好きな人の連絡先をもらったと浮かれていたせいだ。拾ったけれどぐちゃぐちゃになっていて読めなくなっていた。慌てて校門に戻ったが彼の姿は見えなくなっていたし、駅まで走っていったがもう岡田君はいなかった。


 その後校舎に戻って同級生や部活仲間に岡田君の連絡先を知っているか、家を知っているか聞いたものの、誰も知らなかった。最終手段で先生に聞いたものの、個人情報だから教えられない、と言われた。まあ、当たり前か。


 そのため、せっかく岡田君の連絡先をもらったのに数分後にはそれは夢だったように思った。


 大学生になって岡田君のことを探したけど見つからなかった。どこの大学に進学したのか分からなかったので、様々な大学のSNSなどを見て彼が映り込んでいないか、大学の友人たちに彼の写真を見せて知らないかどうか尋ねた。それを4年間続けたものの収穫はなかった。


 彼ともう2度と会えないかもしれない。そう思ったらあの時の自分を恨んだ。なぜすぐにポケットに入れなかったのか。なぜもう少し落ち着けなかったのか。後悔しても仕方ないけれど、そう思わずにはいられなかった。


 就職してからも彼を探し続けた。でも、全く見つからず手がかりも見つからず諦めかけていた時、ある配信者に出会った。心が荒んでいた私は、彼の配信で心を落ち着けることができた。彼の名前は『ほっと』。誰かのほっと一息つける配信をしたいとのことらしい。彼の声は落ち着いていて、ゲーム中も叫んだり騒いだりすることはほとんどなく、見ていてほっとする配信ばかりだ。彼の配信を見ることで岡田君が見つからなくても心が落ち着くようになった。


 就職して3年。ある新人の教育担当になった。彼女の名前は岡田桃。はきはきしていて仕事もきちんとこなす社員だ。ある時彼女も『ほっと』のファンであると知った。そのことで意気投合した私たちは、会社外では先輩後輩というより、友人関係になった。そしてよく昼食や夕食を共にするようになった。


 ある日、疲れていた私はお酒も飲んで普段言わないようなことを言ってしまった。

「桃ちゃんはさ、後悔とかある?」

「ありますよ。22年も生きていれば」

「恋愛の後悔は?」

「うーん、ないです。その時そのときで、後悔しないような最善の選択をしてきたので」

「そっか、素敵だね」

「千佳さんはあるの?」

「聞いてくれる?!」

 そう言って勢いよく顔を上げた私は、岡田君のことを話したのだった。

「そうなんですね。そんなことが。ちなみに私も苗字岡田ですけど、家族かも、とか思わなかったんですか?」

「最初はね、岡田さん?! って思ったよ。でも岡田さんって日本にいっぱいいるじゃない。だから、違うかなって。もう諦めてたからさ。これで違ったら、もうしばらく立ち直れなくなりそうで聞かなかったの」

「……」

「あれ? 桃ちゃん?」

「あ、ごめんなさい。あの、次の土曜日って空いてますか?」

 そう聞かれた私はスケジュールを確認して、空いてるよ、と答えた。

「じゃあその日空けておいてください。会ってほしい人がいるので」

「会ってほしい人?」

「はい。知り合いがその岡田君って人のことを知っているかもしれないので」

「ほんと?!」

 もしかしたら岡田君に会えるのかもしれない。謝りたい。そして好きだったと言いたい。ずっと思っていたことが現実になるかもしれなくて、私は桃ちゃんの肩を勢いよく掴んでいた。

「はい。私の実家に呼んでおくので来てください。最寄り駅まで迎えに行きますから」

「ありがとう! 今度何か奢らせて!」

 そして、彼女の実家の最寄り駅を聞き、午前10時にお家にお邪魔することになった。


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